第25話 速度の異常
モニターに数値が並ぶ。
時間。
入力。
結果。
そして――
変化量。
マアトは無言でそれを見ていた。
「……おかしい」
小さく呟く。
誰に向けた言葉でもない。
だが、
確信はある。
「またネメシ?」
背後から声がかかる。
「うん」
マアトは頷く。
ログを切り替える。
戦闘履歴。
時系列。
並べる。
「これ見て」
指を差す。
一戦目。
命中率。
回避率。
入力精度。
どれも平均的。
「ここから」
二戦目。
三戦目。
四戦目。
数値が上がる。
段階的に。
だが、
「……上がりすぎじゃない?」
「うん」
マアトは頷く。
「普通じゃない」
グラフを拡大する。
変化の傾き。
急すぎる。
「これ、バフとかじゃなくて?」
「違う」
即答。
「ステータス変化はない」
純粋な操作結果。
それだけで、
ここまで伸びている。
「でも、さっき負けてたよな」
「うん」
マアトは画面を切り替える。
直近の戦闘ログ。
「勝ってない」
事実。
だが、
「それでも上がってる」
その矛盾。
通常なら、
結果と成長は連動する。
だが、
ネメシは違う。
負けながら、
伸びている。
「……あり得るのか?」
「ある」
マアトは答える。
「理論上は」
だが、
「この速度は無理」
断言。
迷いはない。
さらに別のデータを開く。
同ランク帯。
他プレイヤー。
比較。
「ほら」
緩やかな上昇。
もしくは停滞。
これが普通だ。
「ネメシだけ、違う」
グラフの傾きが明らかに異常。
まるで、
別のルールで動いている。
マアトは一瞬、目を閉じる。
考える。
これまでの情報。
最初のズレ。
ログの“薄さ”。
そして、
今の変化。
「……繋がってる」
ぽつりと呟く。
「え?」
「最初のズレ」
画面を切り替える。
例のログ。
「ここから」
再び現在のデータへ。
「これ」
指先が止まる。
「同じ流れの中にある」
断定。
仮説。
だが、
ほぼ確信に近い。
「じゃあ……この成長って」
「通常じゃない」
マアトは言い切る。
「でも、不正でもない」
ログは正常。
エラーもない。
だからこそ、
厄介だ。
「……何が起きてるんだよ」
誰かが呟く。
マアトは答えない。
答えは、
まだない。
だが、
一つだけ分かることがある。
「これ、止まらない」
静かな声。
だが、
重い。
「……は?」
「このままいくと」
マアトは画面を見る。
ネメシの成長曲線。
その先。
「追いつく」
その一言で、
空気が止まる。
「上位に?」
「ううん」
マアトは首を振る。
「もっと上」
誰も言葉を返せない。
その意味を理解しているからだ。
マアトはゆっくりと息を吐く。
これはもう、
単なる観測じゃない。
兆候だ。
そして、
まだ序盤に過ぎない。
マアトは小さく呟く。
「……これ、加速してる」




