第19話 未完成のまま
再び、アリーナ。
視界が開ける。
フィールド。
観客のざわめき。
そして、
対面に立つ相手。
ネメシはゆっくりと息を吐いた。
前回と同じ相手ではない。
だが、
同じランク帯。
上位。
それだけで十分だ。
構える。
思い出す。
“結果をなぞるな”。
“その場で最適を選べ”。
頭では理解している。
だが、
それだけだ。
開始の合図。
ネメシは踏み込む。
速い。
だが、
いつもよりわずかに遅い。
意識しているからだ。
相手の反応を見る。
距離。
角度。
タイミング。
選ぶ。
振る。
――浅い。
手応えが軽い。
すぐに引く。
追撃は来ない。
様子見。
互いに同じだ。
ネメシはもう一度踏み込む。
今度は、
“合わせる”のではなく、
“流す”。
角度を変える。
わずかに。
振る。
――当たる。
ネメシの目がわずかに開く。
通った。
だが、
浅い。
決定打にはならない。
それでも、
前とは違う。
ネメシは間を詰める。
もう一手。
選ぶ。
――迷う。
一瞬の遅れ。
相手の剣が動く。
弾かれる。
体勢が崩れる。
ネメシはすぐに距離を取る。
心臓が強く打つ。
今の一手。
悪くなかった。
だが、
遅れた。
“考えた”からだ。
ネメシは歯を食いしばる。
理解している。
だが、
使えない。
相手が踏み込む。
速い。
ネメシは反応する。
防ぐ。
流す。
返す。
――ズレる。
わずかな違い。
タイミングが合わない。
結果が噛み合わない。
ネメシは一歩下がる。
呼吸が乱れる。
さっきの一撃は通った。
だが、
続かない。
再現できない。
「……チッ」
小さく舌打ちする。
分かっている。
“未完成”だ。
ネメシは構え直す。
今度は迷わない。
踏み込む。
振る。
――外れる。
さっきと同じ感覚のはずなのに、
同じ結果にならない。
ネメシの眉が歪む。
分かっているのに、
できない。
相手は崩れない。
むしろ、
少しずつ圧が増している。
ネメシは防ぐ。
流す。
返す。
だが、
すべて一歩遅い。
その差が、
確実に積み重なる。
ネメシは一度、大きく下がる。
距離を取る。
呼吸を整える。
まだ終わっていない。
だが、
流れは悪い。
ネメシは目を閉じる。
一瞬だけ。
そして、
開く。
考えるのをやめる。
踏み込む。
振る。
――当たる。
今度は、
さっきより深い。
ネメシの目が細くなる。
続ける。
もう一手。
選ぶ。
――遅れる。
弾かれる。
崩される。
体勢が流れる。
視界が傾く。
地面。
衝撃。
HPが削れる。
ネメシはすぐに起き上がる。
だが、
距離は詰められている。
追撃。
防ぐ。
間に合わない。
もう一撃。
入る。
システム表示。
敗北。
ネメシは動かない。
ただ、
その場に立っている。
さっきよりは通じた。
確かに。
だが、
勝てない。
ネメシはゆっくりと息を吐く。
悔しさはある。
だが、
それ以上に、
分かっていることがある。
方向は間違っていない。
だが、
まだ足りない。
ネメシは視線を上げる。
次だ。
もう一度。
未完成のまま、
進むしかない。




