128 花舞ノ章 三十一
康佑は瑞奈を抱えて、中庭を抜けて離れの一室に駆け込んだ。
「・・・見た目の割に重いな・・・」
やっとの思いで、あらかじめ用意した床の上に瑞奈を寝かせ、灯台に明かりをつける。
「・・・・くぅ・・・・・・くぅ・・・・・・・」
瑞奈はまだ、幸せそうな顔で寝息をたてている。
・・・やはりこの娘は別格だ。他の娘たちとは、美しさも品の良さも段違い。
「これほどの娘なら、わたしの横に並んでも見劣りするまい!美しさは美しさの元に集まるのだ!」
そんなことをつぶやきながら、躊躇うことなく瑞奈の帯に手をかける。
「この娘も、あの時は興味がないとか言っておったが、結局ここへ来たということは、やはりわたしに惚れているのだ。となれば、わたしと褥を共にすることを望んでいるのだから・・・期待に応えてあげようではないか」
自らも帯をほどき、着物を脱ぎ捨てる。
「さあ、床に励もうぞ・・・・」
「本当にここか!?国府の屋敷というのは?」
惟正と元康は、ずっと矢萩の渡しの船着き場で瑞奈たちが来るのを待っていた。
だが、いつまで待っても瑞奈が現れない。
そこで思い出したのが、惟正が助けた(?)女が持っていた紙に書かれていた国府の屋敷での宴のこと。
「ここに瑞奈殿がいるかもしれない!いや、いるに違いない!」
「ですが、勝手に入ってよいのですか?」
元康はおそるおそる辺りを窺う。
と言いながらも、すでにここは屋敷の中庭。女たちが集められていると聞いて、居ても立ってもいられずに侵入してしまった。
「何を言う、恋心に遠慮は不要じゃ!」
「まったく意味がわかりません。でも、どこも真っ暗ではないですか」
「向こうじゃ。向こうに明かりが見えるぞ」
惟正が進む先に、離れの庵があり、そこの障子の向こうにぼんやりと明かりがついている。
さささっ。
木の陰に隠れる。
さささっ。
壁の裏に隠れる。
「あと少し・・・」
ふたりは庵の障子の横にたどり着く。
惟正と元康は顔を合わせて頷くと、障子に指で穴をあけて様子を窺おうとした、その瞬間。
がっしゃーーん!!
「ひいつ!?」
跳び上がって、思わず物陰に隠れる二人。
庵の障子を突き破って、飛び出してきたのは褌姿の男。
地面に裸のまま放り出され、蛙のように手足を広げ仰向けで倒れている。
・・・・康佑?
「参河国府、小幡康佑!この愚か者が!!」
・・・瑞奈だ。
「な、何をする!?おまえも、他の女たちのようにおれに身を捧げに来たのであろう!?」
「思い上がるな!何度も言うが、わたしはお前などに何の興味もない!!」
「では、あの舞は・・・・!?」
「今頃、他の女たちも逃げている!お前の家臣の手によって!」
「はぁ!?なんだと!?」
「能見と言う男がわたしに教えてくれたのだ!今宵の料理には薬が入っていると!」
「能見・・・!!あいつ・・・・・!!」
悔しさに歯を食いしばる康佑。すでに爽やかさは微塵もない。
「思い違いするな!悪いのは能見ではない!民を食い物としか思わぬお前の方だ!」
「何を言う!わたしは民を大切に思い、女たちにわたしと交わる恩恵を与えているのだ!」
「それが思い上がりだというのだ!薬を盛って眠らせて交わることが、何の恩恵かっ!!」
「・・・怒っている瑞奈殿も美しいな」
「そんなこと言ってる場合ですか?」
物陰から覗きながら、惟正と元康は出ていく機会を失った。
「どうします?逃げます?」
「ううむ・・・・・」
バリバリバリバリ!!
突如、惟正と元康の目の前の壁が轟音と共に内側へ崩れた。
「ひいいっ!!」
「今度はなんですかっ!?」
そこには紫色の戦御体。その巨体が屋敷の壁を突き破って入ってきた。
「瑞奈様、ご無事ですか!?」
蓮華の声。
「蓮華殿!こいつをつまみ出して海にでも捨ててくれ!」
瑞奈が指さす先に、褌姿の康佑。
「きゃああああ!!」
顔を隠す紫雲。
「うわぁぁぁぁ!?」
驚く康佑。
「・・・・なんか、筋肉坊主たちよりも恥ずかしいのですが・・・」
紫雲の身をくねらせながら蓮華が言う。
「こ、こうなれば!お前たちなど退治してくれる!!」
そう言って康佑は屋敷の方へ走って行った。
「殿、今のうちに逃げましょう」
「し、しかし目の前に瑞奈殿がおるのに、何もせずに逃げるとは・・・・」
「そんなこと言ってると見つかっちゃいますよっ!」
「いや、待てよ!ここは落ち着いて・・・・・・
颯爽と現れる惟正。
瑞奈:「惟正様!?何故このようなところにあなた様がっ!?」
惟正:「あなたのおられるところ、どこへでもわしは参上するのじゃ。あなたのことを救うためならば!」
瑞奈:「ああっ!素敵な惟正様っ!」
惟正:「ふふっ、着物が乱れておる。直してしんぜよう」
瑞奈:「そんな!恥ずかしいです!でも、すてき!!」
惟正:「ああ、また罪なことをしてしまった・・・・」
瑞奈:「そんな罪作りな惟正様にこの身を捧げとうございますっ!!」
そして、ふたりは・・・・・・。
あんなことにっ!!」
「なるわけないでしょ。もう誰もいませんよ」
元康が呆れ顔で言った。
「え!?」




