第22話 最初のズレ
ログが並ぶ。
時系列。
フレーム。
入力。
結果。
すべてが整然と並んでいる。
だが、
「……ここ」
マアトが指を止める。
ほんの一瞬。
数フレーム。
だが、
確実に“何かが違う”。
「それ、例の転送?」
「うん。最初の」
ネメシの初回転送ログ。
すべての起点。
その瞬間。
マアトは再生する。
通常フィールド。
移動。
入力。
問題なし。
そして――
転送。
別座標。
即時復帰。
表面上は、
ただそれだけだ。
「エラーは?」
「出てない」
「処理遅延は?」
「ゼロ」
「外部干渉ログは?」
「なし」
答えは揃っている。
だからこそ、
おかしい。
マアトは再生を止める。
少しだけ巻き戻す。
「この直前」
指を差す。
入力ログ。
移動操作。
視点変更。
ジャンプ。
どれも普通だ。
だが、
「……ここ、薄い」
誰かが呟く。
マアトは頷く。
「うん。欠けてる、じゃない」
目を細める。
「“薄い”」
完全な欠損ではない。
存在している。
だが、
密度が違う。
情報量が少ない。
「圧縮?」
「違う」
即答。
「処理は通ってる」
ログとして成立している。
だが、
“軽い”。
マアトは別のログを開く。
同時刻。
同サーバー。
他プレイヤー。
並べる。
比較。
「……こっちは普通だな」
「うん」
ネメシのログだけが違う。
その瞬間だけ。
「これ、なんだと思う?」
誰かが問う。
マアトは少しだけ考える。
そして、
「……処理の抜けじゃない」
静かに言う。
「むしろ逆」
視線をログに落とす。
「“処理されてないわけじゃないのに、軽い”」
矛盾した状態。
だが、
確かにそうなっている。
マアトはさらに巻き戻す。
転送の直前。
その一瞬。
フレームを止める。
「ここ」
誰もが画面を見る。
何も起きていない。
少なくとも、
見た目は。
「……何もない」
「うん」
マアトは頷く。
「でも」
指先が止まる。
「ここでズレてる」
時間軸。
ほんのわずか。
だが、
確実に。
「前後と合ってない」
「そんなことある?」
「普通はない」
マアトは言い切る。
「でも、起きてる」
ログは正常。
だが、
整合性が取れていない。
その矛盾。
「……これが、起点」
誰かが呟く。
マアトはゆっくりと頷く。
「うん。ここから」
ネメシの転送。
その後の戦闘。
すべてが、
この一点から始まっている。
マアトは息を吐く。
視線は外さない。
「外部じゃない」
ぽつりと漏らす。
周囲が静まる。
「ログに残ってない」
「……」
「でも、起きてる」
マアトの目が細くなる。
考えがまとまっていく。
「内部」
その一言で、
空気が変わる。
誰もすぐには言葉を返せない。
それは、
最も可能性が低く、
最も厄介な仮説。
マアトはもう一度ログを見る。
あの一瞬。
“何も起きていないように見える瞬間”。
だが、
確実にズレている。
それは、
偶然ではない。
そして、
まだ続いている。
マアトは静かに言う。
「これ、止まってない」
誰かが息を呑む。
「今も、どこかでズレてる」
断定。
迷いはない。
最初のズレは、
終わっていない。
続いている。
見えないまま。




