第24話 崩す側の視界
フィールドに立つ。
静かだ。
観客のざわめきは聞こえる。
だが、
意識の外だ。
視線は一点。
対面のプレイヤー。
ネメシ。
――さっきの相手。
ログでは見ている。
実際の動きも。
悪くない。
むしろ、
このランク帯では異質だ。
「……変わってきてるな」
小さく呟く。
本人は気づいているかどうか。
だが、
動きは明確に変わっている。
“合わせにこない”。
いい変化だ。
だが――
まだ浅い。
開始の合図。
ネメシが踏み込む。
速い。
軽い。
そして、
わずかにズラしている。
振る。
――当たる。
浅い。
予想通り。
問題はそこじゃない。
次だ。
ネメシが繋ぐ。
選ぶ。
一瞬の迷い。
――遅い。
剣を当てる。
崩す。
体勢が流れる。
距離を取る。
ネメシは立て直す。
いい反応だ。
だが、
まだ“追っている”。
「惜しいな」
自然と口に出る。
ネメシは再び踏み込む。
ズラす。
流す。
――通る。
今度は少し深い。
視界の中で、
ネメシの“選択”が見える。
だが、
読める。
次の一手。
その前提。
すべてが、
“繋がっていない”。
だから、
崩せる。
ネメシが動く。
こちらが半歩先に動く。
外す。
誘う。
――来る。
剣が空を切る。
その瞬間。
入れる。
浅く。
だが、
十分。
ネメシのリズムが崩れる。
呼吸。
間合い。
すべてが一瞬ズレる。
それでいい。
それだけで、
主導権は移る。
「……まだ“点”だな」
ネメシの動きは悪くない。
一手一手は鋭い。
だが、
繋がらない。
“点”のまま。
だから、
潰せる。
ネメシが踏み込む。
今度は迷いがない。
いい。
だが、
遅い。
わずかに。
その差で十分。
流す。
外す。
入れる。
連鎖する。
ネメシは食らいつく。
崩れない。
だが、
流れは変えられない。
最後の一手。
ネメシが踏み込む。
いい判断だ。
だが、
見えている。
外す。
返す。
決まる。
システム表示。
勝利。
動きを止める。
視線はネメシへ。
立っている。
倒れていない。
最後まで。
「……悪くない」
小さく呟く。
確かに、
届きかけている。
だが、
まだ遠い。
「あと一段だな」
誰に言うでもなく。
ネメシは何も言わない。
だが、
目は死んでいない。
それでいい。
あの目なら、
また来る。
次は、
もう少し面白くなるかもしれない。
背を向ける。
フィールドを後にする。
勝敗は終わった。
だが、
あれは終わりじゃない。
むしろ、
始まりに近い。




