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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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ブルターニュ料理

「私の作ったものはブイヤベースであるとともに、北フランスのブルゴーニュ地方で食べられているコトリヤードと呼ばれる料理です」

 そう言いながら鍋を示す瞬。恵美押延のものとは違いスープが白く濁っている。

「主な特徴はバターをふんだんに使うこと。このようなブイヤベースの形式がムルソー提督の時代に確立していたかどうかはわかりませんが、この料理の中にムルソー提督の故郷の味のいろんな要素があるのは間違いないと思います」

 さらに、魚の頭を見せる瞬。

「なので魚も地中海で取れるような魚ではなく、北海で取れるような小型の青魚や白身の魚を中心にしてみました。全体に塩味はやや強めに。日本でも北の地域は塩分が高いのが特徴ですから」

 瞬は同じ内容をフランス語に翻訳し、ムルソー准将に説明する。

 理解したのか、ムルソー准将は”完璧だ(セテ パッフェ)”とつぶやき小さく拍手をする。

『我がふるさとはパリより離れた田舎の地。しかしそこには誇りがある。かつてはフランス王国から独立した国であり、さらに古くはケルトの文化の流れも汲んでいる。南の連中の料理をもって、”フランス料理”と呼ばれるのは確かに遺憾であるな。我が国は皇帝陛下のもと、国民国家としての道を歩んでいる。中央集権的な傾向が強いが、陛下とてコルシカの島出身のイタリア人だ。そういった意味で、多様な地域の文化を認めていただけるのはこれにまさる喜びはない』

 ムルソー准将の述懐を忌々しげに恵美押延が受け止める。恵美押延の初めての敗北。『極喰無尽』の宴会でもそのようなことは言われたことがなかった。

「ふん、たまたまの結果よ。たまたま田舎の味にムルソー提督が反応しただけのこと。まだ戦いは一つ残っている!さあ、早く札を!」

 最後はフランス語でそうまくしたてる恵美押延。船員が慌てて札を拾い上げ、それを皆の前に提示する。そこに書かれていたものはーー

牛肉ヴフ』と記されていた。

「牛肉......」

 敬忠がそう繰り返す。この時代には食用とされていない種類の肉である。牛はあくまでも農業用の家畜で、それを食する習慣はない。

 一方、この時代のフランスはどうかというとあくまでも肉は羊や豚の肉であり、牛肉が一般的になるのは冷凍技術が確立してからが一般的である。

 先程は故郷の味で負けてしまった恵美押延であるが、今度は抜かりがない。牛肉を使用した最高の”フランス料理”で挑んでくるだろうことは予想できた。

 一方瞬はーーどんな料理でこれに対抗することができるのだろうか。

 大きく、最後の戦いの開始の号砲が鳴らされたーー

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