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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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奇跡の調合

 瞬の差し出す椀から立ち上がる湯気。吸い物らしく、その表面には薄切りの牛肉らしきものがいくつも重なっていた。

 フォークを器用に操り、その肉を口に頬張る。

『ふむ......』

 先程のステーキにも負けず劣らないほどのジューシーさ。しかしこちらの方は温い。温みがある。

『焼き方はレア。スープの上に張ることにより、肉はほのかな温かみを保つことができます』

 風吹きすざぶ船上。どうしても体が冷える。先程の恵美押延のステーキはこれ以上ないできではあったが、どうしても食べる過程で冷えてしまうのはどうしようもないことであった。しかし、瞬の肉は違った。それだけでも果報というものだろう。

 そして食べた肉の下のいスープからは、麺らしきものが顔をのぞかせる。

『パット(パスタ)......?』

 フォークで巻いてゆっくりと口に運ぶムルソー准将。少なからぬスープが滴り落ちる。

 目を閉じ何かを考え込むムルソー准将。

 声が出ない。

 そして無言のまま、スープを口に運ぶ。

『旨い.....!!』

 椀に口をつけてそのまますする。そして、麺も一緒に。

 呆然としてその姿を見つめる恵美押延。瞬の方を向き、問いただす。

「いかなる......秘策を用いた!スープはフォンか?それとも何か特殊な具材でも......」

 瞬は静かに首を振る。

「特殊なものは何も。あえて言うのであれば、このスープは『龍麺』とほぼおなじ味付けです」

「ばかな!なぜ、そんな和風な味がムルソーにわかるというのか!」

「確かに味の好みはその文化、生まれた国によりにけりだと思います。ただ、結局は同じ舌を持った人間。うまいものは万国共通うまいはずです」

 懐から紙を取り出す瞬。それを皆の目の前に開き見せる。そこには細い筆でいくつもの文字と数字が書かれていた。

「龍麺、そのスープは極めて微妙に作られています。昆布だし、鰹節、サバそして醤油......それ以外にも様々な食材を組み合わせこの味にたどり着きました。それはこのラーメンを求める敬忠さまのため。江戸の味になれた敬忠さまにどうすれば『令和』の味を感じてもらえるか――それだけが私の目標でした。そして、わかったのです。『絶対』的な旨味を持った調合を」

 『絶対』的な旨味の調合。初めて聞く単語であった。

 それは僅かな数値の違いにより、味が破綻してしまうほどの調合であった。

「もし歴史を超えて旨味を感じる調合であれば、それは国の違いをも超越することのできる、そのような味付けができるのでは――だからこそ私はこの料理をムルソー提督にお出ししました。『龍麺』を!」

 瞬の大きな声に押される恵美押延。さらに、その詳細が語れらることとなるのであった――

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― 新着の感想 ―
[良い点] これまでの積み重ねが実を結んだ小説のハイライトではないでしょうか。 人々の思い、人々への思いすべてが生きて一杯の龍麺になった感じがします。
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