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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
四章 花舞 はなまい

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111 花舞ノ章 十四

「ああ、どこへ行ってしまったのかしら!?」

蓮華は紫雲(むらくも)の中で焦っていた。

雨は強くなってきて視界が悪い。背の高い紫雲の視点から見ても、木の葉に隠されて瑞奈(はな)の姿はわからない。

「・・・しまった、この源馬(げんば)、一生の不覚!!」

天狗も木の枝を飛び回りながら瑞奈を探す。

しばらく木の枝を飛び回った後、蓮華の紫雲のところへ戻ってきた。

「・・・仕方ない。一旦、石和宿へ戻ろう。雨が上がるのを待って、もう一度出直す」

「でも・・・瑞奈様が・・・・」

「仕方あるまい。御体はこの泥沼では上にあがれない。このままあてもなく山の中を探し回るのは危険じゃ」

「・・・・・・」

「すまん、蓮華。聞き分けてくれ・・・・。わしも、若から瑞奈のことを託された身。お前より辛い」

「・・・わかりました」

蓮華の紫雲と、天狗は鈴鳴山を降りて行った。





「・・・・・降りて行った・・・・・?」

元康は近くに隠れて、その様子を見ていた。

「あの天狗が降りて行ったということは・・・・・・・」

・・・これ以上、上に登って行っても殿の想い人はいないし、ただただ危険なだけだ。


・・・・・・・・。


ふん!いい気味だ!

足を滑らせて怪我でもすればいい!

この元康のありがたみを、今度こそ思い知る時だ!


・・・・・・・・。


・・・怪我くらいで済めばいいけど。

妖に喰われたり、盗賊につかまったり・・・・。


それでも、仕方ない!わたしの言うことを聞かない殿が悪いのです!



・・・・・・・・・。



―――元康、わしについてくるのじゃ!

―――元康、わしは賢いのじゃ!

―――元康、わしは・・・・・・・・。




頭を掻きむしる。

「ああ、もうっ!!世話の焼ける殿だっ!!」

元康は(きびす)を返すと、再び峠道を登り始めた。






その頃、惟正は・・・・・。


「あのう・・・・わし、いっつも牢に入っている気がするのじゃ」


盗賊につかまっていた。

「ふははは、この大盗賊大賤丸(だいせんまる)様につかまって、まだ息があるだけありがたく思えよ!」

大賤丸という盗賊の親玉は子分たち二十人ほどを従え、山の洞穴に社を立ててねぐらにしていた。

伸び放題伸びた髪と髭、元の色がわからないくらい汚れた着物の上から獣の皮を被っている。

「何とか助けてくれませんかねぇ?」

惟正はとりあえず言ってみる。

「あん?なんでおめぇをおれが助けなくちゃなんねぇんだ?」

「・・・そうですよね」

「だろ?」

「あ、でも、助けない理由もないですよね?」

「はぁ?」

「だから、わしを助ける理由もないけど、助けてやらない理由もないから、そのまま逃がしてやるのが一番いいと思いません?」

「・・・・何言ってんだこいつ?」

大賤丸が子分に聞く。

「何が何だか分かりやせん」

「い、いやぁ、ですからね。わし、別に誰にもここのことは言わないので・・・。逃がしてやってもいいんじゃないかと・・・・」

「・・・・・おめぇ、おれがおしゃべりな奴はすぐ殺すって決めてること知ってるよな?」

「はい!黙ります!もう喋りません!はい!」

「・・・・・おめぇの顔、面白いから連れてきてやったんだ。面白い顔だけしてりゃ、死ぬまで生かしといてやる」

「はい!」

両手で鼻を押さえて目を吊り上げる。

・・・子分の二・三人がぷぷっと吹き出す。

「・・・・真顔の方が面白い」

「はい!」

すぐに真顔に戻す。


・・・・ああ。えらいことになった。


元康、助けに・・・・来るわけないよな・・・・・。








「道に迷われたのですか?おひとりで・・・」

女はそう言って、手拭いで瑞奈の濡れた髪を拭いてくれた。

「はい。連れとはぐれてしまって・・・・」

「そうですか。ここを尋ねて来られる方はだいたいそうなんですよ」

女は長い黒髪を後ろでまとめ、白い顔に薄く紅を引いたような赤い唇をしている。

白い小袖を着ているが、話し方にどこか上品な佇まいがあった。

「ちょうど、山菜が煮えたところです。何もないですが、温まりますよ」

女はそう言って椀に汁を掬うと、瑞奈に差し出した。

「なぜ、このようなところにおひとりで住んでおられるのですか?」

椀を受け取って、瑞奈は聞いてみた。

「・・・・罰を受けているのです」

「罰とは?」

少し俯く女。

「昔、生んだばかりの子を手放してしまいまして。生きていれば、ちょうどあなたくらい・・・」

そこまで言って、首を振る。

「いえ、初めてお会いした方に語るような話ではございませんね。わたしのことはお気になさらず。雨は夕方には止みます。明日、街道までお送りいたしますゆえ、お泊りになって行ってはいかがですか?」

「お心には感謝いたしますが、連れがわたしを探していると思うので。街道へどう出ればよいか教えていただければ、わたしはすぐにでも戻ります」

「あら、でも危ないですよ。この辺りは野盗も出ますし・・・」

「お気遣いありがとうございます。でも・・・・・」


・・・まただ。あの甘い香の香り。

頭がくらくらとする。



「野盗だけではありませんよ・・・・妖だって・・・・出ますから・・・・・・」



女の声。

勝手に瞼が、閉じていく。

だめだ、眠ってはいけない・・・!


・・・・・・・・・・・・・・・。






元康は泥まみれになりながら、山道を駆け上る。

「あー、もう!殿の大馬鹿者!!」

雨がさらに強くなってきた。濡れた装束がひたすら重い。

はぁ、はぁ、と息を切らしながら、ようやく惟正と別れたところまで登ってきた。

どこまで登って行ったのだろう?

さらに駆け登る。

足がもつれて転ぶ。

泥が跳ねて顔にかかる。もう、気にしていられない。

「もう、殿のせいでっ!!」

殿に拳を打ち付ける。泥が跳ねて、また顔にかかる。

何とか立ち上がろうとした時・・・。

足跡を見つけた。

しかも、沢山。

・・・・・・もしかして!?

まだ雨で流されていないところを見ると、ついて時間が経っていない。


・・・・・・。


・・・たぶん、殿のことだから・・・・何かに巻き込まれたに違いない。



「まったくっ!!どうしていっつもいっつもぉ!!」



叫びながら、足跡をたどる。

足跡は街道を外れ、どんどんと山の奥へ。


「洞穴?」

足跡は山肌にぽっかり空いた、洞窟へ続いている。


足音を立てずに、そっと中をのぞく。


・・・かすかに、人の声がする。



そっと、そっと・・・・・。

洞窟の奥に木の板で仕切られた小屋のようなものがある。

そっと中をのぞく。

焚火を囲んでいる、男たち。あれはどう見ても・・・山賊。

その数・・・三十人ほど。

そして、奥に・・・・牢があり、誰かがいる。

手前にいる大男の背中でうまく見えないが・・・・。


「ほんとにおめぇ、面白い顔だなぁ!」

大男が言うと、山賊たちがどっと笑う。

あれが首領か。

そして面白い顔と言えば・・・殿だ!間違いない!

助けなければ・・・・でも、どうやって?

とてもじゃないが、山賊ひとりにも勝てる自信がない。


・・・これだけの人数を一度に相手にするとなれば・・・戦御体でもないと・・・・。


戦御体・・・・さっき見た・・・。



元康は来た道を走って降りて行った。


「何度、ここを行ったり来たりすればいいのですかっ!殿のせいでっ!!あー、もうっ!!」

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