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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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白いブイヤベース

「では、そちらの番ですぞ」

 いじわるげに恵美押延がそう薦める。瞬が小さな両手で皿をそっとテーブルの上に載せる。ムルソー准将は腕を組んだまま、それをじっと見つめていた。

 スープの色――恵美押延のものは黄色みがかったものだったのに、瞬のものは白さが目立つ。魚も先ほどの皿に比べると小ぶりであまり豪勢とは言えない。

 興味なさそうにフォークを小さな魚の切りに身に突き刺し、口に運ぶ。興味なさそうに口の中で咀嚼する。

 しかし

 その動きが止まる。しばしの沈黙。

「――貴様ら!まさか毒を!」

 恵美押延の剣幕に船員たちも瞬を凝視する。

『......マテ』

 それを制止するムルソー准将の絞りされるような声。

 皿を両手で持ちそれをじっと見つめる。

『これは......これは......』

 皿を持ちながら、別な手で手づかみで料理を口の中に放り込む。大きな咀嚼音。そしてスープまでも皿ごとに一飲みに――

 どぉん、といすに座りこむムルソー准将。なにかに惚けに取られたように虚空を見つめる。

「やはりなにか薬を持ったようですね――」

『そうではない』

 日本語を解さないはずのムルソー准将が状況から、恵美押延の言葉を否定する。

『これこそが私にとっての”フランス料理”だ。してみると、さきほどの、ロプレザンタン恵美の料理は隣国の料理といわざるを得ない』

 その一言で決定する。すなわち瞬の勝利が。

「ばかなぁ!」

 両手を震わせながら、大声で怒鳴る恵美押延。

「私の!ブイヤベースが!なぜあんな出来損ないのファミレス料理に負けるのかぁ!」

 その騒ぎをものともせずに瞬は鍋からもう一皿、ブイヤベースを盛りつけ恵美押延に差し出した。

「食べてもらうのが一番だと思います」

 落ち着いた声に、恵美押延も呼吸を整えて皿を奪うように自分のテーブルの上に載せる。

 じっと料理を見回す恵美押延。白いスープ。魚は――雑魚ばかり。バターが効いているほかはさして特徴があるとは言えない。

「こんなものが......こんなものが......」

 そっとスプーンでスープをすくい口に含む。さらには具も。

 口の中でゆっくりと味わう恵美押延。一口食べた後、ハンカチで口を拭いスプーンをテーブルの上に置く。

「異議を申し立てる」

 恵美押延は宣言する。

「たしかによくできたブイヤベースだ。しかし――私のものより到底上とは思えない。なにか不正があったのか、もしくは麻薬でも入れたのか。その疑いが強く――」

「べらんめい!」

 大きな声。それはムルソーの後ろにいた対馬守の一喝であった。

「俺にはなんとなくわかるぜ!教えてやろうかすっとこどっこい!」

 本来は異議を申し立てるはずの対馬守がそう、意義に対して反論する。

 にこっとする瞬。敬忠はただ、要を得ない表情を浮かべて――



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