本性
「なんら驚くことではない」
恵美押延が口を開く。
「フォアグラはガチョウを人為的に太らせて、脂肪を増やした肝臓を食材としたもの。風味の違いはあれど、この『日本』で作ることは可能だからな」
「確かに。ではトリュフは......?」
敬忠の問いに、恵美押延はこともなげに答える。
「トリュフはこの『日本』にも自生しているのだ。ほんとに僅かな数ではあるが」
そう言いながら小さな白い小瓶を指で掲げる。
「茸の一種である以上、それを人工栽培することは難しくはない。人工栽培、という発想自体ができるかどうかが一番の問題なだけで」
多分白い小瓶の中にはトリュフの菌糸が入っているのだろう。
「このような方法で私は『極喰無尽』の宴席に出す食材を確保してきた。おのれらのような、ただ漠然とこの世に生きておるものとは違うのよ!」
恵美押延はそう喝破した。
「一つ問いたい」
それまで黙っていた対馬守が口を開く。
「不快この上ない。しかし、なあ。押延とやら、何がおめえをそこまで動かす?十分すぎる富は築いたはずだ。黙ってりゃぁ『令和』とやらの世よりもいい生活ができるだろうに」
対馬守が話し終わるまもなく、きっと恵美押延が対馬守を睨む。
「いい生活だと......」
それまで自身に満ちていた恵美押延が豹変する。体を震わせ、吐き出すように大声を張り上げる。
「この時代で......いい生活など......いいか!おれは『令和』の人間だ!七十歳までは生きて当然な人間なのだ。それが、抗生物質もなければCTスキャンもない。癌になれば抗がん剤どころか外科手術もすることのできない、こんな時代でいい生活などできるわけがなかろう!」
対馬守は個々の語句は理解することができなかったが、あることを察する。それは恵美押延がこの時代を異様なまでに嫌っているということを。
「だから、金が必要なのだ。私の頭脳には様々な知識が入っている。金の力さえあればこの時代にある程度の医学を発展させることができるかもしれない。死にたくないのだ、『令和』の世ならば大したことのない病で。そのためには私は何でも利用する。このような野蛮な世界で......死にたくはない!」
しんと静まる甲板。ムルソー准将や船員など日本語を解さないもの以外はただ、恵美押延の方をじっと見つめていた。恵美押延の手下たちもまたしかり、である。
「かわいそう、とも思いますが同情はしかねます」
瞬がその沈黙を破る。
「最後の料理で、あなたの考えを否定したいと思います」
すっと、大きな椀をムルソー准将に差し出す。それが瞬の最後の料理になるはずであった――




