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第18話 ズレているのは



 トレーニングエリアの端。


 ネメシは剣を下ろしたまま、

 小さく息を吐いた。


 何度やっても同じだ。


 再現できない。


 あの一手。


 あの感覚。


 “通りかけた”何か。


 それが掴めない。


「……クソ」


 短く吐き捨てる。


 思考は回っている。


 だが、


 答えに届かない。


「悩んでる顔だな」


 不意に声がかかる。


 ネメシは顔を上げた。


 少し離れた位置に、

 一人のプレイヤーが立っている。


 装備は軽い。


 派手さはない。


 だが、


 立ち方が違う。


 無駄がない。


「……見てたのか」


「ああ」


 あっさりと返される。


「さっきからずっと、同じことやってる」


 ネメシは何も言わない。


 否定もしない。


 事実だからだ。


「再現できないんだろ」


 その一言で、


 ネメシの視線が鋭くなる。


「……分かるのか」


「分かるさ」


 男は肩をすくめる。


「昔、同じところで詰まった」


 ネメシは一歩だけ距離を詰める。


「何が違う」


 即座に問う。


 迷いはない。


 男は少しだけ考えてから、


「“同じ動き”をしてるつもりだろ」


 そう言った。


 ネメシは黙る。


 図星だ。


「でも、それ違うぞ」


 軽く言い切る。


「同じにしようとしてる時点で、もうズレてる」


「……どういう意味だ」


 ネメシの声が低くなる。


 だが、


 男は気にした様子もない。


「お前、結果をなぞってる」


 短い言葉。


 ネメシの中で、

 何かが引っかかる。


「さっきの戦闘、見てた」


 男は続ける。


「いい動きしてたよ」


 評価。


 だが、


 それよりも気になる言葉がある。


「……結果、だと?」


「そう」


 男は頷く。


「“当たった動き”を再現しようとしてる」


 ネメシの眉がわずかに動く。


「でもな」


 一歩だけ踏み出す。


「それ、逆だ」


 その一言で、


 空気が変わる。


「逆……?」


「当たったから正しいんじゃない」


 男はネメシを見る。


 まっすぐに。


「正しい動きの結果が、当たりだっただけだ」


 静かな声。


 だが、


 はっきりしている。


 ネメシの思考が止まる。


 そして、


 ゆっくりと動き出す。


「……正しい動き」


 口の中で繰り返す。


「お前がやってるのは」


 男は続ける。


「“結果を再現する動き”だ」


「……」


「でも、さっきのは違う」


 ネメシの視線が上がる。


「“その場で最適だった動き”だ」


 その言葉が、


 静かに落ちる。


 ネメシの中で、


 何かが繋がる。


 完全ではない。


 だが、


 確実に近づく。


「だから再現できない」


 男は軽く笑う。


「状況が違えば、正解も変わるからな」


 ネメシは何も言わない。


 だが、


 理解はしている。


 完全ではないが、


 方向は見えた。


 ネメシは剣を握る。


 ゆっくりと構える。


 今度は、


 “同じ動き”をしようとしない。


 ただ、


 今の位置。


 今の間合い。


 今の自分。


 それだけを見る。


 踏み込む。


 振る。


 ――さっきとは違う。


 だが、


 どこか近い。


 ネメシの目が細くなる。


「……それでいい」


 後ろから声がする。


 ネメシは振り返らない。


 もう一度。


 踏み込む。


 振る。


 少しずつ、


 感覚が繋がる。


 まだ不安定だ。


 だが、


 確かに前とは違う。


 ネメシは剣を下ろす。


 呼吸は落ち着いている。


 視界もクリアだ。


 男の方を見る。


「名前は」


 短く問う。


 男は少しだけ笑って、


「……そのうち分かる」


 そう言って、


 背を向けた。


 ネメシはそれを追わない。


 今はそれよりも、


 やることがある。


 ネメシは再び構える。


 “同じ一手”ではなく、


 “今の一手”を掴むために。

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