最後の料理勝負
三番勝負、最後の一戦は制限時間が倍と宣言される。つまり二時間の調理時間である。テーマは”牛肉”。それに先立って、恵美押延が提案を行う。
「せっかく最終戦までもつれたのだ。今回は一品料理ではなく”コース”の料理にしないだろうか。お互い全力で余すところなく戦いたくないか?」
ペロッと舌を出しながらそう話す恵美押延。何かの企みーーと思いつつも、敬忠と瞬は視線を合わせそして頷く。ここまで来たら、もう流れに身を任せるしかない。
そして戦いが始まるーー
「牛肉か」
そう敬忠がもらす。令和の世では一般的な食材。もっともそれは輸入の牛肉から国産の最高級の和牛までいろいろな種類のものがあったが。
「この時代、フランス人といえどもまだ牛肉を食材として食べてはいないはずです。まあ日本と違ってそれ以外の肉食ーー羊や豚などを食べる文化は一般化しているのでその点で『極喰無尽』の得意とする『フランス料理』は、ムルソー提督の味覚に合致するものだと思います」
瞬の説明。二回戦はムルソー准将の”故郷の味”を突き止めることによって勝利したが、今回はそうも行かない。何しろムルソー准将が食べたことのない食材をフランス人好みに仕立てろといっているのである。
「多分恵美押延は正統派のフランス料理のフルコースーーに準じたものを時間内で作ってくるでしょう。それに対抗する方法はーー」
そっと瞬が敬忠の右手をとる。
「あなた様が美味しいと思うものを作らせてください」
じっと瞬が敬忠の目を見つめる。
「僅かな時間ですが、瞬はこの世界で初めて安堵する時間を過ごすことができました。身に余る厚誼もかけていただきただただ感謝しています。敬忠様の希望された『ラーメン』もほぼ完成し、もう私にできることはないと思います。そして恵美押延に勝つ方法もいまいちもう思いつきません。せめて最後はーー敬忠様の好きなものをお作りして終わりを迎えたいとーー」
「そうか」
敬忠は瞬の言葉にそう答える。
「ならばーーこの戦いは私が考えよう。私が今までこの世界で生きてきた思いを込めて。そして令和のときの思いも込めて。瞬殿は私の考えた料理を作ってくださるか?」
はい!、と満面の笑みと少しばかりの涙を浮かべて瞬が答える。
それが最良の解であるかはわからない。しかしそうすることが、二人にとって最も素晴らしいことであるように思えた。そしてもしかしたら、恵美押延に勝つことのできる唯一の方法であるようにもーー
両手を握りしめ頷く二人。
最後の調理が今、始まろうとしていたーー




