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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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存在しないはずの高級食材

 とうとうその時がやってきた。メインディシュとしての牛肉料理。

 ここまでの判定としては瞬のほうがやや有利であるが、この印象によって最終的な結果が決まってしまうこともありうる。ましてや相手は恵美押延。いかなる奇策を用いてくるか予想もつかない。

 瞬の指示で鍋を煮る敬忠。『焼き物』の調理ではあるが気にはしない。瞬の料理にすべてを託していた敬忠であった。瞬は小麦粉をこねまわしていた。

「肉の部位はヒレ肉の一番脂の少ないところをつかう」

 恵美押延の指示に戸惑う手下たち。ステーキを焼くのであれば、脂がのっていないとパサパサするのではという懸念である。

「問題ない。並行してフォンを作るように。ワインを加えてな」

 肉をフライパンで焼き上げる恵美押延。火の通りは究極のミディアム。表面は強火で、中は熱が伝わる最低の加熱で。


『終了!』

 メインディッシュの終了を知らせる合図が号砲とともに宣言される。

 両手で皿を掲げる恵美押延。白い皿の上には、白い塊がのせられていた。そしてそれにまるで落ち葉のように黒い葉のようなものがソースとともにかけられていた。

(白いステーキ......?)

 敬忠は訝しがる。フランス料理のメインディッシュといえば肉のはずだ。ましてや牛肉料理、白い色の肉などあるはずがない。

 ムルソー准将はそっとナイフを入れる。すっ、と切れ目が入り二つに分かれる白い塊。しかし中から現れたのは赤身の牛肉であった。肉汁はほとんど出ないが、赤身からそっと湯気が立ち上る。

『そのソースを黒いチップにからめて、白い塊ともに肉をお食べください』

 恵美押延の指示通りに食するムルソー准将。口の中にそれを含む。

 ――動きが静止する。そして、しばらくの時間の経過の後に上を向くとまた、残りの塊にフォークを伸ばす。そして一口――また動きが静止する。

 そしてぼそっと声を発する。

『セテ エクセロン(最高だ)......!』

 瞬は当然その言葉の意味を知っていた。恵美押延は目を閉じながら腕を組んでいた。

 敬忠ははっと思い当たる。『令和』の時代に見たグルメ番組。

『これは贅沢ですね!ステーキにフォアグラをのせて、ソースはトリュフですか!』

 テレビに写っていたのは、まさにその――

「牛ヒレ肉のロッシーニ風――とってもメジャーなフレンチですね。三大珍味の二つが使われているというだけでも壮観です。何よりすごいのは、そのブランドを知らないムルソー提督がその美味さにうち震えるくらいの料理ということです。そして、この『日本』でフォアグラとトリュフを用意できる恵美押延の存在も――」

 ようやく恵美押延は目を開く。そして、じっとその目は敬忠らを見つめながら――



 


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