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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
四章 花舞 はなまい

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118 花舞ノ章 二十一

「・・・・ふぁくごふぁはでひまひた」

覚悟はできました、と言いたいらしい。

亀丸はその後も蓮華に殴られて、元の顔がわからない程度に腫れあがっていた。

「・・・・・わかればよろしい!」

正座して下を見ている亀丸。それを腕を組んで見下ろす蓮華。


「もうよいのです、蓮華様。わたしは、この亀丸と添い遂げると前から心に決めておりますので」

「仙寿様・・・健気・・・・。わかった?亀丸様。仙寿様はこういう方なのです!次に裏切ったら承知しませんよ!」

「・・・ふぁい」


「では、こちらは片が着きました。あとは、仙寿様の父様ですね!」

蓮華がため息をつきながら、仙寿を見る。

「はい・・・。父様はわたしのことを思ってしてくれるので、出来れば裏切りたくはないのです」

「ですが、仙寿殿」

瑞奈が言う。

「すでに采女(うねめ)は廃止されたと聞いておりますが・・・・・」






「そういうわけにはいかん!たとえ采女が廃止されたとはいえ、わが五島(ごとう)家がその恩恵を朝廷より受けている以上、応えぬわけにはいかない!」

五島家の当主、五島種房(ごとうたねふさ)である。口ひげを蓄えた強面の男。

仙寿の居場所を知っていることをちらつかせると、すぐに面会に応じた。

「ですが、求められていないものに応えるために、仙寿様の想いを踏みにじるのは親と言えどもいけません!」

蓮華がぐいと前に出る。

「・・・・・・・」

種房は蓮華の顔を睨みつける。

負けじと、蓮華も睨み返す。


・・・じりじりじり。


「これ、蓮華・・・。失礼じゃ・・・・」

天狗がそう言って、蓮華を下がらせようとしたところ・・・。

「そうなんじゃよぅ・・・・・・」

その風貌からは想像もできないような弱弱しい声を出した。

「たしかに、仙寿には想い人と一緒にしてやりたいのじゃが、いかんせん、相手が亀丸ではのう・・・・。仙寿はあまりにもわしが男手ひとつで甘やかして育てたせいか、箸より重いものを持ったことがなくて・・・。仙寿も亀丸も、この先苦労するのが目に見えておってなぁ・・・・」



・・・・・・え?



「お互い、会えなければ諦めてくれるかと思い、苦渋の決断じゃったが・・・。ああ、仙寿・・・。亀丸も働き者だけにかわいそうで・・・」

「ああ、そうなんですか・・・・」

蓮華も、この種房の変わりように身を引く。

「じゃが、仕方ない。本人たちがそこまで思い合っておるのであれば、わしも鬼ではない。好きなようにさせてやるしかあるまいな・・・。これで幕引きじゃ!」


「・・・案外、物分かりが良いのじゃな」

小声で天狗が瑞奈に言う。

「・・・そのようですね」


「よかった!お判りいただけたのですね!!」

蓮華は心底嬉しそう。

「うむ、娘。どこの誰だか知らんが、仙寿のことを真剣に思っていただいて痛み入る。仙寿は好きなようにさせよう」

「ありがとうございます!!」

蓮華は頭を下げる。

その懐から、書状がぱさり、と落ちる。

「ああ、そういえば、亀丸様から書状を預かってきました。さる殿さまに書いていただいたとかで、内容はわたしも見ておりませんが。まあ、お判りいただいたようなので、必要ないかもしれませんが・・・」

書状を拾って種房に渡す。

「うむ、一応、目を通しておこう」

書状を開く。


「・・・・・・・・・・・・・・」


読み進めると、種房の表情がみるみる険しくなっていく。

「これは・・・・亀丸が書かせたものなのか?」

「・・・はい。そう言っておりましたが・・・」




数刻前。

「これは、先ほど心あるお方におれの気持ちを代筆してもらったのです。おれたちが直接大旦那様にお会いすると捕まるかもしれないので、お屋敷に届けていただけませんか?」

そう言って亀丸から受け取った。



「ええと・・・わたしたち、預かっただけで中身は見ておりません・・・。そこには何と?」

瑞奈が恐る恐る言う。


「・・・読んでみよ」

怒りの表情で種房が書状を投げてよこした。瑞奈が拾い上げる。

そこには・・・。


「読みます。


・・・五島家の御当主に申し上げる。


・・・おのが娘仙寿、この亀丸が預かった。だが、心配には及ばぬ。


・・・わが元で暮らすことは娘児にとって幸せであることと思い知れ。この、わが娘の心さえわからぬ俗物が。


・・・もし、取り戻したいと汝が欲するのであれば、それ相応の対価と引き換えにせよ。でなくば娘は永遠にその顔をお前に見せることはないと知れ。


・・・我、真実の愛を求める者、愚かなる者、その崇高なる愛にひれ伏すがよい。


なにこれ?」

「なんということじゃ・・・」

天狗も頭を抱える。

「まるで(かどわ)かしじゃない!?せっかくうまくいっていたのに!あいつ、一体誰に代筆を頼んだのよっ!!」

蓮華も怒る。

「・・・許すまじ、亀丸!!我が娘仙寿を取り戻すぞ!!」

種房の強面がさらに怒りに震える。


そりゃあ、怒るでしょうけど。こんなもの見せられたら。


五島の屋敷から役人たち、兵たち、女房達が総出で仙寿探しに出る。

皆武装して、手に刀や薙刀をもっている。


「仙寿は絶対に連れ戻せ!亀丸は見つけ次第、わしの前に引きずり出せ!!」


当主の種房も、こともあろうか戦御体に乗り込んで街道を塞いでしまった。


「あぁ・・・・どうしましょう!?」

おろおろする蓮華。

「とにかく、亀丸殿と仙寿殿にこのことを伝えましょう」

瑞奈が言う。

「そうじゃな・・・。だから無駄に首を突っ込むなと言ったのに・・・」

天狗がぐちぐち言い出すが、二人の耳には届かない。



亀丸と仙寿は例の坂の上のお堂の裏の草叢(くさむら)に隠れていた。

「・・・皆さん、一体どうなっているのです?急に物々しくなって・・・」

亀丸が仙寿を抱えながら言う。

「あの書は、一体誰に書いてもらったの?あれを読んでから急に怒り出しちゃって・・・」

蓮華が亀丸に言う。

「あの文面では怒って当然じゃがの」

「まるで拐わかしですよ、あれじゃ」

瑞奈が言うと、亀丸は目を丸くして驚く。

「えっ?」

「それまでは、二人の仲を認めるって言ってくれていたのに・・・」

「お父様が?」

仙寿も顔を上げる。

「だけど、あの書状で台無しになっちゃったの!あの怒り方じゃ、見つかったら殺されちゃうよ!」

「ひえええええええええええええ!?」

亀丸はやっと事の重大さに気づいたようだ。

「わたしが、父様に話してみます!」

「そんなことをしたら仙寿とはもう会えなくなってしまう・・・」

「でも、このままではいつか見つかって、亀丸が殺されてしまいます!」

「だが姫様、このままでは姫様まで・・・」

「亀丸・・・・」

「姫様・・・・・」

見つめ合う二人。

「いい雰囲気で、そんなことしてる場合かっ!!」

天狗が突っ込む。

「あー、もうっ!!」

蓮華が意を決した顔で二人を見る。

「仕方ない、わたしが紫雲で御当主様の戦御体を襲います!そうすれば役人たちは御当主を護りに屋敷に戻ってくるはず!その間に二人は逃げなさい!」

「でも、そんなことしたら!」

仙寿が声を上げる。

蓮華はその声を聴かずに、紫雲に向かって走り出していた。



「ええい、蓮華にも困ったものだ!蓮華を追うぞ、瑞奈!」

「はい!行きましょう!」

ふたりも蓮華の後を追って走り出す。

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