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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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小前菜(アミューズ・ブッシュ)と先付の対決

 最後の砲声がなる。三番勝負の最後を告げる空砲である。

『そこまで!』

 珍しくムルソー准将が立ち上がり、声を上げる。最初は落ち着いていた彼も、戦いここに至って高調しているようであった。

『今回は複数の料理があるゆえ、一品づつ交互に試食させていただく。まずは第一の皿をーー』

 瞬と恵美押延が皿を掲げ、ムルソー准将の前に差し出す。テーブルの上に並ぶ二つの皿。

小前菜アミューズ・ブッシュでございます」

 そうフランス語で恵美押延が説明する。白い皿にのせられた小さなゼリー状の塊。そこには何やら緑色のソースと小さな花が添えられていた。

 一方瞬の黒い皿の上には同じくゼリー状の塊がのせられていた。ただ、恵美押延ものとは違いそれだけの料理である。

「先付けにございます」

 おなじくフランス語で説明する瞬。

 両方の皿を見比べてムルソー准将は首をかしげる。

『いずれも似たような料理であるな。ロプレザンタン恵美のもののほうが見た目は華やかでは有るが』

 スプーンでそっと、恵美押延のゼリーをすくうムルソー准将。口の中に入れる。その次の瞬間、表情が変わる。

『これは......』

 口の中に広がる香辛料の風味。それを追いかけるようにとろっとした濃厚な牛のエッセンスが口の中に広がっていく。

 普段食べている羊や豚とは全く違う牛肉の風味。この時代、ヨーロッパ人と言えども牛肉を属する習慣はまだないはずだった。初体験とも言える牛肉の旨味に恍惚となるムルソー准将。それを満足そうに見つめる恵美押延であった。

「バラ肉のバヴェットを丁寧に下ごしらえし、旨味を極限まで閉じ込めた煮こごり(アスピック)だ。まずかろうわけもない。牛の脂質も味わいつつ、初めて食する獣肉に対して抵抗がないように香辛料をギリギリのラインで使わせてもらった」

 誇らしげに説明する恵美押延。しかし、瞬はそんな恵美押延にたいして全く意に介さない。

 今度は瞬の皿にスプーンを伸ばすムルソー准将。同じようにそっと口にゼリー状のものをふくむ。

 表情に変化はない。もう一口。そしてーー

 スプーンを落とす音。ムルソーの顔色が変わる。

『......!!』

 無言で瞬を見つめるムルソー准将。瞬が口を開く。

『これは『醤油』、大豆を発酵させたソースで味をつけた牛肉の煮こごりです。それ以外にもいろいろな旨味調味料を配合しましたが』

 なに!と恵美押延が声を上げる。

「あなたは、牛肉の『臭み』を消すことに意識がいったようですね。それはそれで正しい方向せいかもしれません。でも私はーー牛肉の『旨味』をさらに強調する方向の料理を考えました。醤油と牛肉の相性は極めて良い。明治時代に牛鍋が抵抗なく日本人に広がったのも醤油の力だと思います。いかがですか、ムルソー提督」

 日本語ではあるが、状況を察するムルソー准将。

 彼の頷きは、瞬の料理が優れていることを証明していた。

 一皿目、まずは瞬の勝利で終えることとなるーー

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