第三章 其の参 融和 二人の距離
巧と千早は文化園デートを満喫する。
二人っきりのデートは二人にとって特別な時間となっていくのだった。
「ねぇ、次は温室行ってみよ♪」
肩越しに振り返りながら、速足で千早が進んでいく。
おっかなびっくり弱弱しくつないだ手は離れそうで、でも離したくない危ういバランスを保っている。
「バラ園からすぐだな」
見上げてみる。ガラス張りのピラミッドはなかなかの存在感があった。
「そういえばじっくり来たことないんだよな」
地元ではあるけれど、わざわざ来る機会もなく、ゆっくり見るのはほとんど初めてだった。
……男子高校生が単独で植物園に来る機会なんぞ普通は無いよな。
「そうなんだ? もったいないよ。……一緒に楽しめたらいいな」
そんな風に言う千早を見ていると何とも言えない気持ちになる。
今の状況って何だろう?
わかってはいるもののはっきりと言葉にすると、危ういバランスが崩れそうなので意識を逸らそうとしてしまう。
いや、余計なことを考えるのも野暮かもしれない。
「それもそっか、じゃ行こうか」
「うんっ♪」
早鐘を打つ胸を自覚しながら俺は千早を伴って温室ドームに足を踏み入れるのだった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
まるでジャングルのような光景を進んでいく。
入り口のすぐはサボテンが並んでいたりしたが、だんだん深緑を主張する熱帯の植物たちが所狭しと展示され、時折高い湿度を肌に感じる。
ドドドドドドドドドドッ
階段を下りた場所にある休憩スペースは上部水路から溢れ出る大量の水が流れ落ちるさまを内側から見ることができる。
滝の裏側から熱帯の森を眺めるような趣向だった。
水の壁の中にいるような錯覚さえ覚えた。
「わぁっ♪」
無邪気な笑顔で千早が目を輝かせていた。
そんな千早を見ているだけで思わず笑顔になってしまう。
ずっと見ていたいとも思えた。
植物園で輝く笑顔を振りまく千早を見ていたかった。
認めざるを得ない。
俺は可愛い千早に愛おしさを感じている。
可愛くて、綺麗だと思った。
ころころ変わる表情が、こちらを幸せそうに見る瞳が、掛け替えのない宝物だと思える。
ふと、その可愛らしい唇に視線が引き込まれる。
あれ?
俺、何を考えてるんだろ?
「? どうしたの?」
不思議そうな顔でコテリと首をかしげている。
「あ、いや」
真正面から見上げられて思わず自分の口元をふさいでしまう。
俺……何考えてるんだ?
耳まで熱くなっているのを自覚しながら俺は千早の隣で思考を沸騰させるのだった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
大温室を回りきると出口付近にカフェがある。
はなぶんカフェというこじんまりした店舗ではあるが、天窓から大きく取られた採光は店内を明るく彩っていた。
また温室内を展望可能な座席もあって熱帯の中にいると錯覚しながら喫食を楽しめるスペースにもなっていた。
そして、地味に助かるのは通常外食に比べれば格段にリーズナブルなため高校生の財布事情にも優しかった。
「んー、おいしいっ♪」
切り分けたピザを頬張る千早は幸せそうに味わっていた。
ガーデンピザとパンケーキ、一つずつ頼んだものを二人で切りわけて少しずつ堪能している。
高校生の予算はそんなもんである。
甲斐性……そういうものがあれば良かった。
いや、野暮なことは言うまい。
ただ二人でテーブルを囲んで、ささやかに食事を楽しめる時間が緩やかで、かみしめるような喜びを与えてくれていた。
「あの、巧……えっと、その」
千早が切り分けたパンケーキにメイプルシロップをかけていく。
ふとチラッチラッとこちらの様子を伺ったかと思うと、徐々に顔を赤らめて。
「あ、あ~ん」
耳まで真っ赤にして、切り分けたパンケーキを刺したフォークを差し出していた。
『あ~ん』の言葉と同時に千早の顔も『あ~ん』の顔になっている。
どうしよう俺の心臓が破裂しそうになってるんだが……。
多分、俺の顔も真っ赤になっていて、どことなく生暖かい視線を感じたりもしている。
「う、うん……」
もう勢いだ。
俺は千早が差し出す震えるフォークに刺さるパンケーキを一気に咥えこんだ。
美味しかった。パンケーキの味そのものではなく。
千早が切り分けて、差し出してくれたパンケーキがただひたすらに美味しかった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「……」
物陰から食い入るように様子を眺めている人影。
「萱島樟葉……監視の目に力が入りすぎだと思うんだが」
「朴念仁は黙っててください。私は今、魂を浄化しているので」
「……仕事なんだが」
「仕事なんですけど、それはそれとして見守りたい時ってあるんです」
「……お前はここに何しに来たんだ?」
黒子は淡々と引き戻し作業に取り組んでいた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ゲートを出る。後はバスに乗って帰るだけだろう。
「天見、俺は先帰らせてもらうわ」
ミニチュアターミネーターのまま通学用ママチャリに跨った正木が呼びかける。
「ん、今日はありがとね」
「ま、えぇもん見せてもろたしね。タクには悪かったけどな」
ニカッと大きく笑って見せる。
「ほんまに上手くいって欲しいな」
遠目に並び立つ初々しいカップルを見てしみじみ感じ入る。
「今のところ順調だと思う。千早も暴走しすぎなくてよかったぁぁ」
「明らかに神ヶ丘さんが入れ込んでるよね?」
「色々あったのよ」
「まぁ、多少は聞いてるけどな。アレならもう秒読みなんじゃね?」
「……っ、そう簡単に、何の問題もなくいってくれるんならっ。私の胃はこれほど捩じ切れない」
「えーと、よぅ分からんけど俺はこの辺で、ほななっ」
そう残すとママチャリを切り返し発進させる。
サヨナラ代わりにチリリンとベルを鳴らしながらミニチュアターミネーターの背中は夕日に照らされ遠ざかっていった。
……酷い絵面だった。
尊い☆
一歩ずつ距離を縮める二人。
もう巧は半ば自分の気持ちを分かってるはずなんですよね。
ただ経験がないからどうしたらいいかわからない。
そして、ノリ……。
高評価・コメント・ブックマーク登録は励みになります。
是非お願いします。




