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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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オードブルと、八寸と

 次なる恵美押延のメニューはオードブルとスープ。瞬は八寸と椀物ということになる。

 ここでも料理の素材となるのは牛肉。スープや吸い物の前に、食欲を増進させるような味の濃い味付けが期待されるところである。

 まずは恵美押延のオードブル。白い皿の上には四角い物体が。黒いソースが少しかけられていた。

 フォークでムルソー准将がそれに触れると、小さく震える。

 口に運ぶムルソー准将。

 ゆっくりと噛み、味を確かめる。

『ふうむ......!』

 とろけるような肉質。そしてあまりに芳醇なその味。

『牛タンの赤ワインーーマディラ酒煮込みです。当方『極喰無尽』ではいつでもお出しできるように、牛タンを煮込んだものを毎日『食材』として用意しております』

 白々しい恵美押延の説明。それでは時間制限の意味がなくなってしまう。煮込み料理で競われては、敬忠は瞬はあまりに不利であった。

「まあ、なんとなく予想は付きましたが。相手の陣地で戦う以上、これくらいの不利はしょうがないかもしれませんね」

 瞬が諦め顔でそうつぶやく。うなずく敬忠。

 そもそもが不利な勝負。それを前提としてどう不意をうつか、そのあたりが肝要とーー

 一方瞬は木の皿に盛った一品、八寸である。丁寧に薄く切られた牛肉と、その隣に盛り付けられた明るい緑色の調味料。

『その調味料を肉に巻き込んでゆっくりとお食べください』

 そのようにムルソー准将は食する。

 途中、表情が止まる。そしてごくんという飲み込む音。

 一枚また一枚。あっという間に皿が空となる。

『不思議な感覚だ。圧倒的な辛味があったかと思えば、そのあとに香草的な清々しさが通り過ぎる。これから食を楽しもうという舌が、いい意味で蘇生された気分だ』

『山葵ーーでございます。日本の西洋わさび(レフォール)。ローマ人も親しみ、ドイツ人なども好んで使う調味料』

『なるほど。牛肉との相性がぴったりである。先程の醤油?も』

『はい、牛肉に軽くまぶしております』

 瞬の説明。

『次なるはスープを』

 恵美押延がそう促す。皿にもられた僅かなスープ。色も殆どついていない。

 スプーンでそれをすくって口に運ぶ。一口。

 少しの間の後、スプーンを置き皿のまま、口につける。ぐうっと飲み干すムルソー准将。

 その顔には恍惚として満足した表情が浮かんでいたーー

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