白いブイヤベース
「では、そちらの番ですぞ」
いじわるげに恵美押延がそう薦める。瞬が小さな両手で皿をそっとテーブルの上に載せる。ムルソー准将は腕を組んだまま、それをじっと見つめていた。
スープの色――恵美押延のものは黄色みがかったものだったのに、瞬のものは白さが目立つ。魚も先ほどの皿に比べると小ぶりであまり豪勢とは言えない。
興味なさそうにフォークを小さな魚の切りに身に突き刺し、口に運ぶ。興味なさそうに口の中で咀嚼する。
しかし
その動きが止まる。しばしの沈黙。
「――貴様ら!まさか毒を!」
恵美押延の剣幕に船員たちも瞬を凝視する。
『......マテ』
それを制止するムルソー准将の絞りされるような声。
皿を両手で持ちそれをじっと見つめる。
『これは......これは......』
皿を持ちながら、別な手で手づかみで料理を口の中に放り込む。大きな咀嚼音。そしてスープまでも皿ごとに一飲みに――
どぉん、といすに座りこむムルソー准将。なにかに惚けに取られたように虚空を見つめる。
「やはりなにか薬を持ったようですね――」
『そうではない』
日本語を解さないはずのムルソー准将が状況から、恵美押延の言葉を否定する。
『これこそが私にとっての”フランス料理”だ。してみると、さきほどの、ロプレザンタン恵美の料理は隣国の料理といわざるを得ない』
その一言で決定する。すなわち瞬の勝利が。
「ばかなぁ!」
両手を震わせながら、大声で怒鳴る恵美押延。
「私の!ブイヤベースが!なぜあんな出来損ないのファミレス料理に負けるのかぁ!」
その騒ぎをものともせずに瞬は鍋からもう一皿、ブイヤベースを盛りつけ恵美押延に差し出した。
「食べてもらうのが一番だと思います」
落ち着いた声に、恵美押延も呼吸を整えて皿を奪うように自分のテーブルの上に載せる。
じっと料理を見回す恵美押延。白いスープ。魚は――雑魚ばかり。バターが効いているほかはさして特徴があるとは言えない。
「こんなものが......こんなものが......」
そっとスプーンでスープをすくい口に含む。さらには具も。
口の中でゆっくりと味わう恵美押延。一口食べた後、ハンカチで口を拭いスプーンをテーブルの上に置く。
「異議を申し立てる」
恵美押延は宣言する。
「たしかによくできたブイヤベースだ。しかし――私のものより到底上とは思えない。なにか不正があったのか、もしくは麻薬でも入れたのか。その疑いが強く――」
「べらんめい!」
大きな声。それはムルソーの後ろにいた対馬守の一喝であった。
「俺にはなんとなくわかるぜ!教えてやろうかすっとこどっこい!」
本来は異議を申し立てるはずの対馬守がそう、意義に対して反論する。
にこっとする瞬。敬忠はただ、要を得ない表情を浮かべて――




