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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
四章 花舞 はなまい

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108 花舞ノ章 十一

「・・・・・・あんた、変な二人組と知り合いかね?」

突然、そう言われたのは太陽が真上にいる頃、次の村篠(むらしの)の宿場町に着いた時だった。

篭を肩にかけて白菜を運んでいる女だ。

「・・・変な二人組?」

「ああ、なんか・・・こう・・・・おかしな二人でね。百合(ゆり)撫子(なでしこ)も恥じらうほどの美しいお方をお見掛けしなかったかっ!?とか言いながら、街道を歩いて行って・・・。笠を被ってるあんた、えらい別嬪(べっぴん)だから、あんたのことかと思って・・・」

「ああ、人違いです。わたし、そんな烏帽子姿の変な二人組は知りません」

「そうかい。ならいいけどね。・・・烏帽子姿って言ったかね、あたし?」


・・・いつの間にか、追い越されていた?

背筋がヒヤッとする。



「・・・天狗殿、ここからはゆっくり進みませんか?」

瑞奈は試しに聞いてみる。

「うむ、だが日暮れまでには石和(いさわ)宿までは行かねば。明日は鈴鳴(すずなり)の峠越えをせねばならんのでな。東へ行く旅人なら、皆、石和で夜を明かして夜明け前に鈴鳴を登り始めるはずじゃな」

「・・・そうですよね。きっと、そうですよね」

はぁ・・・。ため息ひとつ。

「顔がわからぬように、わしの天狗の面、ひとつ貸してしんぜようか?」

「絶対嫌です」

「・・・・・・・・」

ゆっくりと肩を落とす天狗。


・・・って、予備があるの?その面って。


「ま、まぁ。そう言わんと・・・何か役に立つかもしれんし・・・」

そう言って天狗の面を懐から取り出す。

「・・・なんでそんなところに・・・・。うっ!?黴臭いっ!?」

「・・・・・・・・」

「・・・要らない」

面を突き返された天狗、あまりに淋しそうな顔・・・をしているに違いない。



ここまでも高低差がひどく、御体車を引っ張る馬を休ませながらしか進めなかった。

明日の鈴鳴山は馬を使えない山道なので、御体は乗り込んで進むしかないそうだ。


「であれば、出来るだけ今日のうちに進んでおきたいですね!」

村篠の街道沿いの寺の軒先で一休みさせてもらっている。

「でないと、わたしの霊力はそんなに持ちませんから」

持ってきた干芋を齧りながら、蓮華が言う。


「霊力というのはすごいものですね。あんな大きなものを動かせるなんて」

「もしかしたら、瑞奈様にもあるのですよ、霊力」

「まさか!?」

「ですが、御体を動かせるほどではない人と、たくさん使っても有り余る人がいるそうです。どこか、体の調子が悪いときは、思い切って霊力を使い切って休むと、調子よくなったりするんですって」

「それは・・・・初耳です・・・・・」

「わたしも霊力なんて知らなかったのですが、蓮華寺でみんなが御霊石に触っている中で、わたしだけが触ると光ったのですよ!」

「御霊石?」

「はい。戦御体に使われている緑色の石です。その石に霊力を込めると、重いものを動かせるのです」

にっこり笑って言う。

蓮華ならそんな石がなくても多少の重いものなら動かせそうだが。


「何か?」

「いえ・・・何でもないです。蓮華殿、すごいですね」


白結丸(はくゆいまる)様や嶺巴(れいは)ができるなら、わたしにも!って思って、試しにやってみたらできたのですよ!」

そう言って腕に力こぶを作る。・・・細腕の割に盛り上がりがすごい。

「・・・これで、白結丸様のお供ができるって!うれしくって!」

本当にそれがうれしいのだろう。満面の笑みを浮かべる。

蓮華を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。

「なのに・・・・・」

・・・?

「あいつ、わたしを置いて・・・・・・勝手に伊豆へ・・・・・絶対に、ゆ・る・さ・な・い!!」

瞬時に怒りの形相へ変わる。

蓮華の後ろには憤怒の炎が立ち上る・・・ように見える。

「あ、あはは・・・。何か、事情があったのでしょうね・・・」

怖い。

「・・・・・ほんとに、あいつは・・・・勝手だから・・・」

急に、淋しそうな顔をする。

本当に表情がころころと変わる子だ。見ていて飽きない。

そして見ている者を、同じ気持ちにさせる。いつの間にか引き込まれている。




「よし、異常はないぞ」

荷車の車輪を調べていた天狗が戻ってきた。

「一休みしたら、先を急ごう。日暮れまでに石和へ着きたいからな」

・・・ああ、追いつきませんように。

嫌な予感しかしない。






ようやく石和宿へたどり着いた。

ここまでの山道はなかなか厳しいものだったが、明日からの峠越えはもっと厳しいと聞く。

ここで、ゆっくり休まないと・・・・と思っていた矢先。


「おおーーーーっ!!貴方様はいつぞやの!!」


・・・ほら見つかった。変な二人組。


「あなたのような美しいお方と再び出会えるなど、わが人生においてこれほどの多幸はありません!これはもう、わが思いを一片の歌にのせて捧げるよりもなし!そして手に手を取って極楽浄土への扉を開けたもうことに・・・・」

「殿、殿!」

「観世音菩薩様のお許しあれば、やがて我らの想いたるや・・・」

「殿、殿ってば!!」

元康が惟正の袖を引っ張る。

「なんじゃ、ここからが良いところなのに!!邪魔をするな!・・・ええと、どこまで言ったか・・??ほれ、忘れてしもうた!」

「それ以前に、誰も聞いていませんって!」

「・・・あれ?ここにあのお方がおられたではないか?」

「殿が、人生において多幸がどうのあたりで行ってしまわれました」

「何っ!?一番最初の方ではないか!」

「もう諦めましょうよ。あんな綺麗なお方が殿みたいな下衆なお顔を相手にするわけないでしょうよ」

「誰が下衆だ!元康、手打ちにするぞ!」

「申し訳ございません、殿!正直に言い過ぎました!」





はぁ、・・・やだやだ。



瑞奈たちは石和宿の西楽寺(さいらくじ)で宿坊を借りて、夜を明かすこととなった。

明日の峠越えの支度を整えるためだ。

「噂では、(あやかし)や盗賊が出るという話も聞いた。じゅうぶんに仕度なされよ」

「妖!?」

瑞奈は急に跳び上がってお蓮に抱きつく。

「あら、瑞奈様は妖の類が怖いのですか?」

「・・・むしろ、なぜ平気なのですか・・・」

「いえ、天狗様を平気になったみたいなので、てっきり妖も平気になったのかと」

「わしは人じゃ!」

「言われてみれば、今は平気ですが」

「わしは人じゃというに!」

「でも、最初は本当に怖くて怖くて・・・」

「気を失っていらっやいましたものね!」

「はい・・・・」

今でこそ昼間の天狗は見慣れたが、夜の灯台の明かりで見る天狗は今でも怖い。

寝るときくらい、面を取ってほしい。

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