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青春ロッカーのラブコメ背信~現実はギャルゲーほど甘くない~  作者: 創華


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9/11

09.リアルタイム

 三脚に固定された目の前のスマートフォンにはギターを持った自分が映っている。

 その奥の風景は県を分ける利根川と繋ぐトラス橋。そしてそれを支える二本のコンクリート柱。

 準備を終えた俺は非日常の仲間に高めのテンションに切り替えて接した。

「お前ら! お待たせ!」

『SIIIIIN!』『全裸待機で風邪ひいた』『おせーよバカ!』

 スマホの奥には三十人程度のリスナー、じきにリスナーたちはチャンネルを出入りし増えたり減ったりする。夕食後に自室のベッドでくつろいでいる人、電車の中でイヤホンをして聞いている人、風呂の中で見ている人、そして俺から少し離れた隣で画面を見ているであろうシオリさん。

「遅かったのはワリいな。服は着てくれ」

『アソパソマソは練習した?』『しいいいいいいん!!』『ワクワク』

 河童の金玉【風邪に効く曲で俺を治せ】

「練習してきたぜ、アンパンマン関係をいろいろ弾く予定だ」

 視線を膝元に落としスマホを操作した。その間もリスナーは勝手に心を解放していく。

『バタコサーン』『ジャムSUN』『来いよチーズ!』『アンアーン!』

『勇気凛々』『僕は今から空を飛ぶ!』『フライアウェイ』『ウェェェェェイ』

『ハヨ』『期待』『勇気一倍』『勇気二倍』『×ゼロ』『そんなのいやだぁぁぁぁ』

『全裸体操』『アイマーメス! アイマーメス!』『俺らともっとしゃべろうぜ』

 膝の上のスマホにTAB譜を映し出すとリスナーにまた向き合った。

「お前ら、新しい顔だぜ!」

 これは俺の学校や家で見せない顔。もう、恥ずかしさはどこにもない。

 飛び交うコメントに目を瞑り、指先のピックを弦に懸けた。


 言葉にならない想いがあふれていく。

『何のために生まれて』『何のために生きているの』

『愛とセックスのためやで』『分からないまま終わる』『それは童貞と処女』

『夢を忘れるなぁぁぁぁぁ』『僕は飛ぶ! 君も跳べ!』『いやっふぅ』

『糞ルイージめ、俺よりも高く飛び上がって』『愛と勇気だけが友達さ』

 俺がこの曲にから想起するのは勇気と慰め。

 勇気があれば何かが変わるのだろうか。

 俺にあと少しの勇気があれば――。自信があれば――。嗚呼。糞ったれ!

『サッカーボールも友達さ』『お前らは俺の友達さ』『胸の傷は俺らが埋めてやる』

『挫けるな』『お、お前らぁ』『さあ、手を繋ごうぜ』

『俺は無理』『まず相手を用意してください』『アンパンマンは意気地なしの歌だった?』

『手なんか必要ない俺ら輪ここで繋がってる』『WWWWW』

 お前らと俺の心はどこに向かって行くのだろうか。

『愛を忘れるな』『羽ばたけ!』『うおおおおお! エモーション!』

『神キターーーッ!』『盛り上がってきた!』『ときめけ!』『行くぞお前ら!』

『『『アンパーンマーーーーーーーン!!!』』』

 ――ジャジャジャ、ジャジャジャ、ジャ、ジャンー。と切るように終えた。

 目の前に飛び込むリスナーたちの言霊が今日もしっかりと俺の心に届いてきた。

「サンキュー! オーディエンス!」

 隣からズサッと音がした。大きな声に驚かせてしまったのかもしれない。

『『『88888888888888888』』』

『元気貰ったわ』『明日も仕事がんばろ』『意外とどれも歌詞深いんだよな』

 マーマ零度ママ【今日は娘と聴いてた】

『良かったわ』『この世は愛であふれてる!』『うおおおおお』『バイバイキーン』

『SIIIIIN』『裸でいるの恥ずかしくなってきた』『ええんやで』

『人は服を脱げば皆裸だ』『サスSIN』

「えー、事前に貰ったリクエストと物語を読ませていただきます」

 膝元のスマホにあるのは人の人生。

「リスナー名はイマジョダイさんです。この曲は『たまたま』という曲です」

『下ネタキター!』『ワクワク』『昨日から俺のタマタマが腫れてるんだが』『病院池』

「その子との出会いは高校でした。たまたま隣の席になって、たまたま帰り道が同じ方向で、たまたま恋の話になりました」

 俺は守谷さんと一緒に帰ったことも恋の話はしたことない。漫画の恋愛シーンや胸キュンについては語ったりすることあるけど。

『エッモ』『あっ、そっちの金タマね』『俺は最初からわかってた』

 ゴールデンボール軍曹【じゃあなお前ら】

『軍曹いっちゃらめぇぇぇぇ』『お金持ち!』『俺は金玉ソルジャー』

 イマジョダイ【支援】

『出たイマジョダイ』『ワッフルワッフル』『イマジョダイ!』『こんばんわ』

「私はその子のことが好きですが、その子が好きな人は私以外のだれかということを知ってしまいました」

 う、うわ~やっぱりキッツ。守谷さんに好きな人いたら俺死ぬかも。

『あるある』『あら~』『次いこ次』『出会いは億千万』

「だけど、諦められません。これほど近くにいるのに、こんな運命のような出会いを、ただの『たまたま』という偶然で片付けたくないと思います」

『頑張れ!』『成功を祈る』『わかる~』『簡単に諦められないよな』

 改めて読んだけど、やっぱり、すげー勇気あるよ、この人。

「私はこの曲にとても共感しました。皆さんも聴いてください。だってさ、……お前ら聴く準備はできてるか?」

『どしたん?』『話しきこっかぁ!?』『キクヨ!』『来い!』『恋!』

 俺は既に曲調とTAB譜は頭に入っている。準備は出来ている。

「それじゃあ聴いてくれ『たまたま』」

『偶々?』『タマタマ!』『またまた』『カッチンコ!』『チンチン!』

 くだらないコメントに目を瞑り、自分の世界へと浸っていった。すぐに柔らかく切ない曲が流れ始めた。


 たまたま、小中高と同じだった幼馴染。

 たまたま、同じ家で暮らすことになった血の繋がりの無い家族。

 たまたま、隣同士の席になった女の子。

 たまたま、河川敷で出会った女の子。

 人が人を好きになることなんて、偶発的なほんの些細なきっかけだ。

 けれども偶然や運命なんて言葉で片づけたくない思いが俺の中にもある。

 本音で話せない気持ちはすごくよくわかる。

 素直に生きたいって気持ちもよく分かる。

 恋は切なく。そして単純ではない、しがらみも気にしてしまう。

 今の俺はこの曲に深く共感できるぜ。

 素直に気持ちを打ち明けられたらどれほど心は軽くなるのか。

 ただ近くに居れればそれでいい。近くに居るからこそ関係を壊すのが怖いんだ。

 曲は切ないまま閉じた。


「サンキュー、オーディエンス」

『泣いた』『辛い』『恋じゃない、愛や』『アイヤー嗚呼あああああ』

 イマジョダイ【今、私たちは女子大に通っていて、同棲もしています。とても幸せです】

『あびゃあああああ』『いいですわぞ~』『おねいさま~』

 女の人同士だったのか。

「イマジョダイさん、スパチャありがとうございます。まんまと騙されたぜ」

『888888888』『SIN様ステキ!』『俺らの兄貴カッコいい!』『青春だな』

「これは俺の話になるんだが、今日は始業式だった」

『ほんで?』『おっ?』『おっ?』『パンツ脱いだ』『幼馴染コイ!』

「今年も俺の好きな子と同じクラスだった」

『キターーー!』『ヒロインちゃーーーん!』『あら~』『おめ!』

「そしてまた、隣の席だった」

『タマタマ』『ほんでぇぇぇい!』『運命!』『もう付き合っちゃえ!』

『告白汁!』『たまたま』『金のタマタマ』

「だから、俺はとても幸せです」

『ちがーーーーーーう!』『俺らを裏切るな!』『続きはよ』『そんな落ちなわけねぇよなあ!』『この拗らせ野郎!』『幼馴染出せ!』

「実のところ、クラスが違ったら告白しようと思っていた」

『ああ、そういうこと』『どういうこと?』『わかる』『共感』

 鎖帷子【お前は早くアタックしろ】

 喰いつく婆さん【告白は確認作業よ!】

『卒業式に告白するみたいなもんだろ』『ああ、なる』『アナる』『それそれ!』

「当然、同じクラスになったあの子に俺は告白なんてする勇気はなかった。だけど進展が少しだけあった」

『なにっ!?』『ワッフルワッフル』『ワクタク』

「係が一緒になったんだ。そしてこれは『たまたま』じゃない、俺はその子を狙って手を挙げたんだぜ!」

『偉い!』『安心した』『良くやった!』『一歩前進や』『よっしゃぁぁぁ』『青春やな』

『その子も喜んでるよ』『初々しいのう』『ピュアすぎてワロタ』『俺らの時代キター!』

「お前ら、今夜はまだまだ始まったばかりだぜ」

『そうだぜ』『知ってるぜ』『やれやれ』『変わらないね~』

「お前らからのリクエストもまだまだある。次行くぜ! お前ら!」

『『『おうっ!』』』


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