第20話 変化の痕跡
ログが流れる。
フレーム単位の戦闘記録。
数値。
入力。
結果。
すべてが並ぶ。
マアトは無言でそれを追っていた。
「……来てる」
小さく呟く。
誰に向けた言葉でもない。
だが、
確信はある。
「例のプレイヤー?」
隣のオペレーターが反応する。
「うん。ネメシ」
戦闘ログを拡大する。
前回。
そして今回。
並べる。
比較。
差分。
「ここ」
マアトは一点を示す。
踏み込み。
入力タイミング。
結果の出力。
「ズレてる」
「え、前は“合いすぎてる”って……」
「そう」
マアトは頷く。
「前は、合いすぎてた」
指先でログをなぞる。
「でも今は、ズレてる」
静かな声。
だが、
その意味は大きい。
「悪化?」
「違う」
即答。
「“意図的にズラしてる”」
その一言で、
空気が変わる。
「そんなことできるの?」
「できてない」
マアトは言い切る。
「でも、やろうとしてる」
ログを再生する。
一撃目。
ヒット。
浅いが、通っている。
「ここ」
再生を止める。
「前はこの位置で当たらなかった」
「……ほんとだ」
オペレーターが身を乗り出す。
「でも続いてない」
「うん」
マアトは頷く。
「続いてない」
次のログ。
判断の遅れ。
入力のブレ。
結果の崩れ。
「未完成」
ぽつりと呟く。
だが、
その目は鋭い。
「でも――」
少しだけ間を置く。
「方向は合ってる」
断定。
迷いはない。
周囲が静まる。
マアトはさらに別のログを開く。
上位ランカー側。
同じ戦闘。
同じ瞬間。
比較。
「……こっちも変わってる」
誰かが言う。
マアトは小さく頷く。
「対応してる」
ネメシの変化に対して、
わずかに反応が変わっている。
完全ではない。
だが、
確実に。
「……これ、追従してる?」
「可能性はある」
マアトは視線を落とす。
思考が走る。
ネメシが変わる。
相手も変わる。
偶然では説明しきれない。
「片方だけじゃない」
以前と同じ結論。
だが、
今は重みが違う。
「両方、動いてる」
マアトはゆっくりと息を吐く。
そして、
「ログ、拡張して」
指示を出す。
「対象はネメシと対戦相手、両方」
「了解」
「あと」
少しだけ迷って、
続ける。
「この変化、時系列で全部洗って」
周囲が一瞬止まる。
「全部?」
「うん」
マアトは頷く。
「最初から」
その一言で、
空気が張り詰める。
ただの観測ではない。
遡及調査。
本格的な解析。
マアトはモニターを見つめる。
ネメシのログ。
その中にある、
わずかな変化。
それはまだ、
未完成だ。
だが、
確実に“進んでいる”。
マアトの目が細くなる。
これは、
ただの異常じゃない。




