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青春ロッカーのラブコメ背信~現実はギャルゲーほど甘くない~  作者: 創華


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06.放課後の誘い

 放課後。といってもオリエンテーションだけだったからお昼ごろ。自己紹介や係決め今後の年間スケジュール等の確認を終えたあと、今後の学校生活の期待を高めてホームルームを野田先生が締めた。

 俺は流れで明らかにめんどくさそうな文化祭実行委員に立候補してしまった。守谷さんと葵が示し合わせたように手を挙げて、女子枠が決まった後に誰も手を挙げなかったから、止まってしまった時間を進めるように手を挙げただけだ。そしてその後に野球部の翔太が続けて手を挙げて円滑に決まった。大きいのを一発やりきるか、号令係や花に水やりをする係のように毎日コツコツやるかの違いに過ぎない。それでも文化祭実行委員って殊更大変そうだなぁとは思う。けれども俺はさっき言われた「一緒に頑張ろうね」の笑顔の一言で前払い報酬を受け取ってしまっていた。頑張ろう。

 守谷さんの後ろ姿をチラッと見た。茶髪なのに金に見える様な綺麗さだ。今は俺の幼馴染である葵と楽し気に話している。彼女らは一年の頃から良くつるんでいる。

 さて帰るか、と後ろにギターバックを取りに行こうとしたら、葵から声がかかった。

「シンイチーうちらこのあと、オケ行くけどシンイチもくる?」

 短い黒髪の中に青メッシュが少しだけ見えた。ニコニコと俺の回答を待っている。

 そんなことより守谷さんとカラオケだって、どうしよう。

「女バスと女テニは?」

 俺は冷静だ、今日から部活があるってさっき野球部の翔太が言っていた。

 守谷さんが、背中を反らせて口を開いた。胸が張っていてヤバい。サーブもそうやって身体を反らして打つのかな。イカンと煩悩を祓って視線を彼女の逆さ顔へ戻した。……逆から見ても可愛いな。もし倒れてしまいそうになったら俺がサッと背中を支えてやる。絶対。

「今日はないよー」

「そうなんだ」

 誘ってきたのは葵だけど、表情を見る限り守谷さんも嫌がっている感じはない、と思う。

 行ってみたい気持ちもあるが、俺には守谷さんと長時間一緒に過ごすことが不安でしかない。

「……行けたら行く、的な?」

「何それ、絶対こないやつじゃん。ウケるんですけどー」

「そっかー」

 葵は冗談と捉えて笑っている、守谷さんも笑っているがどう思ったのかまでは俺には分からない。

 俺はこのまま同じクラスで隣同士の席でまた一年間、それなりに仲よくやっていければ、それで良い。学校の外で彼女に変な期待を寄せたりミスしたくない。

「ごめん、今日は予定があるんだ。また今度、行けたら行く」

 予定なんてない。本当は自分に自信がないだけなんだ。


 学校から坂道を少し下り、神社と図書館の間を通り過ぎると利根川の土手に出た。

 土手と川の間に広がるのは総合運動公園。テニスコートにサッカーゴール、野球グラウンド、バスケのコートまで何でもそろっている。

 青空の下、陽気な春風を浴びながらいつもの場所に向かってしばらく土手を歩く。今の時期は菜の花が咲いている。『菜の花や ああ菜の花や 菜の花や』とはよく言ったものだ。俺も菜の花見たら「ああ、菜の花が咲いているな」と思う。

 時折すれ違ったりする犬の散歩をする主婦やランニングするおじさんはわざわざ、くよくよした気持ちの俺に声を掛けたりはしない。

 しかし、高架下でギターを弾いていると、その音に誘われてか、たまに声を掛けてくる人もいる。ちょっとした世間話をしたりお茶を差し入れしてくれたりもする。

 河川敷はなんとも呑気で開放的だ。


 俺は弁当を食べ終えて、事前にリスナーからリクエストされている曲をしばらく練習していた。曲は一曲通しで演奏し引っかかりのあるところだけ、入念に弾き全体がスムーズになるようにする。そしてまた通しで弾き直す。その時は目を瞑って本来の歌詞を思い浮かべながらメロディーに想いを乗せていく。

 演奏を終えて目を開く。利根川の流れと、高架橋を支えるコンクリートの柱が視界に戻ってきた。

「おおー!」

「すげー!」

 ついに横から幼い称賛とパチパチと拍手が聞こえた。

「シン! 今日も俺らが聞きに来てやったぜ」

「別にお呼びじゃないぜ」

 夕方に俺の周りに群がることが多いのは小学生のガキンチョたち。草を踏み順路から少しだけ外れた高架下にわざわざ寄って来る。数人でいると気が大きくなってか俺に積極的にかかわってくる。たしか今日からは小五だったか。

「次はガンマンズの主題歌やってよ!」

 こいつらは放課後にサッカーやスケボーをしたり野球をしたりと、常に楽しいことに飢えている。だから楽器の音に興味が移るのも自然なことでもある。

 そして俺は、そんなガキンチョ共に見つかった娯楽の獲物だ。

「はぁ」

 と息を逃がして、アニメOPのTAB譜をスマホに映し出した。

 引っかかるかもしれないが、一曲を通す。こいつらはちょっとしたミスには無頓着だ。

「「「ゴーゴーカンズマン! イケイケガンズマン! 俺らの大砲ぶっ放せ!」」」

 嗚呼、無邪気に気持ちよさそうに歌うなぁ。

 今頃、守谷さんも気持ちよく葵と歌っているんだろうか。

 モヤモヤとした気持ちを曲に乗せて晴らす。

「「「チュドーンとドカーンとガンズ砲! ホウッ!」」」

 なんとも頭の悪い歌詞だ。悩みというものとは無縁なガキンチョ共に俺は元気をもらった。それにしてもよく恥ずかしがらず大声で歌なんて歌えるよな。お兄さんはちょっと感動しちゃうぜ。

「シン! 次はな――」

 拍手のあとは決まって次のリクエストだ。

「はぁ」

 やれやれだぜ。こいつらはそのうち飽きてどっか行く。それまでの付き合いだ。

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