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第13話 成立している異常

 ログは、正常だった。


 数値も、

 処理順も、

 すべて問題はない。


 戦闘として成立している。


 だからこそ――


「……おかしくない?」


 小さく呟いたのはマアトだった。


 モニターには、

 プレイヤー同士の戦闘ログが表示されている。


 特別なものではない。


 本来なら、

 そのまま流していいデータだ。


 だが、


「処理は通ってる」


 隣のオペレーターが答える。


「エラーもないし、巻き戻りもない」


 その通りだ。


 記録上は、完全に正常。


 それでも、


「じゃあ、これ何?」


 マアトは該当箇所を拡大する。


 一連の動き。


 入力。


 判定。


 結果。


 すべて揃っている。


 ――はずなのに。


「間が、ない」


 ぽつりと零す。


 本来あるべき“過程”が、

 どこか抜け落ちている。


「いや、あるだろ」


 別の声が入る。


「フレームも全部記録されてる」


「うん、ある」


 マアトは頷く。


「……でも、繋がってない」


 視線は画面から動かさない。


 再生する。


 もう一度。


 今度は速度を落とす。


 それでも同じだ。


 入力に対して、

 結果が“合いすぎている”。


 ズレがない。


 だからこそ不自然だ。


「外部ツールの可能性は?」


「ログ上は検知なし」


「なら内部?」


「それも出てない」


 やり取りは淡々としている。


 だが、

 空気は少しずつ変わっていく。


 マアトは無言で、

 もう一つのログを呼び出した。


 同じ時間帯。


 同じエリア。


 別のプレイヤー。


 ――同じだ。


「……こっちも?」


「何それ、また?」


 画面を覗き込む気配が増える。


 再生。


 停止。


 巻き戻し。


 繰り返す。


「成立はしてる」


 誰かが言う。


「でもこれ、普通じゃない」


 別の誰かが続ける。


 否定はない。


 できない。


 すべてが正しい。


 だから否定できない。


 だが――


「原因、分かる?」


 問いに対して、


 誰も答えない。


 分からないのではない。


 “特定できない”。


 それが正確だった。


 マアトはログのプレイヤー情報を開く。


 片方。


 ランキング持ち。


 上位ランカー。


 納得できる。


 だが――


 もう一人。


「……この人」


 見覚えがある。


 異常座標のログ。


 転送履歴。


 数日前に上がってきた報告。


 断片が、

 ゆっくりと繋がっていく。


「偶然じゃない」


 小さく呟く。


 誰に向けた言葉でもない。


 だが、

 それははっきりとした意思だった。


 マアトは一度だけ目を閉じる。


 そして、


 もう一度ログを見る。


 今度は、

 “確認”ではない。


 “前提”として。


 異常がある。


 そう仮定して。


 画面の中の戦闘が、

 まるで別のもののように見えた。


「……これ、拾うよ」


 静かな声。


 判断は早い。


 迷いはない。


 誰かが小さく息を呑む。


 空気が変わる。


 ただのログではなくなった。


 それだけで、

 十分だった。

第13話までお読みいただきありがとうございます。


今回は運営側の視点でした。

エラーは出ていない。

それでも、違和感だけが残るログです。


成立しているはずの戦闘に、

どこか噛み合わない部分がある。


まだ断定はできない段階ですが、

このズレに気づいたことで、状況は少しずつ動き始めます。


引き続きよろしくお願いします。

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