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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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未来のブイヤベース

「これは......笑わせる!ブイヤベースだと!令和の世でどこかのファミレスで何度か食べたくらいの知識で作れると思うなよ。私は南フランスの地元にまで行って原型となる料理を食べたのだ。その発展形が......この!」

 恵美押延は両手で皿を持ち上げ高々と掲げる。

「私のブイヤベースなのだ!この世界にはまだ存在しない、しかし未来の究極のレシピに基づいたブイヤベース。それに対して付け焼刃のお前のブイヤベースが通用するとでも......」

「まずは試食していただこうではないか。それからでも主張はできようほどに」

 恵美押延に対して落ち着いた口調で敬忠はそう提案する。動きを止め我に返る恵美押延。一声よろしい、と答え船員にアイコンタクトを行う。

「前回はそちらが最初に試食をしたのだな。よろしい、公平に今度は私が先行だ。ムルソー提督に食べていただく」

 皿を恭しくムルソー准将の前に掲げる恵美押延。それを手に取りテーブルの上にムルソーは置く。

『うむ』

 一言、相槌を打ってスプーンを入れる。濃厚なスープ。そしていい香り。口の中にスープが――

 フォークが具に投入される。最初はゆっくりと、そしてガツガツと。

『......おお......これは!』

 満面の笑みを浮かべる恵美押延。してやったりという感じである。

「ブイヤベースの起源はローマ時代のマッセリア、現在のマルセイユにあるといわれています。ローマ人は魚を食べる民族としても有名でした。使われる魚も決められておりカサゴなどの磯魚を最低4種類以上入れること......この船にもその魚をいけすで飼っております。新鮮さは言うまでもございませんな。令和の人間がブイヤベースというとやれ海老やら貝やらを入れたくなるところですが、むしろ大事なのは調味料です」

 恵美押延は手に籠を持つ。中には赤い繊維のようなものと卵、そしてニンニクなどが盛り付けられていた。

「サフランは絶対必要な香辛料です。高価なものをふんだんに使用しています。さらにはアイオリソース。令和の方には”ニンニク入りマヨネーズ”とでもいえばわかりやすいでしょうか。卵とオリーブオイルを混ぜ乳化させてニンニクを入れる。全体的に深い味のスープに、ガツンと味の底を上げる役割を果たします。今回は一皿料理ということで皿の端に盛らせていただきました」

 恵美押延、ただものではないと敬忠は再確認する。令和の世では料理に関してひとかどの人物であったのだろう。なればこそ惜しいことだ、と。

 一心不乱に皿を平らげるムルソー准将。あっという間に皿は空になり、満足そうな笑顔を浮かべる。

『満腹だ。我が祖国の味がするがこのようなものは食べたことがない。まさに”新フランス料理ヌーベル・キュイジーヌ”!』

 それは、瞬の皿を拒んでいるようにも思える感想であった。


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