第26話 繋がらない理由
アリーナの外周。
人は少ない。
試合の合間。
静かな時間。
ネメシは一人、壁にもたれていた。
視線は落ちている。
頭の中では、
さっきの戦闘が何度も繰り返されていた。
通る。
だが続かない。
掴みかけて、
零れる。
「顔に出てるぞ」
声。
ネメシは顔を上げる。
「……あんたか」
名乗らぬ男が立っている。
相変わらず、
気配が薄い。
「で、どうだ」
軽い調子。
ネメシは舌打ちする。
「……通る」
「ほう」
「でも続かない」
「だろうな」
あっさりと言われる。
ネメシの眉が動く。
「何が足りない」
直球。
迷いはない。
男は少しだけ考えてから、
「順番だな」
そう言った。
「……は?」
ネメシの顔が歪む。
「一手一手は悪くない」
男は続ける。
「でもな」
一歩だけ近づく。
「順番がバラバラだ」
その一言で、
ネメシの思考が止まる。
「……どういう意味だ」
「お前の動きは“点”だ」
前にも聞いた言葉。
だが、
今回は違う。
「点が強いのはいい」
男の声は静かだ。
「でもな」
指を軽く振る。
「繋げる順番がない」
ネメシは黙る。
頭の中で、
戦闘が再生される。
当たった一撃。
外れた次の手。
崩された流れ。
「……順番」
小さく呟く。
「例えばだ」
男は続ける。
「さっきの一戦」
ネメシの目が上がる。
「最初の一手、良かったな」
「……ああ」
「でも次、欲張った」
ネメシの呼吸が止まる。
思い当たる。
「当たったから、繋げた」
「……」
「それがズレた」
男は言い切る。
「本来は逆だ」
「逆?」
「繋げるための一手を先に置く」
ネメシの目が細くなる。
理解しかけて、
まだ届かない。
「お前は“当てた後に考える”」
男の言葉が刺さる。
「でも上は違う」
少しだけ間を置く。
「“次のために今を置く”」
その一言で、
空気が変わる。
ネメシの中で、
何かが噛み合いかける。
「……先に決めてるのか」
「決めてない」
即答。
「決められない」
ネメシの眉が寄る。
「じゃあ何だ」
男は少しだけ笑う。
「流れを作ってる」
シンプルな答え。
だが、
重い。
「一手目で、次を限定する」
「……」
「二手目で、さらに絞る」
「……!」
「三手目で、逃げ場がなくなる」
ネメシの呼吸が浅くなる。
見えた。
ほんの一瞬。
だが、
確かに。
「……だから、崩せるのか」
「そうだ」
男は頷く。
「お前は違う」
ネメシを見る。
「当たったら次を考える」
「……」
「だから繋がらない」
ネメシは目を閉じる。
一瞬。
そして開く。
戦闘のイメージが変わる。
最初の一手。
その意味。
次の制限。
流れ。
「……面倒だな」
ぽつりと漏れる。
男は笑う。
「だろうな」
「でも」
ネメシは剣を握る。
力が入る。
「分かった気はする」
完全ではない。
だが、
方向は見えた。
男はそれを見て、
「それでいい」
短く言う。
そして、
背を向ける。
「またな」
ネメシは呼び止めない。
もう、
聞くことは決まっている。
ネメシは構える。
ゆっくりと。
一手目を考える。
“当てるため”じゃない。
“次を作るため”に。
踏み込む。
振る。
――まだ、ぎこちない。
だが、
確実に違う。
ネメシはもう一度踏み込む。
今度は、
少しだけ繋がる。




