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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第1章 江戸時代にラーメン屋をつくるためには

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求める人材

 敬忠の家。畳の6畳間の上に正座して相対する二人。

 一人はこの家の主、敬忠であり、もうひとりは先程見知ったばかりの蕎麦屋の娘である。

「なぜ、私が”令和”の人間であることを?」

 落ち着いた口調で敬忠は尋ねる。道すがらに聞いた衝撃の一言。

『”令和の記憶”を持った人間が一人くらいそばにいても―――面白いのではありませんか?』

 明らかに先程、娘は”令和の記憶”と言った。間違いない。言葉を探しつつ、敬忠は口を開く。

「娘―――いや」

しゅんと申します」

 凛とした瞬の態度。普通の娘であれば見ず知らずの武家の邸宅で相対して話すなど怖い以外の何物でもないだろうに、堂々と、そして落ち着きが感じられた」

「先程、申していた。”令和”、と、いうのは」

 一つ一つ区切りながらゆっくりと敬忠は質問する。

「セクハラ、パワハラ」

 娘が一言そうつぶやく。

「先程私はお武家様に訴えました。そうしたらこう返されましたね。『折檻があるのか』と。なぜ『セクハラ、パワハラ』が折檻―――暴力行為であることをご存知で。その理由は簡単ですわ。その言葉を知っている貴方様は多分未来の方、そして多分私と同じ『令和の記憶』を持っている方」

 しまった、という顔を敬忠はする。

「引っ掛けか......たしかにこの時代の人間が知っている言葉ではないが......しかしなぜ私にそのような引掛けを」

「お武家様だけではありません。なんとなく気になる方にみな似たようなことををしていました。この世界では使われないような『言葉』を、それらしく日常生活の中の言葉に取り混ぜてどんな反応があるか。最も今回初めてその引掛けが成功したわけでございますが」

 言葉とは難しいものである。なかなかに策士な娘のやり口にすっかりはめられてしまった感じであった。しかし、怒りはない。むしろ自分と同じような境遇にある人間に初めて出会えたなんとも言えない感慨に忠敬は浸る。

「まだ仔細は打ち明けられませんが、”令和の世”ではこの身と違い特殊な能力を持っておりました。その記憶と技術は未だ身についております。いかがですかお武家様。この身を憐れむのであれば一つ、お雇いいただけませんでしょうか―――それがかなわないのであれば、もう戻るところもない身、死ぬしかありません」

 脅迫にも感じられる瞬の言葉。これもなにかの縁。養うに如くはないが、その技能とやらが気になる敬忠であった。

「......!少しお待ちを。台所と食材を拝借します。もう夕餉のお時間でしょうから」

 何かを察したように立ち上がり屋敷の奥に消えていく瞬。どうやら夕餉の支度をしてくれるらしい。ただ食材と言っても朝炊いたご飯の残りと、端の野菜が少し程度しかないはずだ。あまり期待はせずに半刻ほど足を崩さずに瞬を待つ。

 湯気が立ち上る盆を持って部屋に入ってくる瞬。

 その香りに、忠敬はあることを気づくこととなる―――

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