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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
四章 花舞 はなまい

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115 花舞ノ章 十八

・・・・ぞくぞくっ!?

「どうしました、瑞奈(はな)様!?またお風邪ですか?」

蓮華が紫雲から声をかける。

「いえ、何か悪寒のようなものが・・・・・・」

まだあの二人組に追われているような気がして・・・。

「・・・また妖でも出るのではないだろうなぁ!?はははっ!!」


ぎろっ!


「・・・・・冗談でもやめてください、天狗殿・・・・」

目の上を引きつらせる瑞奈。

「・・・・・はい。そんなに真剣な顔で睨まんでくれ・・・・すまん・・・・・・」


一行はやがて宿場の町の中へ入った。

軒の数こそ少ないが、街道を行き来する人が多く、賑わいのあるところだ。

ようやく東国の入り口に立ったのだという、達成感が瑞奈の胸に沸いてくる。

「お腹が空きました!」

瑞奈が言うと、紫雲が手を挙げる。

「わたしも!」


宿場に入る前に御体車(みたいぐるま)紫雲(むらくも)を乗せ、布をかけて街道脇に隠す。

そして民家を訪ね、道中摘んできた野草を、いくらかを渡す代わりに煮てもらう。

それを椀に入れて、街道沿いの大きな石に腰掛けて景色を眺めながらいただく。この瞬間が瑞奈の至福の時、旅の楽しみだ。塩だけの味だが、ほっと一息できる。

「・・・これが、海の味!」

「海の味!!」

瑞奈と蓮華が笑顔で言う。

「可愛らしい旅の娘方に、これもあげるよ」

家の人が焼いた芋を差し出した。芋は瑞奈にとって一番の御馳走。

「わぁ・・・・!!」

瑞奈と蓮華は頬を寄せて大喜び。あっという間に平らげる。

「これくらいしかお礼もできないですが・・・」

瑞奈はそう言うと、ゆっくりと舞を舞った。

するといつの間にか見物人が集まって、舞が終わる時には盛大な拍手の渦が出来る。

「ありがとうございました!」

瑞奈が一礼すると、見物人たちが立ち去り際に野菜や魚を置いて行った。それがあっという間に両手で持ちきれないほどの山になる

「い、いえ、そんなに持てません!!」


「なるほど。旅の糧はこうやって稼げばよいのじゃな」

天狗がぼそっと呟いた。


その日は鈴鳴宿で宿坊を借り、峠越えの疲れを取ってから、翌日の朝に出立することにした。


「天狗様、あの行列は何ですか?」

荷物を御体車に積み終わり、出発前に一休みしていた時だった。

蓮華が指さす。

笠を被った女を一人取り囲むようにして、女房らしき女が二人、護衛らしき腰に刀を差した男が三人。大きな箱を背に担いだ荷物持ちらしき男が二人。

これから峠へ向かうのだろう、ゆっくりと杖をついて歩いていく。

「あれは采女うねめじゃな。これから京へ向かうのだろう」

「うねめ?」

「うむ。宮様の身の回りをお世話するために地方の豪族たちが遣わす女官のことじゃ。この先の五島家には昔から采女を参内させる家系らしいからな」

「へー、そうなんですか。良く知ってますね」

「うむ。そうここに書いてある」

そう言って天狗は例の巻物を取り出す。鈴鳴峠越境東国・・・なんちゃら。

「そんなことまで書いてあるのですか?」

瑞奈が聞くと、天狗は巻物を広げ、「ほら、ここじゃ」と言った。

「・・・・たしかに。ええと、采女はもともと、巫女のような官職であったのだが、その後地方豪族の帝への忠誠を表すため、教養があり容姿のよい女系親族を宮に納めるようになった。現在は采女制度は廃止されている・・・・だそうです」

「えー、すごい!瑞奈様、字が読めるのですか?」

蓮華が言うと、瑞奈は頷く。

「白拍子は舞だけでなく、古い歌や古語の知識もなければ務まりませんから。母に教え込まれました」

「すっごーい!!」

蓮華は胸の前で手を組んて目をきらきらさせる。

「舞が上手いだけじゃなくて知識もあって、その上こんなに美しいなんて・・・やっぱり瑞奈様は欠けるところがありませんね!」

「いえ!そんなことないですよ!わたしも欠点ばかりですよ!」

手を横に振りながら瑞奈が言う。

「しいて言えば、やや食いしん坊で小柄な割には重いところじゃな」


ごんっ!!


天狗の頭頂部に一撃をくらわす。

「ぐえっ!?」

おおよそ言葉とは思えない音を出して、地面に這ってひくひくする天狗。

「天狗様、余計なこと言うからですよ。どう考えても殴られて当然です」

蓮華が頬を膨らませながら言う。

「瑞奈様、瑞奈様の手を痛めないように、次からはわたしが殴りますのでいつでも言ってくださいね」

「ありがとう。そう致しますね」

瑞奈は笑顔で言う。


「そう何度も蓮華に殴られたら、わし死んじゃう・・・」


「ですが、なぜ廃止されているのに娘を京へ送り出しているのです?」

瑞奈が言うと、天狗も蓮華も首をひねる。

「・・・何故じゃろうな」

「なぜでしょうね?」

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