第14話 上へ
狩場を出たあとも、
ネメシの足は止まらなかった。
目的地は決まっている。
迷う理由もない。
“上”。
あの一言だけで、
十分だった。
拠点の中央区へと足を向ける。
人の流れが変わる。
装備も、
立ち方も、
雰囲気も違う。
同じプレイヤーでも、
ここにいる者たちは少しだけ質が違う。
ネメシは視線を流す。
強い。
それだけは分かる。
だが――
足りない。
自分に対しても、
周囲に対しても、
同じ感覚がある。
やがて、
一つの建物が見えてくる。
開けた入口。
人の出入りは多いが、
無駄な喧騒はない。
目的がはっきりしている場所だ。
ネメシはそのまま中へ入る。
視界が開ける。
いくつかのフィールドが区切られている。
戦闘用のエリア。
観戦スペース。
待機しているプレイヤーたち。
ここが、
“上”だ。
ネメシは立ち止まらない。
奥へ進む。
受付のような端末の前で、
一度だけ足を止めた。
画面を確認する。
対戦形式。
レート。
順位。
見慣れない情報が並ぶ。
だが、
理解できないものではない。
ネメシは迷わず操作した。
登録。
申請。
それだけだ。
完了の表示が出る。
同時に、
軽い振動。
マッチング。
早い。
予想よりも。
ネメシは息を吐く。
緊張はない。
ただ、
少しだけ感覚が研ぎ澄まされている。
呼び出し。
フィールド指定。
ネメシはそのまま移動する。
指定されたエリアに入る。
視界が切り替わる。
簡素なフィールド。
障害物は少ない。
純粋な対人用だ。
向こう側に、
一人。
立っている。
距離は十分。
開始前の静寂。
ネメシは剣を構える。
相手も同じように構える。
その瞬間、
視線が合った。
わずかに、
相手の口元が動く。
「……新人か」
小さな声。
だが、
はっきりと聞こえた。
ネメシは何も返さない。
その必要はない。
カウントが始まる。
3
2
1
ゼロ。
同時に、
ネメシは踏み込んだ。
迷いはない。
最短距離。
最速の一手。
だが――
相手は動かない。
遅いわけではない。
“見ている”。
ネメシの動きを。
踏み込み。
間合い。
角度。
すべてを。
そして、
その上で動く。
剣がぶつかる。
重い。
先ほどの相手とは違う。
逃がさない。
受ける。
崩す。
押し返す。
ネメシは即座に体勢を変える。
対応はできている。
問題はない。
だが――
主導権がない。
どこまでいっても、
相手の流れの中にいる。
ネメシは一歩引く。
距離を取る。
呼吸を整える。
視線は外さない。
相手も同じだ。
崩れない。
焦りもない。
ただ、
そこにいる。
ネメシは再び踏み込む。
今度は変える。
タイミングをずらす。
角度を変える。
連続。
繋ぐ。
だが――
通らない。
すべて、
処理される。
「……いいな」
相手が小さく呟く。
評価。
それは分かる。
だが、
その先がある。
ネメシは歯を食いしばる。
まだ足りない。
分かっている。
だが、
ここで止まる理由もない。
もう一歩。
踏み込む。
第14話までお読みいただきありがとうございます。
ネメシは“上”の場所へ足を踏み入れました。
これまでとは違い、純粋な対人の場になります。
通用している部分は確かにありますが、
それだけでは届かない領域でもあります。
この場所で、何が足りないのか。
そして、何を掴むのか。
引き続き見ていただけると嬉しいです。




