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02.伝書鳩

大きな大陸の一つ、海沿いに面した小さな国がある。周りの大きな国々の影に隠れてしまうような小さな国だ、大方の人々は国の名前を聞いても首を傾げるだろう。そんな小さな国に、真っ白な鳩が淡い青の空に浮かぶ大きな雲と並んで優雅に海を越えてやってきた。

海岸沿いをずっと東へと向かって、海を見渡せる丘の上に立つ赤い屋根の家を真っ直ぐに目指す。

やがて、海沿いに面して開く大きな窓から風も起こさずに入り込むと、部屋の中央に置かれた寝台で上半身を起こした一人の女性の膝の上に着地した。


「あら…」


やれやれといった風に身体を休める鳩を見やって、黄金色の瞳を僅かに見開いて女性は嬉しそうに笑った。


「ただいま、今帰ったよ」


そこへ現れたのは、外套片手にやや着崩した格好のポール。どうやら勤めから帰って来たばかりのようで、少々疲れた様子である。そんな彼に嬉しそうな笑みを向けて長い栗毛を持つ彼女が言った。


「お帰りなさい。見て、チャールズから」


おやと驚いた様子のポールは、外套を近くの椅子の背もたれに掛けると上着もついでに脱ぎ捨てて、窓の近くに回り込んで寝台に腰掛けた。


「何て書いてあるんだい?」


「まだ見ていないわ。だってほら見て、この鳩、チャールズにそっくり」


可愛いわと笑みを漏らした彼女に気分を害したのか、鳩はちろりと彼女を見やってからその姿を便箋へと変えた。


「君が可愛いなんて言って笑うから、チャールズの魔法がへそを曲げてしまったじゃないか」


いかにも面白そうに笑って、ポールが掛け布団の上に置かれた手紙を手にとった。癖のある彼の文字を暫し眺めて、封を切る。肩につかない後ろの髪と同じぐらい伸びた前髪を書き上げて、手紙の文章に目を通していく。


「なんて書いてあるの?」


待ちきれないとばかりに瞳を輝かせた彼女が身を乗り出して尋ねた。


「来年には家族を連れて会いに来るって」


まあ!と飛び上がらんばかりに喜ぶ姿は、海の向こうで愛しい人と暮らす娘とそっくりであった。そんな彼女をポールが優しい笑みで見つめた。


「早速、返事を書かなくちゃ!夏の季節は止めておきなさいっていうのを先に書かなくちゃね」


すぐ近くにある小さな机に手を伸ばし、便箋と万年筆を手に取った。


「そうだね」


そう言ってポールが、雲が多く漂い始めた空に視線を向けた。

この小さな国は、年中過ごしやすい気候が続くが、夏の季節に限って気紛れな豪雨に見まわれる。まるでバケツをひっくり返したような酷い雨だから、人々は家に籠もって空を見上げるしかない。そんな日に外を出歩くなど言語道断だ。そんな事を言っている内にほら、空が瞬く間に曇り始めた。


「…そう言えば、ジェシカが君と文通をしたいからって、伝書鳩の魔法をチャールズに教えてくれとせがんでいるって書いてあったね」


ほとほと参っているという彼の心境がありのまま伝わってくる手紙を思い出して笑ったポールに、妻である女性はクスリと笑みを零した。


「あの子には魔法の素質がないってあなたは言っていたけど?」


「うん、誰に似たんだろうね。魔力はあるのに。でも、魔法を使えない方がいいとは思うね。だって、あの子はきっと便箋を鳩ではなくて鶏にでも変えそうだから」


「そんなことを言うと向こうで本当に変えてそうだわ、ポール。…でも、残念だわ。娘と伝書鳩で文通するのが夢だったのに」


残念そうに首を振る彼女に、ポールは仕方ないと言うように続けた。


「彼の平和の為には諦めるしか無いね」


ころころと表情を変える空の下で、二人はよく似た笑い声をあげて笑った。


「さぁ、窓を閉めようか。降り出して来た」


ポツリポツリと降り出した大粒の雨は次第に本降りとなり、ポールが窓を閉めたすぐ後には豪雨に変わった。


一歳になった息子とお転婆な娘を連れて、チャールズとジェシカが海の向こうの二人を訪ねることになるのは、物語が始まった時と同じ夏の終わり。その際にどこでどう聞きつけたのかは知らないが、友人のエドマンドもちゃっかりついて来て賑やかなこととなったのは仕方がないだろう。


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