第3話『この魔力、気持ちよすぎる……って団長、今なんて?』
白銀聖騎士団の医務室は、妙に静かだった。
いや、静かというより――全員が、音を立てないようにしている。
寝台の上には、白銀聖騎士団長セリア・ヴァルフレア。
その傍らには、つい数時間前まで冒険者パーティーを追放されたばかりだった男、レオン・アルヴァス。
そして医務室の入口付近には、リーネ、ミラ、エルザを含む騎士団員たちが、何とも言えない顔で並んでいた。
原因は単純だった。
「……レオン」
「何だ?」
「手を、離すな」
「分かってる」
「いや、違う。もう少し……強く握れ」
「強く?」
「……その方が、安定する」
セリアは真面目な顔でそう言った。
言った本人は真面目なのだろう。
騎士団長として、魔力の状態を冷静に分析しているつもりなのだろう。
しかし、その声は普段より少しだけ柔らかかった。
おまけに頬が薄く赤い。
そして、レオンの手を両手で包むように握っている。
結果として、医務室全体が妙な空気になっていた。
「……団長」
ミラが震える声を出した。
「部下の前です」
「分かっている」
「本当に分かっていますか?」
「何をだ」
「何をって……!」
ミラは耳まで赤くして、言葉を飲み込んだ。
代わりにリーネが、困ったように微笑む。
「セリア団長。魔力の安定に必要なのは分かりますが、少し、その……誤解されやすい表現は控えた方が」
「誤解?」
セリアは眉をひそめた。
「私は医療行為として必要なことを言っているだけだ」
「はい。それは分かっています」
「なら問題ない」
「問題しかない気がしますけど……」
リーネの声は小さかった。
レオンはひどく居心地が悪かった。
別にやましいことをしているわけではない。
今、彼がしているのは魔力譲渡だ。
セリアの損傷した聖痕を落ち着かせ、乱れた魔力回路を整えている。
ただ、その方法が問題だった。
効率よく魔力を渡すには、相手の魔力の流れに自分の魔力を重ねる必要がある。
特にセリアのような聖属性持ちは、魔力の波が繊細だ。
少しでも乱暴に流せば、逆に反発を起こす。
だから手を握る。
呼吸を合わせる。
必要ならば、背に触れて魔力の巡りを見る。
理屈としては分かる。
分かるのだが。
「……近いな」
レオンが小さく呟いた。
寝台に腰かけたセリアは、レオンの手を握ったまま、彼の方へ少し身を寄せていた。
白銀の鎧はすでに外され、今は薄い白の治療着をまとっている。
もちろん肌を大きく晒しているわけではない。
だが、鎧を脱いだことで、彼女の細い肩や華奢な首筋がはっきり見えた。
戦場では凛々しい騎士団長。
けれど今は、怪我人らしい無防備さがある。
レオンとしては目のやり場に困る。
「近い方が、魔力が安定する」
セリアは真顔で言った。
「本当に?」
「本当だ」
「団長の願望ではなく?」
エルザが無表情で言った。
医務室が一瞬、凍った。
「エルザ」
「はい」
「お前は時々、私を刺しに来るな」
「事実確認です」
「その確認はいらない」
セリアの頬がさらに赤くなる。
ミラが慌てて割り込んだ。
「そ、そもそも! この人の魔力って本当に安全なんですか? 団長に変な影響が出てるんじゃないですか?」
「変な影響って何だよ」
レオンが聞き返す。
「だから、その……団長が妙に素直になってるとか、距離感がおかしいとか、いつもより声が甘いとか!」
「ミラ!」
セリアが叫んだ。
部下たちの数名が、気まずそうに視線を逸らす。
どうやら皆、薄々同じことを思っていたらしい。
「私は声など甘くしていない」
「しています」
エルザが即答した。
「していない」
「しています。平時の団長の声が剣なら、現在の団長の声は湯に浸けた焼き菓子です」
「たとえが分かりにくい!」
「柔らかく、甘く、崩れやすいという意味です」
「さらに言うな!」
レオンは笑いそうになって、なんとか堪えた。
白銀聖騎士団。
王国最強の女性騎士団と聞いていたが、内側は思ったより騒がしい。
だが、その騒がしさの底には、確かな信頼がある。
皆がセリアを心配し、セリアもまた部下の前だからこそ意地を張っている。
それが伝わってきた。
「レオンさん」
リーネが治療用の記録板を持って近づいてくる。
「確認のため、魔力譲渡の状態を見てもいいですか?」
「ああ。俺も自分の状態がよく分かってないから、助かる」
「では、手をそのままにしてください。セリア団長も、無理に姿勢を変えずに」
「分かった」
リーネはセリアの手首と、レオンの手の甲へそっと指を当てた。
彼女の指先から、淡い回復魔法の光が流れる。
しばらくして、リーネの表情が変わった。
「……やっぱり、不思議です」
「何が?」
「普通、魔力譲渡は送る側の負担が大きいんです。特にセリア団長ほどの魔力量を持つ方に補給すれば、普通の魔導師なら数分で倒れます」
「だよな」
「でも、レオンさんの魔力は減っているというより……増えているように見えます」
レオンは眉をひそめた。
「増えてる?」
「はい。セリア団長の聖魔力と触れ合うことで、レオンさん自身の魔力源が刺激されているみたいです」
「そんなことあるのか?」
「普通はありません」
リーネは少し困った顔で笑った。
「でも、今起きています」
エルザが記録板にさらさらと文字を書き込む。
「仮説。レオンさんの魔力は通常魔力ではなく、聖属性魔力に共鳴して増幅する特殊な供給魔力。つまり単なる譲渡ではなく、循環型の魔力源です」
「循環型?」
レオンが聞き返す。
「はい。団長へ魔力を渡す。団長の聖属性魔力が反応する。その反応がレオンさんの魔力源を刺激する。結果、双方の魔力が回復する」
「つまり?」
「相性が異常に良いです」
エルザは淡々と言った。
「魔力的には、運命の相手と言っても過言ではありません」
「エルザ!」
セリアの声が裏返った。
医務室にいた騎士たちが一斉にざわつく。
「運命……」
「団長が……」
「あの団長に……」
「違う! 魔力的な意味だ!」
セリアは必死だった。
レオンも慌てて言う。
「そうだ。魔力の話だからな。変な意味じゃない」
「なぜお前まで慌てる!」
「こっちにも立場があるんだよ」
「私の立場の方が危うい!」
「確かに」
「認めるな!」
ミラが二人を見比べて、むうっと頬を膨らませた。
「……何よ。もう夫婦漫才みたいになってるじゃない」
「ミラ!」
「違うって言うなら、その手を離してくださいよ」
「だから離すと魔力が乱れるのだ!」
「便利な言い訳みたいになってますよ、団長」
「本当に乱れるのだ!」
セリアは悔しそうに唇を噛んだ。
その様子を見て、レオンは少しだけ気の毒になった。
騎士団長としての威厳を保ちたいのに、身体はレオンの魔力を必要としている。
しかも部下の前で。
これはかなり恥ずかしいだろう。
「ミラ。あまりからかうなよ」
「別にからかってないし」
「団長が困ってる」
「……分かってるわよ」
ミラはぷいっと顔を逸らした。
だが、少し間を置いてから小さく言う。
「心配してるだけ」
セリアの表情が柔らかくなった。
「ミラ」
「だって、団長、ずっと無理してたじゃないですか。私たちが止めても聞かないし、リーネが泣きそうになっても出撃するし、エルザが『死亡確率が上昇しています』って真顔で言っても『まだ死なん』とか言うし」
「それは……」
「だから、急に知らない男の人に頼る団長なんて見たら、変に思うに決まってるじゃないですか」
ミラの声は震えていた。
怒っているようで、泣きそうにも聞こえた。
セリアは何も言えなかった。
レオンも黙る。
この騎士団は、ただの美少女集団ではない。
それぞれが戦場で傷つき、仲間を案じ、それでも立っている。
だからこそ、レオンの魔力が必要なのだ。
「……すまない」
セリアが静かに言った。
「心配をかけた」
「謝ってほしいわけじゃないです」
「分かっている」
「分かってないから倒れたんです」
「……耳が痛いな」
セリアは苦笑した。
それから、レオンの手を握る指に少しだけ力を込める。
「レオン」
「何だ?」
「お前の力を借りたい。私だけではなく、騎士団全体のために」
その声は、さっきまでの照れたものとは違っていた。
白銀聖騎士団長としての声。
まっすぐで、誇り高く、少しだけ不器用な声だった。
「私たちは半年前の魔獣災害で、多くの魔力を失った。表向きには王都を守った英雄だ。だが実際には、団員の半数以上が魔力回路に傷を抱えている」
リーネが視線を伏せる。
ミラも唇を結んだ。
エルザだけは無表情のままだが、その筆は止まっていた。
「薬も魔石も、宮廷魔導師の治療も、一時しのぎにしかならなかった。このままでは、次に大きな魔獣災害が起きた時、私たちは戦えない」
「それを、俺にどうにかしろって?」
「違う」
セリアは首を横に振った。
「一緒にどうにかしてほしい」
レオンは、すぐには答えられなかった。
追放されたばかりの自分。
無能と呼ばれた自分。
それが、王国最強の騎士団に必要とされている。
正直、現実味がない。
だが、セリアの手は温かかった。
その温度だけは、確かだった。
「……俺でよければ」
レオンは静かに言った。
「できることはする」
セリアは、ほんの少しだけ目を見開いた。
そして、穏やかに微笑む。
「感謝する」
その表情を見た瞬間、また医務室の空気がざわついた。
「団長が笑った……」
「珍しい……」
「明日は雪かしら……」
「聞こえているぞ」
セリアの声に、団員たちは一斉に姿勢を正した。
レオンは思わず吹き出しそうになる。
セリアが横目で睨んだ。
「何だ」
「いや。慕われてるんだなと思って」
「……からかわれているだけだ」
「慕われてるから、からかわれるんだろ」
セリアは少し黙った。
それから、小さく呟く。
「お前は、時々妙なことを言う」
「よく言われる」
「悪くはない」
不意にそんなことを言われて、今度はレオンの方が言葉に詰まった。
ミラがすかさず反応する。
「団長、今のはかなり危ないです」
「何がだ」
「そういうところです」
「どういうところだ」
「無自覚に距離を詰めるところです!」
「私は距離など詰めていない」
「手、握ってます」
「医療行為だ!」
また始まった。
レオンは苦笑しながらも、セリアへ魔力を流し続ける。
すると、彼女の身体が微かに震えた。
「……っ」
小さな吐息が漏れる。
セリアは慌てて口元を押さえた。
ミラが目を丸くする。
リーネが真っ赤になる。
エルザの筆が高速で動き出す。
「今の反応、記録します」
「するな!」
「重要な治療反応です」
「重要ではない!」
「団長。今のは痛みですか、快感ですか」
「質問が直接的すぎる!」
セリアは耳まで赤くなり、レオンは本気で手を離したくなった。
だが、離すと魔力が乱れる。
どうしようもない。
「……レオン」
セリアが、ひどく小さな声で言った。
「はい」
「今のは、その……変な意味ではない」
「分かってる」
「本当に分かっているか」
「多分」
「多分では困る」
セリアは視線を逸らした。
そして、ほとんど聞こえないほどの声で続けた。
「ただ……お前の魔力は、心地いい」
医務室が、完全に止まった。
外の鳥の鳴き声まで聞こえそうな沈黙だった。
レオンは一瞬、返事を忘れた。
セリア自身も、自分の発言がどう聞こえたかに気づいたらしい。
顔が赤くなるどころではない。
首筋まで染まっていた。
「ち、違う!」
セリアは慌てて声を上げた。
「魔力の話だ! 身体が楽になるという意味であって、決して、その、妙な意味では――」
「団長」
ミラが真顔で言った。
「もう手遅れです」
「手遅れではない!」
「今の発言、廊下まで聞こえました」
入口付近にいた団員が気まずそうに言った。
セリアは固まった。
レオンも固まった。
数秒後、セリアは布団を引き上げ、顔の下半分を隠した。
「……全員、忘れろ」
「無理です」
エルザが即答した。
「エルザ、お前は今日、私に厳しすぎる」
「団長の貴重な反応なので」
「記録を破棄しろ」
「写しを作りました」
「なぜだ!」
医務室に、久しぶりに笑いが広がった。
それは緊張をほぐすような笑いだった。
セリアは恥ずかしそうにしているが、どこかほっとしているようにも見える。
レオンはその様子を眺めながら、不思議な気持ちになった。
自分は、ここにいていいのだろうか。
まだ分からない。
けれど、ここには誰かを見下すための笑いではなく、誰かを支えるための笑いがある。
それは、悪くなかった。
◇
その日の夜。
レオンは騎士団詰所の客室を借りることになった。
簡素だが清潔な部屋だった。
小さな机。
寝台。
窓の外には、王都の夜景。
追放された日の寝床としては、あまりにも立派すぎる。
「……人生、分からないな」
レオンはベッドに腰を下ろし、手を見つめた。
セリアの魔力に触れた感覚が、まだ残っている。
温かくて、澄んでいて、けれどどこか痛々しい魔力。
その傷を、自分の魔力が少しだけ癒やした。
役立たずと呼ばれた力が。
扉が軽く叩かれた。
「はい」
開いた扉の向こうに立っていたのは、リーネだった。
手には湯気の立つカップを持っている。
「眠る前に、温かいお茶をと思いまして」
「ありがとう。気を使わせたな」
「いいえ。こちらこそ、今日は本当に助かりました」
リーネは部屋に入り、机の上にカップを置いた。
甘い香草の香りが広がる。
「セリア団長は?」
「眠りました。久しぶりに、痛み止めなしで眠れています」
「そうか」
レオンは少し安心した。
リーネはそんな彼を見て、柔らかく笑う。
「レオンさんは、優しい方ですね」
「そうでもない」
「そういう人ほど、そう言います」
「俺の元仲間は、そう思ってなかったみたいだけど」
少しだけ自嘲が混じった。
リーネは表情を曇らせる。
「追放されたと、言っていましたね」
「ああ。役立たずだってさ」
「……ひどいです」
「慣れてる」
「慣れていい言葉ではありません」
リーネの声は、思ったより強かった。
レオンは少し驚いて彼女を見る。
リーネは穏やかな顔のままだが、瞳にははっきり怒りがあった。
「誰かの力が目立たないからといって、価値がないことにはなりません。支える力は、支えられている側ほど気づかないものです」
「……治癒騎士らしい言葉だな」
「実感です」
リーネは寂しそうに笑った。
「傷は、見えれば治せます。でも、本当に深い傷ほど、本人が隠してしまいますから」
その言葉は、妙に胸に残った。
レオンはカップを手に取り、香草茶を一口飲む。
温かい。
「美味いな」
「よかった。魔力を使った後には効くんです」
「ありがとう」
「はい」
リーネは微笑んだ後、少し迷うように視線を泳がせた。
「あの、レオンさん」
「ん?」
「明日、可能なら……他の団員の魔力状態も見てもらえませんか」
「俺で分かる範囲なら」
「ありがとうございます」
リーネは深く頭を下げた。
「皆、平気な顔をしています。でも本当は、限界に近い子もいます。セリア団長だけではないんです」
「……分かった」
「ただ」
リーネは少し頬を赤らめる。
「魔力譲渡の方法が、その……団長と同じように接触が必要だとすると、少し騒ぎになるかもしれません」
「もう十分騒ぎになってる気がする」
「ですね」
二人は小さく笑った。
その時、廊下の向こうからミラの声が聞こえた。
「リーネー! 長話しすぎ! その男に変なことされてないでしょうね!」
「ミラさん、聞こえていますよ」
「聞こえるように言ってるの!」
レオンは苦笑した。
「警戒されてるな」
「心配性なんです」
「いい仲間だ」
「はい。自慢の仲間です」
リーネはそう言って、扉へ向かった。
出ていく直前、彼女は振り返る。
「レオンさん」
「何だ?」
「明日から、少し大変になると思います」
「だろうな」
「でも、私たちはあなたを役立たずとは呼びません」
その言葉に、レオンは返事が遅れた。
喉の奥に、何かが詰まったような気がした。
「……ありがとう」
「おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
扉が閉まる。
レオンはしばらく、その場で香草茶を見つめていた。
そして、ふっと笑う。
「役立たず、か」
もう、その言葉は朝ほど重くなかった。
◇
翌朝。
白銀聖騎士団の訓練場に、レオンは立っていた。
目の前には、ずらりと並ぶ美少女騎士たち。
銀髪、金髪、黒髪、栗色。
剣士、槍騎士、魔導騎士、治癒騎士。
全員が鎧姿で、真剣な表情をしている。
その中央に、セリアが立っていた。
昨日より顔色はいい。
だが、レオンと目が合った瞬間、ほんの少しだけ頬を赤くした。
ミラがそれを見逃さない。
「団長、昨日の『心地いい』発言、まだ気にしてます?」
「ミラ」
「はい」
「後で訓練を三倍にする」
「横暴!」
「団長権限だ」
「完全に私怨じゃないですか!」
騎士たちから笑いが漏れた。
セリアは咳払いし、表情を引き締める。
「本日より、レオン・アルヴァス殿に協力を仰ぎ、騎士団員の魔力状態を確認する」
セリアの声が訓練場に響く。
「彼の魔力は、我々の損傷した魔力回路に対して効果を示した。詳細はまだ不明だ。だが、これは騎士団再建の希望となる可能性がある」
騎士たちの視線が、レオンへ集まった。
少し緊張する。
レオンは一歩前へ出た。
「レオン・アルヴァスです。できることは限られているけど、力になれるなら協力します」
短い挨拶。
それだけのつもりだった。
だが、セリアがこちらを見る。
まっすぐに。
「彼は、私の命を救った恩人だ」
訓練場が静かになった。
「よって、白銀聖騎士団は彼を客人として扱う。無礼は許さない」
その言葉は、重かった。
レオンは思わずセリアを見る。
セリアは少しだけ視線を逸らし、低く言った。
「……当然のことを言ったまでだ」
ミラが小声で呟く。
「団長、また声が柔らかい」
「ミラ」
「はい、黙ります」
レオンは笑いを堪えた。
その時だった。
訓練場の外から、慌ただしい足音が近づいてきた。
若い騎士が駆け込んでくる。
「団長! 王都西区より緊急報告です!」
「何事だ」
「冒険者パーティー《黒狼の牙》が、魔獣討伐中に魔力切れを起こし、救援要請を出しています!」
レオンの表情が変わった。
《黒狼の牙》。
昨日、自分を追放した元仲間たち。
騎士が続ける。
「通常の魔獣ではありません。討伐対象が変異種だった模様。現場は混乱。負傷者多数。近隣へ被害が拡大する恐れありとのこと!」
セリアは一瞬で騎士団長の顔になった。
「白銀聖騎士団、出撃準備!」
騎士たちが一斉に動く。
その中で、セリアはレオンへ視線を向けた。
「レオン」
「分かってる」
「危険だ。無理に来る必要はない」
「俺の元パーティーだ」
レオンは静かに言った。
「助けたいかどうかは、正直分からない。でも、魔獣が街に出るなら放っておけない」
セリアはしばらく彼を見つめた。
そして頷く。
「なら、私のそばにいろ」
ミラが反射的に口を開きかけたが、今度は何も言わなかった。
状況が状況だ。
セリアは剣を取る。
白銀の刃が朝の光を弾いた。
「お前の魔力があれば、私は戦える」
その言葉に、レオンの胸が熱くなる。
役立たずではない。
不要ではない。
今、自分の力を必要としている人がいる。
「分かった」
レオンは頷いた。
「魔力なら、いくらでも渡す」
セリアの頬がほんの少し赤くなった。
「……言い方には気をつけろ」
「今のも駄目なのか?」
「少し駄目だ」
ミラが横から叫ぶ。
「二人とも! 出撃前に変な空気出さないでください!」
リーネが苦笑し、エルザが淡々と記録板を閉じる。
「記録。レオンさんの存在により、団長の士気が上昇」
「エルザ!」
「出撃します」
白銀聖騎士団が走り出す。
王都西区へ。
魔獣の待つ戦場へ。
そして、レオンを捨てた者たちが初めて、彼を失った意味を知る場所へ。




