第17話 同じはずの一手
ロビーの喧騒は、
さっきまでと何も変わらない。
人の声。
足音。
装備の擦れる音。
すべてが、
いつも通りだ。
だが――
ネメシの中だけが違う。
視線は自然と、
周囲のプレイヤーに向いていた。
動き。
間合い。
立ち方。
観察しているつもりはない。
だが、
目に入ってくる。
剣を振る動作。
スキルの発動。
回避。
その一つ一つが、
どこか“引っかかる”。
「……違う」
小さく呟く。
自分の中に残っている感覚と、
今、目の前で起きている動き。
同じはずなのに、
どこか違う。
ネメシは一人、
トレーニングエリアへ向かう。
人の少ない区画。
簡易フィールド。
検証には十分だ。
剣を構える。
深く息を吐く。
そして、
踏み込む。
最短距離。
最速の一手。
振り抜く。
空を切る。
問題はない。
今まで通りだ。
ネメシはもう一度踏み込む。
今度は少しだけ、
意識してズラす。
タイミング。
角度。
わずかな差。
振る。
――違う。
手応えがない。
ネメシは眉を寄せる。
今のは、
“さっきの戦闘で通らなかった一手”に近い。
だが、
再現できない。
ネメシは何度も繰り返す。
踏み込み。
角度。
間合い。
少しずつ変える。
だが、
しっくりこない。
「……なんでだ」
低く呟く。
さっきの感覚は、
確かにあった。
狙ったわけじゃない。
だが、
“そこにあった”。
ネメシは動きを止める。
思い返す。
戦闘中。
あの一瞬。
通りかけた感覚。
だが、
再現できない。
ネメシはもう一度構える。
今度は――
考えるのをやめる。
踏み込む。
振る。
ただ、それだけ。
――わずかに、
感覚が近づく。
ネメシの目が細くなる。
もう一度。
同じように。
踏み込む。
振る。
――違う。
さっきと同じ動きのはずなのに、
同じにならない。
「……同じ、じゃない」
ぽつりと漏れる。
自分の中で、
何かがズレている。
ネメシはゆっくりと剣を下ろす。
呼吸を整える。
理解はできていない。
だが、
ひとつだけ分かることがある。
あの時の一手は、
“狙って出したものじゃない”。
そして、
今の自分は、
それを“再現できない”。
ネメシは小さく息を吐く。
――足りない。
だが、
それだけじゃない。
ネメシは再び構える。
今度は、
ほんの少しだけ意識を変える。
“合わせる”のではなく、
“流す”。
踏み込み。
振る。
――一瞬。
感覚が重なる。
ネメシの目がわずかに開く。
だが、
すぐに消える。
再現はできない。
だが、
確かにあった。
ネメシは剣を握り直す。
さっきよりも、
わずかに強く。
方向は見えた。
だが、
まだ届かない。
ネメシはもう一度踏み込む。
次の一手を、
掴むために。




