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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
四章 花舞 はなまい

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119 花舞ノ章 二十二

「何だ、貴様はっ!?」

五島種房(ごとうたねふさ)は驚愕した。

目の前に突然、紫色の戦御体が現れ、その頭には被衣(かづき)のように大きな布を被っている。


・・・顔がわからないようにしたのですが・・・御体の顔ってわかるのかな?

だけど、こちらのことを知られると厄介だから!



「何も言わぬとは、とりあえず敵じゃな!?」


・・・ええと、あまり戦いたくはないんですけど!!


「・・・敵じゃな?」


・・・違う、と言いたい。


「・・・敵でよいかな?」


・・・いいえ。


「違う?」


はい。


・・・・よく見ると、この戦御体、石長山(しゃくながさん)行園寺(ぎょうおんじ)の僧兵が使っていた”迅雷(じんらい)”と同じだ。と、いうことは、この紫雲と同じ、朽平(くちひら)様が作ったもの・・・。あのおじさん、こんなところまで来ていたのかしら?


「何か言えっ!良くわからんが、何しに来たっ!?」


・・・ああ、そうだった。


とりあえず、役人さんや女房さんにここへ戻ってきてもらわねば!

紫雲(むらくも)は背中の薙刀を取り出して構える。


「やっぱり敵なのかっ!?」


ええと、はい。そうですっ!!


「ええい!本当に良くわからん奴め!わしはお前なんぞと遊んでいる暇はないのだ!!」


迅雷は腰の太刀を抜いて構える。


・・・・ともかくも、他の役人たちをこちらへ引きつけなければ!

「ええーーーーーいっ!!」

叫んで薙刀を振りかぶる。

「来るかっ!?」

迅雷は太刀を受けの構えに持つ。


・・・・・・・・・。


「でえええええええええええいっ!!!」


・・・・・・・・・。


「うりゃああああああああああああ!!!」


・・・・・・・・・・・・。


「来ないのかっ!?」


・・・ともかく、大きな声を出したら人が集まってくると思って!


「大変だーっ!!戦御体が戦っているぞーっ!!」

「きゃーっ!!戦御体よーっ!!助けてーっ!!」


天狗と瑞奈だ。

大声で人を集めている。


「なんだなんだ?」

「大旦那様っ!?」

「おーい!大変だ!集まれーっ!!」


大騒ぎとなって、周りに人が集まってきた。

・・・ありがとう!天狗様、瑞奈様!


・・・じゃあ、さようなら!


「あ・・・逃げた・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・。


「何なのだ、あいつはぁーっ!?」





「どうですか?あの二人は逃げられましたか?」

紫雲を隠した蓮華が天狗と瑞奈のところへ走ってくる。


「ううむ、それが・・・・・」

亀丸と仙寿は、迅雷の前に立っていた。


「えーーーーっ!?何してるのっ!?」

「止めたのじゃが、勝手に出て行ってしまった」




「父様!とんでもない勘違いです!このようなこと、おやめください!!」

「何を言う!この亀丸は、おまえを(たぶら)かして我が五島家を愚弄(ぐろう)した!その首をもって償わせてくれる!」

迅雷がその巨大な太刀を亀丸に向ける。

「お聞きください、大旦那様!この度の書状、字の読めないおれがよく知らずにお渡しするようにお願いしたおれの落ち度です!おれの首で気が済むのなら、どうぞ差し上げます!ですが、姫様のことはどうぞお許しください!」

「何を言うのですか、亀丸!貴方がいなければ、わたしだって生きている意味などありません!」

「いいえ、姫様!姫様は京へ采女の務めを果たしにお行きください!そうすれば生涯、糧にも困らず、床にも困りません!宮殿(みやどの)に見初められれば、誰もがうらやむような暮らしができるのですよ!」

「そんなこと、わたしは望んでおりません!!」

「お判りですか、大旦那様!姫様はおれがいる限り、采女になりません!おれの首を刎ねてください!おれがいなくなれば!」

「いやっ!!やめてっ!!」

亀丸に縋りつく仙寿。

「亀丸と共に、わたしも殺してください!どのみち亀丸がいなくなればわたしはこの命を絶ちます!ならば、亀丸と共にあの世に行かせて下さい!!」

「姫様・・・・いけません!!姫様・・・・・」


「・・・・・・ふぅ」

種房は迅雷の中で大きなため息をついた。

「もうよい。茶番はやめろ」

迅雷の繰り座の蓋が開いて、種房は外へ出る。

「愛しい娘を手にかける親がどこにおる。それがわかっていてここへ来たのであろう?」

「・・・・はい。父様はお優しいお方ですので、お許しいただけるとわかっておりました」

仙寿は悪戯っぽく笑みを作る。

「・・・・え?そうなのですか?」

亀丸は知らなかったらしい。


「もう!ほんとにぃ!!仙寿は意地悪な娘じゃのう!!」

「ごめんなさーい!父様ぁ!!」


え?


「でも、今度はほんとかと思っちゃったぁ!仙寿ったら、真に迫ってるんだからぁ!!」

・・・種房のにやにや顔、気持ち悪っ!?

蓮華と瑞奈が顔を見合わせる。

「だって、今度はしっかりやってみようって思ったのですもん!!ちゃんと騙されたでしょ?」

えへっ、と舌を出す仙寿。



「・・・あの、あれって・・・・・」

瑞奈は近くにいた、あの年配の女房に声をかける。

「ああ、やっぱりこうなってしまいましたか・・・。毎回こうなるので、わたしたちは姫が逃げ出すと必死に追いかけなくてはならないのです。今回はあなたたちとあの亀丸が巻き込まれたのですね・・・・」

「はぁ!?お芝居だったのですか?なぜ、最初に教えてくれないのですか!?」

「だから最初にわたし、言いましたよね?怒られますので、これ以上わたしの口からは・・・って」


蓮華がつかつかと種房と仙寿の前に歩み出る。

「ちょっと!これはどういうこと!?説明してちょうだい!」

「あら、あなたたち・・・」

「わたしはね、あなたがこの男のことが本気で好きだというから手を貸したのよ!」

「もちろん、亀丸のことは好きですよ!でも、父様は反対などしておりませんわ!」

けろっと言ってのける仙寿。

「そうじゃ。わしと仙寿でそのまま婚儀を認めたら面白くないということでな、仙寿が逃げ出すのが合図で始まる遊びをしておったのじゃ」

笑顔の種房。


・・・・・むかっ!

「うがーーーーっ!!!うっぎゃあーーーーーーーーーっ!!」

いけない!蓮華殿が壊れたっ!!

あわてて蓮華を取り押さえる瑞奈。だが、蓮華の力にかなうはずなどない。



「でも、亀丸がそちらのお連れの方に一目ぼれしたと言ったときは驚きましたわ!だって、私など逆立ちしてもかないそうにない綺麗なお方ですもん!」

「何を言う、仙寿!お前は母に似てとっても愛らしいぞ!」

「あらぁ、ありがとう!父様!」


「・・・・そんなぁ。怖かったのにぃ・・・命まで賭けたのにぃ・・・・・」

亀丸が地面に座り込んで泣いている。

間違いなく一番の被害者だろう。


「天狗様、瑞奈様、わたし、今から五島家を滅ぼします!!」

「お、落ち着け!蓮華!!」

「・・・滅ぼしてもいいと思うわ。わたし」

慌てる天狗と、慌てない瑞奈だった。

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