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青春ロッカーのラブコメ背信~現実はギャルゲーほど甘くない~  作者: 創華


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3/11

フレンチトースト

 時計を見ると七時前、目覚ましより先に目を覚ました。

 スマホ通知は一件、妹の紬からの返信スタンプのみ。

 部屋を出て左を見る。『このか』と書かれた部屋の中に、もうあいつはいないだろう。

 おおよその身支度を終えて下で飯を食っているはずだ。

 右隣りの『つむぎ』の部屋の住人は起きているか分からない。

 目の前のトイレに入ろうとしたところで、中から水の流れる音が聞こえた。

 俺の身体は身についたデリカシーに誘導されて一階のトイレへ向かった。


 リビングに入ると甘い匂いが香った。

 キッチンから声が掛けられる。

「おはよう、真一君」

「おはようございます、聡子さん」

 フライパンでどうやら俺の分のフレンチトーストを焼いてくれているようだった。

 エプロン姿の聡子さんにぶつからないように食器棚からグラスを出し、冷蔵庫のコーヒーと牛乳をキッチンで混ぜていると、隣からフルーツとヨーグルト、それとフレンチトーストが乗った盆が差し出された。聡子さんは横から微笑んだ。

「はいどうぞ、召し上がれ」

「あざす、いただきます」

 ダイニングテーブルの斜め向かいにはすでにワイシャツ姿の木乃香が、ナイフとフォークで上品に食べていた。

 制服にこぼしたらリスキーだろ、とは思っても言わない。

 目が合うと彼女の方から声を掛けてくれることが多い。もちろん声がかからなかったら俺から一応声を掛ける。

「おはよ」

「……はよ」

 いつも通り斜め向かいに座った。

「いつもより遅いわね」

「まあな……」

 言葉が続かない。

 春休み明けだからとか、担任の趣味の朝勉がないからとか、もっと情報あるだろうに俺。

「木乃香はいつも通りだな」

「まあね……」

 ちょっとした沈黙。

 俺はジャージのまま手づかみで食べ始める。

 聡子さんは俺の斜め後ろのキッチンで、自分と紬の分のフレンチトーストを焼いているのだと思う。

「一高ってクラス替えあるの?」

「ないわ」

「そうか……」

「二高はあるわよね?」

「まあな」

「楽しみ?」

「いや、別に」

 予想外の質問に反射的に出た嘘、実は割と楽しみだったりする。

 軽い反省中に二階でドアが閉まった音がした気がした。

 俺の背後からドタドタと階段を駆け下りる音が、近づいてくる。

 木乃香の肩が僅かに強張った。俺はフレンチトーストを頬張った。

 リビングの扉が勢いよく開かれた。

「おはよー!」

 木乃香が俺を見て固まった。いや、俺越しに見える紬の姿を捉えたのだろう。

「あら、紬、朝からどうしたの?」

「え? 七時に来れば出来たてのフレンチトースト食べれるんでしょ?」

 丁度俺の裏あたりでキッチンとリビングの入り口で聡子さんと紬の応酬があった。

 俺は気にせずフレンチトーストを一口齧った。甘い。うまい。

「ラップして置いておくつもりだったけど、せっかくだからここで食べてく?」

「うん!」

 紬が俺の後ろを通った。

「おはよー! お姉ちゃん&お兄ちゃん」

「おう」

 隣に座った紬が早速食べ始めるが、俺の正面に座った方がいいんじゃないかなと思った。だって、そこだと木乃香から真正面に小言くらうんだぜ。

「あ、あんたその髪、どうしたの?」

「うん? 染めたんだよ? 可愛いでしょ」

 思いの他、木乃香は戸惑いを見せていた。キツイ目つきじゃないのが少し新鮮だ。

 俺も最初は紬の髪色に驚いたが可愛いねとか似合ってるねとか言って褒めた気がする。

「ちょっと、あんたも食べてばかりいないで、なんか言いなさいよ!」

 あーあ、飛び火してきた。

「紬も俺もあんた呼ばわりじゃ、紛らわしいぜ」

「っ……、紬の見た目を注意しなさいよ!」

 ほんのりと顔を赤くさせた木乃香から、隣に座る紬の観察に意識を向ける。

 幸せそうに食べている姿に俺まで頬が緩んじゃいそう。

 薄い紫色の髪から視線を下に滑らしていくと最後に露出した太ももに留まった。

 段々と大人の女性に近づいていく紬にお兄ちゃんとして少し感じ入る。

 木乃香は俺の言葉を催促するように睨んでいた。

「短パンなんてけしからんよな」

「そういうことじゃない! 髪よ髪! 黒じゃなくて紫なのよ!?」

「紫じゃなくてラベンダーだよ。お姉ちゃん。それとお兄ちゃんは私を褒めて」

「パジャマと同じ色だし、似合ってんじゃね? 今日も可愛いぜ」

「さっすがお兄ちゃん、わかってるぅ」

「そういうことじゃないってば、ねぇ紬、あんた学校はどうするの?」

 心配が優勢になったような木乃香の態度に俺は黙食に戻った。

「別に……」

「別にってあんたね――」

「あらあら、なんだか久しぶりね、四人がリビングに揃うなんて」

 盆を持った聡子さんが俺の目の前に座った。

 たぶん、考え方の相いれない二人が言い合いをエスカレートさせていただろうから、ちょうどいいタイミングだ。

「ねぇママ。ママは紬に何かないわけ?」

「そうねぇ、今は特にないかしら、そんなことより温かいうちに食べましょう?」

 紬は最近染めたばかりなので、聡子さんにとって初見なのか知っていたのかまでは定かではないが、そんなことで済ましていい問題らしい。

「ちょっとママ——」

「木乃香」

 聡子さんの声に木乃香は口を閉じた。

「ねえねえ、お兄ちゃん今日何時に帰ってくるの?」

「今日も九時半くらいかな」

「そっかー、頑張ってね」

「おう。家のことは紬に任せた」

「えへへ、任された!」

 何を頑張れと言われたのか分からないが頑張ることにした。

「あんたねぇ、初日なんて午前で終わるはずでしょ?」

「まさか、俺に家にまっすぐ帰りなさいなんて言わないよな?」

「別に、言わないけど……」

「あらあら、今日から二人のお弁当作ってしまったわ」

「あっ、持っていって食べます。ありがとうございます」

「私も持っていくわ」

「木乃香は持ってかないで帰ってきてから家で食えば?」

「私は生徒会があるの」

「へぇー初日から大変なんだな」

「別に、大変じゃないけど」

「さいですか」

 なんていうか、真面目に頑張っているよな、普通に尊敬するぜ。

 俺は適当な相槌を打ちながら最後のヨーグルトを皿からこそいだ。

「「ごちそうさまでした」」

 声が重なった。

「えっ、二人とも食べるの早くない?」

「食べ始めが少し早かっただけよ」

「まあ、そういうことだな」

 俺も木乃香に続いてキッチンへ向かった。

 後ろからは紬が聡子さんに話しかけている声が聞こえる。

 二人は他愛無い話をするのだろう


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