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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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恵美押延の最後

 長い戦いが終了した。結果としては瞬の二勝。当初はどうなるかと思ったが、最終の料理で文句なく勝利を手にすることができた。それは『龍麺』の凄み。フランス人をも唸らせる『旨味』の勝利であった。

 瞬はたすきをゆっくりと外す。そっとその肩に手を乗せる敬忠。瞬は無言で笑みを返す。

 一方『極喰無尽』の方と言えば――茫然自失となる恵美押延を尻目に、その手下たちは如何にしてよいかオロオロとするばかりであった。

「.........」

 無言で甲板を見つめる恵美押延。視線もまた、甲板に。

『ロプレザンタン恵美の料理も素晴らしいものであった。さて、私の役目は終わったようだ。部下をおいていくのであとは――』

『そうはいかぬ』

 恵美押延が突然そう言い放つ。強い語気。今までにない物言いにムルソー准将は眉をひそめる。

『今更、『極喰無尽』の活動を停止するわけにはいかない。ならばどうするか――』

 そう言い捨てると、恵美押延は走り出す。船の後方、何やら鍵で扉をこじ開ける。中にはいくつもの歯車。それを器用に右へ左へと回転させる。

『この船ごと、消えてもらおう。私の邪魔をするものも、それをみとどけたものもすべて』

 少しの沈黙の後に、大きな回転音が甲板に響き渡る。船が揺れる。ムルソー准将らは尋常ならざる状況に驚き退船を試みようとするのだが、足元がおぼつかない。対馬守はムルソーの部下が取り落したサーベルを杖に必死に堪える。敬忠は瞬に覆いかぶさるようにしてその身を守ろうとしていた。

 そして――爆発音と火柱がいくつも甲板から上がる。人々の悲鳴がそれに続く。

「あの野郎!派手にやりやがって!」

 対馬守がそう言いながら、恵美押延の所在を探す。甲板の上にはもういない。

「対馬守さま!あちらに!」

 瞬の声。指示された海の上を見ると小舟が数隻漂っていた。その上に腕組みをしてこちらを見つめる恵美押延の姿が。

「まだあちこちに『極喰無尽』のリソースは隠してある。ムルソーとの関係が切れるのは痛いが性があるまい、捲土重来をはかりて――」

 対馬守が宙を舞う。あろうことか甲板から海に向けてその身を翻したのだ。そして、小舟が大きく揺れる。

「外道!逃がすかよ!」

 着地と同時に、サーベルが抜き放たれ袈裟に恵美押延に浴びせかける。返す刀で手下たちも――

 あまりの出来事に固まる恵美押延。右手で胸のあたりをさすると、手にべったり血がつく。

「ああ......そんな......私は......ここで.....死ぬ......おかしい......」

 声にもならぬ悲鳴を上げながら、恵美押延はたっと崩れ落ちる。

 対馬守はサーベルを収めると、船を見上げる。崩壊し始める船体。すでに傾いているようにさえ見えた。火の粉が頬に舞って、赤く肌を染めていた。


 

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