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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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濃厚の妙

『何という濃厚さ、いやそして一方でこの澄み切った味は......』 

 皿をしげしげと見ながらムルソー准将はそうつぶやく。

『是非もございません。スープの基本はばら肉、もも肉そしてすね肉のいいところのみをげんせんして使っています。さらに、香味野菜を中心にそれをじっくりと合わせ......通常であれば野菜と一緒にポトフとして出すのだが、あえてスープの液体のみをガーゼで裏ごしました。ただ、液体としての味を楽しんで頂くだけのコンセプトです』

 恵美押延の朗々とした説明に、ムルソー准将はただ頷く。恐るべし、恵美押延。素材のみでこれほどの味を引き出せるその料理の腕と自信。敬忠はそう思いながら瞬の方を見やる。問題ない。それ以上の力を瞬殿は発揮してくれるはずだ、と固く信じながら。

 瞬の椀が差し出される。椀の蓋を取るムルソー准将。ややくすんだ色のスープに浮かぶ塊。鼻を近づける。臭みはない。一口くちに放り込む。

『むぅ......』

 何度も椀に伸ばされるスプーン。あっという間に椀が空になる。

『食べたことのない肉の感触。これは?』

『内臓、いわゆる”モツ”でございます』

 瞬の説明。

『基本、スパイスは用いません。醤油を味付けに使い、ただ食材のみを煮込むだけ。二時間の時間制限では到底、できるものではありませんがすでに下ごしらえをしたモツが『ありましたので』』

 恵美押延の方を向き微笑む瞬。恵美押延はあっ、と声を漏らすと瞬の方をにらみつける。

「あの食材......私が先日下ごしらえをしたもの......」

「ちょうどいいタイミングでした。あるものは使っても構わないという話でしたので」

 その食材に気がついたのは敬忠であった。木箱の中にガーゼで包まれたグロテスクな肉片。それが内臓であることに気づき、瞬に相談する。

「下ごしらえが良かったので短時間の煮込みでも十分、素晴らしい煮込みができました。感謝です」

 そう言いながら瞬はムルソー准将の方を向き直す。腕を組み何やら考え込んでいるムルソー准将。オードブルと八寸、スープと椀物の評価を感がているようだった。

 少しの沈黙の後に、すっと立上がり右手には恵美押延の牛タンの皿、左手には瞬の椀が握られていた。

『牛タンの煮込みはまったくもって鮮烈な味であった。牛肉の山葵巻きも悪くはないが、これに比べると深みに欠ける。一方椀物では、もつ煮のほうが味の純粋さを感じた。確かに野菜と肉のスープは悪くないが、あまりに繊細すぎる』

 お互い一勝一敗。いや小前菜で瞬が勝っているので、まだ瞬の側がリードしているというべきか。このあとはソルベを省略して、肉料理アントレそして焼き物。すなわち牛肉勝負のメインディッシュが待ち構えていたーー

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