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後日談 彼女のお宅訪問記 ―事前ですか? 事後ですか?― その3

時は遡って20数年前……大学のキャンパスでそれは起こった。


神ヶ丘正成と才ノ神千草。

二人に何があったのか?

 さて、時は遡って二十数年前……。


 私、才ノ神千草は憧れの神ヶ丘先輩から凄く助けてもらっちゃったんです。

 神ヶ丘正成先輩。博士課程在籍で、ある必修科目で助手をされています。

 そして、今、私は泣きそうな気持ちを堪えながら未完成のレポートをその先輩に見てもらっていました。

「才ノ神……」

 先輩が嘆息します。

「流石に相談に来るのが遅い」

 未完成のレポートを見ながら頭に手を当ててます。

 うぅぅ、ごめんなさい。居た堪れない。

「あの、もうどうしたらいいか分からなくなって……」

「……」

 先輩が時計に視線を向けました。

 あぁ、21時。どうしよう。どうしよう。電車が。

 先輩は一度目を閉じて、まっすぐに私を見つめてきた。


 か、カッコいいなぁ⋯⋯。あ、違う。


「才ノ神、ゼミに泊まり込みはできるか?」

「え? あ、はい」

 問いかけに反応が一拍遅れる。

「どうにかしたいか?」

「は、はいっ」

「よし、分かった。今夜は帰さない」

 真剣な眼差し。

「え?」

「今晩は付き合ってやる。仕上げるぞ」

 少し目線を緩めて、優しい声が私を包む。

 思わず瞳を潤んできてしまう。

 こんな、こんな情けないことで、神ヶ丘先輩は助けてくれようとしてる。

「か、神ヶ丘先輩……」

「まぁ、落ち着け。とりあえずこのレポートを丸裸にするところからだな」

 言うが早いか神ヶ丘先輩は赤インクを取り出し、私のレポートを広げる。

 あうっ、何かもの凄く恥ずかしい。こんな、こんな粗末なものを先輩に見られるなんて。

 しかも、丸裸にだなんて。

「あの、お手柔らかに……」

 最後の悪あがき⋯⋯お願い。凝視しないでください。

「やってたら単位落とすぞ。徹底的にいく。多少は激しめに言うかもしれんが頑張って受け止めろ」

 厳しくも優しい声。この人は、きっと私を見捨てない。

「は、はいっ」

「さて……と、いきなりきてるな。才ノ神、ここの解釈はどうやってる?」

「え? あ、はい……あっ!」

「気づいたな?」

 顔がみるみる赤くなっていった。

 あまりにも初歩的な勘違いがそこにある。

「や、やだっ、こんな、こんなの……」

 とんでもなく恥ずかしかった。

「気にするな、慣れてないならよくある事だ」

「はい……」

「しおれなくていい。どんどんいくぞ」

 優しく励ましながら、先輩はどんどん私のレポートの不出来を指摘していく、本当にあっという間に見つけて、的確な指摘で私を導いてくれた。

 手取り足取りってこういうのを言うんだ⋯⋯。

 明け方にはレポートは無事に完成して、先輩がコーヒーを淹れてくれた。『よく頑張ったな』と優しい声で……。返事をしようとして声が上手く出ないことに気づく、力尽きかけた私はまともに立てなくなっていた。

 先輩に勧められて仮眠用ベッドへ向かい、うとうとしていた私は、先輩が添削で使っていた赤インクを、片づけようとしたのかぼんやりしたまま手に持っていたらしく零してしまった。

 「あっ」と思った時には遅く赤いシミができていて……。

 一生懸命シミ抜きをしようとしたけど初めてのことでうまくいかない。

「先輩、ごめんなさい……私、やったことなくて……上手くできなくて」

 もう泣きそう。

「だから、気にしなくていい。レポートだって出来たんだ。良かった良かったで帰ればいい」

 先輩が、遠慮がちに右手を伸ばして私の頭を優しくポンポンと叩いた。


 はぅっ♡


 顔が熱い。頭から湯気が出そう。

「……君は頑張った。それだけでも十分、評価に値することだと俺は思ってる。 笑顔でいてくれ。その方が俺も嬉しい」

「……っ」

 ゼミのベッドシーツを汚しちゃったのは本当に失敗だったけど、最後まで素敵な神ヶ丘先輩が見れた事は心から嬉しかった。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 私、吉行ゆかりは嘘偽り無く見聞きしたことを語らせていただきます。

 そう、あれは大学の必修講義で友達の才ノ神千草と並んで座ったときのことだった……。

「千草、大丈夫? なんか疲れてそうだけど?」

「うん、昨日ちょっと寝てなくて……神ヶ丘先輩が寝かせてくれなかったから……」

「はい?」

 聞き捨てならない単語がぶち込まれていた。

「昨日ね……『今夜は帰さない』って言われちゃったんだ。でも、凄く嬉しくて気づいたら朝で……」

 ちょっと待ってちょっと待ってっ。

「え? え? それってまさか、その、昨日『初めて一夜を共にしちゃった』ってこと?」

 抑えきれない好奇心という内なる猫が、禁断の扉を開いていた。

「うん、そうだよ……」

 うっすら頬を染め、うっとりした瞳。

 周囲の何人かが、バッと振り返っていた。千草は何も気づかない。

「え? って事は外、泊?」

「あ、そうなっちゃうね。あはは、恥ずかしいなぁ……」

「……ねぇ、どうだったの? 良かったの?」

 もう聞かずには居られない。ちょっと半身を乗り出していた。

「え? うん、すごく良かった……良くしてもらっちゃった♡」

 その顔は『私、幸せです♡』と文字が書いてあるくらいに分かりやすい。

「そ、そうなんだ」

「あっという間に丸裸にされちゃったんだ……凄かったよ……」

 千草はうっとりとした顔で何かを反芻しているようだった。

 そんな千草の様子を見ていた男子の何人かがこの世の終わりみたいな顔をしていた。……千草、人気あるからなぁ……。

「そ、そーなんだー」

「隅から隅まで見られちゃって……恥ずかしくて死んじゃうかと思っちゃった」

「モータイヘンダー」

 何故私は友人の赤裸々な告白を教室ど真ん中で聞いているのだろうか?

 ちょっとお通夜みたいになってるエリアはあるが、さすがに私も気にしてられない。

「そ、そっかー……『全部』見られちゃったのかー」

「……うん、もう全部……全部見られちゃったんだよね……凄く恥ずかしい所とかも全部。でも、恥ずかしかったけど私のダメな所も、全部受け止めて良くしてくれて、嬉しかった♪」

「へ、へぇ……」

 ヤベー、お通夜通り越して火葬場みたいになってる。

「でも、神ヶ丘先輩が全部手取り足取り教えてくれたから、もう大丈夫……嬉しかったなぁ」

 あまりにも、あまりにも幸せそうに語っている表情が、彼女の想いを訴える。

 本当に好きなんだな、と。

「えっと……」

「……あんまり激しくされちゃったから、私壊れちゃうかもって思ったけど……さりげない気遣いがあって、すごく優しくされちゃったんだ♡」

「ワーヤバイネー……」

 でも、場所と火力を考えて?

 手加減してあげて。

「終わったらね。最後は力が抜けちゃって……しばらく立てなくなっちゃった……」

「…………」

「それから、コーヒー淹れてねぎらってくれたんだ。『よく頑張ったな』って」

「……ソウデスカー」

「うん♡」

 一片の曇りなき笑顔。

「私、初めてだったから上手くできなくて、ベッドのシーツに赤いシミ残しちゃって……」

「…………」

「恥ずかしくて泣きそうだったけど、優しく頭をぽんぽんってしながら『良かった』って『笑顔でいてくれ』って、その上『俺も嬉しい』って言ってくれたんだよ♡」

 何人か偲び泣きしてるのがいた……。口から魂が出てそうな奴もちらほらいる。

「神ヶ丘先輩、素敵だったよ♪」

 神様……私の友達は遠くへ行ってしまったようです……。


――――――――――


 再起動。

 うん、フリーズしてる場合じゃない。

 万が一、万が一がある。

 私が聞いたのは千草の話だけっ。

 裏付け確認しようっ。そうだよ。あの生真面目が服着て歩いてるような神ヶ丘先輩だよ?

 いくら何でもやってることがアウトすぎる。

 そんなキャラじゃないでしょ? あの人。

 と、そんなことを考えて歩いていると。

「あ、神ヶ丘先輩」

「あれ? 君は」

「あ、吉行です。あの……昨晩は千草がお世話になったって」

「千草……あぁ、才ノ神か。大丈夫だったか?」

「え? あ、はい。その……ちょっとふらふらしてましたけど」

「そうか、少し無理させすぎたな。初めてだと言ってたからな。もう少し優しくするべきだったか……」

「ワー」

「? どうした?」

「い、いえ。あの、そういえば千草がベッドのシーツを赤く染めちゃったと言ってたんですが……」

「あぁ、あれは俺の方でちゃんとやっといたよ。まぁ、うっすらと残ってるけど、記念って事で」

「ワーソーナンデスカー」

 アハハハ……えっとぉ、どうしよ?


 とりあえず考えるのはやめよう……千草、おめでとう?


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 俺、神ヶ丘正成が食堂で昼食にありつけた時のことだった。

「なぁ、神ヶ丘……」

「なんだ?」

「……才ノ神の初めてを奪って滅茶苦茶に激しく調教したってマヂ?」

「はぁっ!?」

「お前の武勇伝になってる」

「誰がそんなこと言ってる!?」

「……いや、才ノ神本人がすげぇ嬉しそうに……」

「どういう事だぁっ」


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「……君にほぼ過失がないのは分かってるんだ」

 教務課の事務員さんの沈痛な面持ち。

「はぁ……」

「学校側からも説明はさせてもらって……納得自体は得られているんだが」

 かぶりを振っている。

「……」

「先方の親御さんがね……直接君と話したいと言っててね」

 とても申し訳なさそうに言われる。

 余りにも衝撃を受けすぎて俺の視界がぐらりと歪んで見えていた。

はい、千早のご両親の馴れ初めでした♪


これが馴れ初めとか結構えげつないですね。

ゆかりちゃんが地味にいい味出してくれてます♪

全編通して最も雑に名前を付けた人なんですけど、キャラは結構気に入っています。

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