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第25話 廃棄場の谷で敵の技師と再会したら、聖女が静かに怒った

赤い柱は、廃棄場の谷から上がっていた。


遠くからでも分かる。


空の低いところが、赤く染まっている。


雨上がりの白い空に、あの色だけが汚れみたいに残っていた。


「行くしかない、か」


俺は言った。


言いたくなかった。


ものすごく言いたくなかった。


だが、東門の前で旧式たちを押し返しているだけでは、終わらない。


街道に来た旧式は、ただの先端だ。


赤い糸の先。


糸をたぐっていけば、谷に戻る。


戻りたくない場所に戻る。


仕事というものは、嫌な道順を正確に選ぶ。


「ガルム殿」


アルダが、剣を下げずに言った。


「街側は私たちで支える」


「支えると言うな。支える仕事は重い」


「重いのは承知している」


「承知するな。逃げ道が消える」


アルダは短く笑った。


笑うな。


こっちは本気で逃げ道を探している。


「バルグを残す」


俺は言った。


倉庫の入口にいたバルグが、青い核を光らせた。


「残留、防衛」


「そうだ。街側と倉庫を守れ。入口は壊すな。二十七号も壊すな。騎士も潰すな」


「条件、多数」


「俺もそう思う」


「実行」


「頼む」


言ってから、俺は少し黙った。


頼む。


言った。


バルグに。


巨大で邪魔で、指揮下に入る気が強すぎる支援機に。


俺は今、頼むと言った。


バルグは何も言わなかった。


記録もしなかった。


珍しく、賢い。


腹立つ。


リリアは倉庫から出てきた。


顔色は悪い。


でも、目は逃げていない。


ドルムも一緒だ。


医療鞄を持っている。


誰も命じていない。


それでも持っている。


「リリア、お前は」


「行きます」


早い。


俺が止める前に答えるな。


「まだ何も言ってない」


「止めるつもりでしたよね」


「止めるつもりだった」


「なら、答えは同じです」


リリアは静かに言った。


「二十七号さんは、バルグさんとアルダさんにお願いします。私は、赤い柱の根元を見ます」


「見るだけか」


「できることがあれば、します」


「それが一番怖い」


リリアは笑わなかった。


その顔で笑わないのは反則だ。


こっちが何も言えなくなる。


ドルムが、リリアの横で小さく核を揺らした。


「赤……奥」


「分かるのか」


「奥……集まる」


谷の方を向いている。


医療鞄を抱えたまま。


「中……奥……」


「中枢か」


ドルムは少し黙った。


「たぶん」


不確かな言葉。


だが、今はそれが頼りになる。


妙な話だ。


確定命令より、たぶんの方が役に立つことがある。


「分かった」


俺は言った。


「行くぞ。ただし、深く浄化するな。無理をしたら戻す」


「はい」


「ドルム、お前はリリアを見ろ」


ドルムの核が揺れる。


「見る」


「リリアが無理をしたら止めろ」


「止める」


ドルムはそこで、谷の方を見た。


医療鞄を持つ手が、ほんの少し強くなる。


行く、とまでは言わない。


だが、下がる気もなさそうだった。


リリアが少しだけ笑った。


笑えるなら、まだ大丈夫。


大丈夫という言葉は信用できないが、今はそういうことにしておく。


俺たちは谷へ向かった。


街側では、まだ旧式たちの赤い光が揺れている。


アルダの声が飛ぶ。


騎士たちが押し返す。


バルグの巨大な影が倉庫の前に立つ。


二十七号は、あの中にいる。


赤と青の間で揺れながら。


毛布のそばで。


名前ではない呼び名を、まだ受け取らずに。


「行くぞ」


俺は自分に言った。


誰かに言わないと、足が止まりそうだった。


廃棄場の谷は、前に来た時よりも悪くなっていた。


悪くなる余地があったことに、まず腹が立つ。


崖の上から見下ろすと、残骸の山が赤く脈を打っていた。


腕。


脚。


割れた肩。


欠けた胴。


番号札。


それらの間を、赤い術式線が這っている。


血管みたいに。


いや、血管と言うのも嫌だ。


これは命ではない。


命のふりをした命令だ。


谷底の中央には、術式装置が立っている。


前に見た時より、赤い光が強い。


柱のように空へ伸びている。


その周囲で、旧式たちが動いていた。


完全な個体ではない。


半分崩れたもの。


片腕だけのもの。


脚を引きずるもの。


それでも、赤い命令に引っ張られて立ち上がる。


「ひどい」


リリアが言った。


声は小さい。


だが、谷の赤い光の中で、はっきり聞こえた。


「まだ使うんですか」


誰に向けた言葉かは、すぐ分かった。


術式装置の横に、黒い外套の男が立っていた。


ゼルギオ。


胸元の部品飾りが、赤い光を受けて鈍く光る。


核片。


指部品。


欠けた装甲板。


在庫票。


本人がそう言ったもの。


見れば見るほど腹が立つ飾りだ。


そして、その少し後ろに、もう一人いた。


黒い軍服。


乱れた襟。


顔色の悪い男。


ヴァルザ。


俺を追放した魔王軍幹部。


第七城門の前で、冷たい声を響かせた男。


「……ヴァルザ」


俺は名前を呼んだ。


呼びたくはなかった。


だが、呼ばずに済ませるには、あの顔を知りすぎている。


ヴァルザの目が、俺に向いた。


以前より濁っている。


誇り高い軍服の黒ではない。


泥を含んだ黒だ。


「ガルム」


声も、少し低くなっていた。


「なぜだ」


「第一声がそれか」


「なぜ、お前が守られている」


ヴァルザは、谷底から俺を睨んだ。


「お前は、追放されたはずだ」


「されたな」


「不要だったはずだ」


「その通りだ」


「なら、なぜ」


ヴァルザの拳が震えている。


「なぜ、お前の方が価値を持っている」


価値。


その言葉が出た瞬間、ゼルギオが少しだけ笑った。


楽しそうではない。


予定通りに道具が反応した時の笑いだ。


「ヴァルザ殿」


ゼルギオが言った。


胸元の管理タグを、指で一つ弾く。


かち、と乾いた音がした。


「その反応は有用だ」


「黙れ」


ヴァルザが低く言う。


だが、声に力がない。


ゼルギオは気にしない。


もう一度、管理タグを弾いた。


「旧式ガルムへの執着、継続確認」


「黙れと言った!」


ヴァルザが叫ぶ。


赤い術式線が、その足元で光った。


ヴァルザは動きを止めた。


ゼルギオの杖が、わずかに上がっている。


そういうことか。


利用されている。


ヴァルザはゼルギオの横にいるのではない。


置かれている。


俺は、その事実に少しだけ顔をしかめた。


喜べばいいのかもしれない。


俺を追放した男が、今度は自分が道具のように扱われている。


皮肉としてはよくできている。


だが、笑えなかった。


気分が悪いだけだった。


「ゼルギオ」


俺は言った。


「お前、味方も在庫扱いか」


「在庫ではない。協力資源だ」


「もっと悪くなったぞ」


ゼルギオはヴァルザを見ていなかった。


反応の出る装置を見る目だった。


俺はすぐには返さなかった。


返す言葉を選んだのではない。


選ぶ前に、谷の赤い光が目に入った。


旧式も。


ヴァルザも。


こいつにとっては、反応を見るための材料なのだ。


「あなたは、どうしてそこまで、苦しんでいるものを使うんですか」


リリアが一歩前に出た。


俺は止めようとした。


だが、止める前に、その声が谷底へ落ちていた。


声は大きくない。


怒鳴っていない。


けれど、谷の赤い光より強く聞こえた。


ゼルギオはリリアを見た。


「苦しむ?」


「見れば分かります」


「旧式の反応は、命令術式への抵抗によるものだ。苦痛反応に似るが、同一ではない」


「似ているなら、同じです」


「同じではない。道具は苦しまない」


リリアの白い光が、静かに強くなった。


派手ではない。


燃えるようでもない。


ただ、まっすぐだった。


その目に、一瞬だけ雨の中の鎧の背中がよぎった気がした。


届かなかった手。


庇って倒れた人。


助けられなかった旧式。


けれど、リリアは今度は下がらなかった。


「苦しんでいるなら」


リリアは言った。


「それは、道具ではありません」


ゼルギオの目が、わずかに細くなる。


リリアの声は、わずかに掠れている。


でも、下がらない。


「命令に逆らっているから、痛いんです」


リリアの声が、谷底に落ちる。


「まだ自分であろうとしているから、苦しいんです」


赤い術式線が、一瞬だけ揺れた。


偶然かもしれない。


そう思いたい。


だが、谷の旧式たちの核の奥で、青が小さくまたたいた。


リリアの言葉に、俺まで足元を掴まれた気がした。


道具ではないから苦しむ。


命令に逆らうから痛い。


なら、この谷は何だ。


痛みを並べた場所だ。


しばらく、誰も動かなかった。


谷底の赤い線だけが、遅れて震えていた。


壊れた旧式たちの核が、かすかに青を返す。


返事ではない。


まだ声にもなっていない。


けれど、何かがそこに残っている。


リリアはそれを見た。


見てしまった。


だから、白い光を消さなかった。


「聖女」


ゼルギオは言った。


「君は、感情を事実と混同している」


「あなたは、事実から感情を切り捨てすぎています」


「よい悪いではない。使えるかどうかだ」


リリアの白い光が、また強くなる。


俺は横から言った。


「リリア」


「はい」


「深く入るな」


「……はい」


返事までに、少しだけ間があった。


危ない。


この怒りは、リリアを前に出す。


前に出る聖女は、かなり危ない。


敵にも。


本人にも。


ドルムが、医療鞄を抱えたままリリアの袖を少しつかんだ。


何も言わない。


ただ、つかんだ。


リリアはその手を見た。


そして、白い光を少しだけ抑えた。


いい。


今のはいい。


褒め方は分からない。


あとで考える。


ゼルギオはドルムを見た。


「補助機ドルム。自己判断増加。命令回復実験の阻害要因」


ドルムの核が小さく震えた。


「赤……嫌」


「嫌という反応は不要だ」


ゼルギオの杖が上がる。


谷底の術式装置が、強く光った。


赤い線が、ドルムへ伸びる。


俺は前に出た。


「やめろ」


赤い線が俺の腕に絡む。


外側から巻きつく拘束術式。


俺は腕を振り、赤い線を地面へ叩きつけた。


術式が弾ける。


谷底の残骸が揺れる。


ゼルギオは、それを見て少しだけ首を傾けた。


「抵抗値、上昇」


「記録してる暇があるなら、止められる準備でもしろ」


「止める必要はない」


ゼルギオが杖をもう一度上げる。


谷底の旧式たちが、一斉に動いた。


街側へ向かっていたものとは違う。


ここにいる旧式たちは、もっと壊れている。


動かすためだけに繋がれている。


赤い線が、残骸の山を引いた。


片腕だけの旧式は、地面を這うより先に、術式線で肩から持ち上げられる。


脚のない旧式は、崖に残った装甲片を支点に吊られ、振り子みたいにこちらへ落ちてくる。


胸の核だけを装甲板に固定されたものは、赤い杭に引きずられて、地面を削りながら光っている。


谷そのものが、古い体を無理やり起こしている。


これは戦闘ではない。


処理だ。


ゼルギオにとっては。


「壊せば楽だ」


ゼルギオが言った。


「それで止まる」


「楽な提案ほど信用できない」


「君の背後にいる聖女も楽になる。街側の騎士も楽になる。二十七号も、連動負荷から解放される」


「黙れ」


「一体ずつ壊せ。核を潰せ。それだけで被害は減る」


計算だけなら。


本当に、計算だけなら。


「ガルムさん」


リリアの声がした。


「壊さないでください」


「分かってる」


俺は即答した。


自分でも驚くくらい早かった。


「分かってる。言われなくても」


「はい」


「はい、じゃない。俺に言わせるな」


リリアは、小さくうなずいた。


ゼルギオがこちらを見る。


「非効率だ」


「聞き飽きた」


「非効率な判断は、いずれ破綻する」


「破綻する前に、お前を止めればいい」


「できるか」


「できるかどうかは知らん」


俺は谷底へ降りた。


足元で、古い装甲片が砕ける。


砕きたくないものばかりの場所で、踏むものまで選べない。


本当に嫌な谷だ。


赤い線に吊られた旧式が、崖の壁から落ちてくる。


俺は真正面から受けず、斜面へ流した。


落下の力を殺すと、外殻が砕ける。


だから、転がす。


残骸の山へ戻さず、赤い線だけを腕で引きちぎる。


片腕の旧式は、地面を掴んで進もうとする。


俺はその腕ではなく、腕を引く術式線を踏んだ。


線が弾ける。


腕だけの体が、ようやく止まる。


胸の核だけの個体には近づかない。


近づけば、俺の重さだけで壊れる。


代わりに、リリアの白い光が赤い杭の端をほどく。


浅く。


薄く。


それでも、リリアの肩が震えた。


ドルムが袖を引く。


リリアが一歩下がる。


いい。


今のはいい。


「中……奥……」


ドルムが言った。


谷の術式装置を見ている。


「赤……集まる」


「中枢か」


ドルムの核が揺れる。


「奥……」


それ以上は言えない。


言わなくていい。


「ガルムさん」


リリアが言った。


「術式装置の中に、赤い命令が集まっています」


「見れば嫌でも分かる」


「でも、外からほどくだけでは無理です」


「嫌な報告が続くな」


「中へ入る必要があります」


言った。


言いやがった。


言われると思っていた。


思っていたが、聞きたくなかった。


術式装置の中枢。


赤い柱の根元。


そこに入る。


そんな場所に入りたい奴がいるなら、そいつは労働環境を知らない。


「中枢へ行けば止まるのか」


俺は聞いた。


リリアは答えなかった。


代わりに、ドルムを見た。


ドルムは、医療鞄を抱きしめるようにして、術式装置を見ている。


「赤……集まる。ほどく……奥」


「つまり、奥に行けと」


ドルムは少し黙った。


「たぶん」


また、たぶん。


いい加減、その言葉に賃金を払うべきかもしれない。


ゼルギオが杖を下げた。


「正解だ」


聞きたくないところで答えるな。


「中枢を止めれば、谷の術式は乱れる。街側の旧式も鈍るだろう」


「親切に教えるのか」


「中枢内なら、外より命令密度が高い」


ゼルギオは言った。


「旧式ガルムも、聖女も、補助機も、まとめて反応を取れる。外で壊すより効率がいい」


「誘い込む気か」


「観察条件を整えるだけだ」


俺はその言葉を聞いて、少し黙った。


中枢に入れば、あいつにとって都合がいい。


外で押し返しても、街側は削られる。


どちらに行っても、嫌な札しかない。


「本当に、いい性格をしている」


俺は言った。


「評価は不要だ」


「褒めてない」


ゼルギオの背後で、ヴァルザがこちらを見ている。


その目は、俺ではなくリリアを見た。


そして、すぐに俺へ戻った。


「なぜ、お前のために聖女が怒る」


「俺のためじゃない」


「なら、なぜお前の周りに集まる」


「知らん」


本当に知らない。


説明できるなら、とっくに退職願に添えて提出している。


ヴァルザの顔が歪む。


「お前は、門に立っていればよかった。命令だけ聞いていればよかった。不要だと告げれば、そこで終わるはずだった」


「終わらなかったな」


ヴァルザは何かを言いかけた。


だが、ゼルギオの杖を見る前に、自分で口を閉じた。


従ったのか。


怯えたのか。


それとも、まだ何かを選ぼうとしているのか。


俺には分からなかった。


「感情過多」


ゼルギオが言った。


「だが、有用だ」


ヴァルザの顔に屈辱が浮かぶ。


俺はその顔を見て、何も言えなかった。


ざまあみろ、とは思えなかった。


思いたかったが、思えなかった。


道具にされる顔を、最近見すぎている。


「ヴァルザ」


俺は言った。


「お前、そこにいたいのか」


ヴァルザの目が揺れた。


「黙れ」


「それは命令か」


「黙れ!」


「命令じゃないなら、聞く必要はないな」


言ってから、少しだけ気分が悪くなった。


嫌な言い方だ。


ゼルギオと同じ理屈を使った気がした。


だが、ヴァルザは黙った。


黙って、拳を握った。


その拳が震えている。


怒りか。


屈辱か。


それとも、別の何かか。


今は分からない。


分からなくていい。


今すぐ救う相手に入れると、俺の職場が破裂する。


「リリア」


俺は言った。


「中枢へ行くぞ」


リリアがうなずく。


「はい」


「深く入るな。中枢で倒れたら、俺が困る」


「はい」


今度はそれだけだった。


余計なやり取りをしない。


その分、リリアの目が本気なのがよく分かる。


ドルムが、医療鞄を持ち直した。


「奥……」


それだけ言って、リリアの横に立つ。


行く、とまでは言わない。


だが、下がる気もなさそうだった。


ゼルギオは、術式装置の前で待っている。


黒い外套。


在庫票。


無機質な目。


その背後には赤い柱。


さらに後ろには、動かされた旧式たち。


横には、屈辱に震えるヴァルザ。


まともな景色ではない。


だが、リリアの白い光だけは細く澄んでいた。


怒りを燃やすのではなく、刃みたいに絞っている。


「ゼルギオさん」


リリアが言った。


「私は、あなたの術式をほどきます」


「可能ならば」


「可能にします」


「根拠は」


「苦しんでいる人がいるからです」


ゼルギオは一瞬だけ黙った。


リリアの言葉は、理屈としては弱い。


根拠としては足りない。


でも、だからこそゼルギオには処理しづらいのかもしれない。


俺には、少し分かった。


少し分かるのが、また困る。


「ガルム」


ゼルギオが俺を見る。


「君は壁になるのか」


「違う」


俺は言った。


「今日は、扉を壊しに来た」


リリアが少し驚いた顔をした。


俺も少し驚いた。


だが、訂正はしなかった。


今は、それでいい気がした。


ゼルギオは薄く笑った。


「では、入るといい」


術式装置の赤い光が割れる。


中へ続く隙間が開いた。


誘っている。


罠だ。


見れば分かる。


罠と分かって入るのは、労働者として最悪だ。


だが、外で押し返すだけでは終わらない。


街側の旧式も、二十七号も、谷の残骸も。


全部、この赤い柱に引っ張られている。


なら、根元を叩くしかない。


「行くぞ」


俺は言った。


「はい」


リリアが答える。


ドルムは何も言わなかった。


ただ、医療鞄を抱えて、俺たちの後ろについてきた。


それで十分だった。


俺たちは、赤い光の中へ踏み出した。


背後で、ヴァルザが何かを言いかけた。


聞こえなかった。


いや、聞かなかった。


今はそこまで持てない。


赤い光が、視界を埋める。


術式装置の中から、無数の命令が聞こえる気がした。


待機。


排除。


再起動。


服従。


廃棄。


どれも嫌な言葉だ。


俺はその中で、リリアとドルムの位置だけを確かめた。


二人ともいる。


まだいる。


それだけ確認して、俺は中枢へ進んだ。

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