第五章 其の壱 供述 幼馴染の本音
追矢誠司郎・萱島樟葉の提案により、ある場所で鬼を迎え撃つべく場所を移動することなった巧達。
現地に到着し、三人はバンガローで保護され、神奈が本音を打ち明ける……。
「今日・明日は身柄を預かる。奴が夜に来ないとは言い切れないからな」
「いや……親になんて説明したら……」
「そこはこちらで対応します。例のストーカー君って社会的には『行方不明』なだけですし、元から色々アウト過ぎな人で今更何か汚点を付けても何の罪悪感もわきませんし」
「いや、萱島さん、怖いです。怖いです」
「大丈夫よ、天見さん、お姉さんに任せてくれたらいいから♪」
「いや、怖い怖い」
萱島さんが満面の笑顔で怖いことを言い出していた。
「急だが大丈夫か?」
追矢さんが萱島さんに問いかける。
「ちょうど良さそうなのが一つ。ここ給水設備故障で今日は臨時休業です。現時点では閉鎖中なのでちょうど一般客がいません。先輩のアレをやる広さも考慮に入れてバランスとったら、どうでしょう?」
言いながらタブレットを追矢さんに示している。
「……悪くない。いやベストに近いな」
「じゃぁ、場所と宿泊機材を手配しときますね。あと給水車一台、と」
萱島さんは口頭確認しつつ端末を操作していく。
「では、私の車で移動しますから乗ってくださいね」
かなり大きなSUVのドアが開かれていた。
いや、単純にSUVと言ったが、相当武骨なデザインをしている。
「すごい車ですね……」
「ふふんっ♪ いいでしょぉ♪ ランクル250♪ 新車なんだからね」
鼻歌交じりに萱島さんが俺たちを誘導していく。
「あっ、ちょっとストップ」
「?」
助手席側に回り込もうとした俺に萱島さんが待ったをかける。
「ナビシートは天見さんが座って、楠木君は神ヶ丘さんの隣にいてあげて」
優しい笑顔を浮かべながら萱島さんがにじり寄ってくる。
「え?」
本当ににじり寄ってきていた。
「あ、はい……ところで追矢さんは?」
「え、あぁ、先輩ならあっちでバイクに跨ってますね」
萱島さんが指さす方向を見る。
黒革ジャケットを羽織り、黒いフルフェイスを被り、黒いバイクに跨った人影があった。
右手を胸元まで上げ、左手は革手袋をギュッギュッと引きフィットさせている。
街灯に照らされるその姿は一種非現実的な存在感を生んでいた。
ゴーストライダーかな?
別にドクロでもないのに、そんな連想が出てきていた。
ともあれ俺たちはよくわからない行先に向けて出発することとなった。
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「ここって……」
地元育ちの人間からすると地味に馴染みのある場所だった。
この辺りでレジャーランドと言えば、真っ先に名前の挙がる場所だ。
関西サイクルスポーツセンター
そして、今俺たちが立っているのは広大かつ無人の駐車場。
通常のアトラクション施設側ではなく、キャンプ場側エリアだ。
土曜日だというのに客もおらず、山奥というロケーションもあって静まり返っていた。
「通常だったら一般客が居るんですけどね。給水設備が故障したようなんです」
「そんなことある?」
思わず言葉になっていた。
「滅多にありませんよ。この手の施設は定期点検もしっかりしてますし、バックアップも整えてますから。でも、機械なんて壊れるときは壊れますからね。壊れた時はできることをやるだけでしょう。運が悪かったんですよ」
「普通は営業時間までに戻すでしょ」
神奈が重ねていた。
「厄介な部品が壊れて、届くまで時間がかかるようだったので、うちの権限で明日には届くようにしました。win-winですね」
「「……なんて後が怖そうなwin-win」」
俺と神奈の声が重なっていた。
「なんてこと言うんですか、取引はすでに成立したんです」
萱島さんは両手を腰に当ててわざとらしい「怒りましたよ」ポーズを見せている。
「とりあえず今日はキャンプ場のバンガローを使って宿泊してもらえます。水は給水車を手配済みですので、接続まで少し待ってくださいね」
萱島さんが懐中電灯を片手に先導する。
「萱島樟葉」
「うわぁっ!」
「うひゃぅっ!」
「ひぇっ!!」
出し抜けに後ろから呼びかけられ思わず三者三様で驚きの声を上げていた。
「? どうした?」
振り向いた先には追矢さん……なのだが夜闇に全身黒ずくめは完全にそっちの世界の住民である。
「あ、いえ、何でもないです」
心臓がバクバクいってるが何とかごまかす。
「……心臓止まる人居るんじゃないの?」
神奈は冷や汗を張り付けてボソッと呟いていた。
千早はプルプルと小動物のように震えながら俺にしがみついていた。
「どうしたんですか? 先輩」
「例の鬼だ。こちらの評価通り認定も乙の女型弐だ。地区は南河内になる。今回の対応においては対象を『乙』と呼称する」
「了解です。それにしても『乙女』というには物騒な相手ですけど」
「鬼とは物騒なものだ」
「相変わらずですねぇ……」
苦笑いで流しつつ、キャンプ場を進んでいく。
普段は利用客で人の気配があるのだろうが、臨時休業とあってまったく気配はない。
月明かりに照らされるバンガローの一軒で立ち止まった。
「今日はこちらとそっちのバンガローを使ってください。できれば一緒に居てほしいんですけど、さすがに男の子と女の子を同室にするわけにはいきませんからね」
何故か残念そうな顔で説明している。
何故?
「こほんっ。この後ですが、こちらの誘導で対象・乙を駐車場で処理する予定です。こちらに来ることは無いよう処理もしていますが、何かあってもすぐに対応可能な距離です。後は私たちに任せて動かないようにしてください」
「それどのくらい待ってたらいいの?」
神奈が問いかける。
「そうですね、2時間もあれば完了すると思いますから……それまでなら一緒に居た方がいいかもしれませんね。そうしましょう」
振り返る萱島さんの瞳が一瞬ギラリと光ったように見えたのは気のせいだろうか?
「大丈夫です。今回の事はお姉さんたちに任せてくださいね。それから」
萱島さんは改めて俺たちを確認する。
何故だろう? 神奈と俺・千早という形で見られている気がするのは。
「ちゃんと一緒に居てくださいね……。ダメよ樟葉、職務に私情を挟んではいけないわ」
謎の葛藤が零れていたような気がする。
「では、行ってきますね。しばらく大人しくしていればまた呼びに来ます」
そう残して萱島さんはバンガローの扉を閉じ、その場から立ち去ったようだ。
「……大丈夫かな」
千早が心細そうにつぶやく。
「片付けてくれるのを期待するしかないわよ」
「うん、それはそうなんだけど……何だか胸騒ぎがするから」
千早の声には隠しきれない不安がにじみ出ている。
「そんなに不安だったら、そこの専用抱き枕にくっついてなさいよ」
「ひゃぅっ!?」
「んなっ」
神奈の無遠慮な言葉に俺と千早の声が跳ね上がる。
「ちょ、おまっ、何を」
「あーもう今更じゃないの。さんっざん目の前で抱き合っといて『今更できません』もないでしょうが」
投げやりに頭を掻きながら神奈が言い放つ。
「あぅあぅ……っ」
「いや、あれは緊急事態でだな」
「……めちゃくちゃ熱くて重い愛の告白目の前で実演された上に、そのあとも四六時中ひっつき続けといて今更過ぎない?」
神奈の半眼が地味に痛い。チクチク刺さる。
「あー、いやそれはその」
返す言葉などあろうものかと。
「あぅはぅ……」
茹で上がった千早に至っては言葉も発せなくなっている。
「そもそもっ」
そんな俺たちに神奈はビシッと指を突き付ける。
「私はね。あんたたちが幸せになってくれるのが一番なの。変な脇道寄ったりせず、誰からも祝福されるようになって欲しいって勝手に思ってんの」
そこまで言ってから神奈は優しく視線を緩め千早に向かって微笑んだ。
「神…奈…」
そして、チラっと俺の方を見て再び千早を見つめ直す。
「良かったね。千早……」
「あ、ありがと……」
千早が涙ぐむ。
「神奈ぁ、ありがとぅ~…」
神奈に抱き着いて、ふやけるようにポロポロ泣き始める。
俺はその光景を穏やかな思いで見つめていた。
「それでさ、神奈」
「何よ?」
「何でそんな格好であの場に現れたのか説明してくれない?」
「……」
「……」
目をそらしてサッと右手を立てる。
「黙秘権を」
「認めんぞ」
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一通り尾行活動のあらましを神奈に吐かせた結果。
「神奈ぁ~」
頬を膨らませた千早が神奈に可愛い怒りを向けている。
「いや、ごめんっ、ホントごめんって。本当に心配だっただけなのよっ。上手くいって欲しいから」
「ひどいよっ、ずっと見てたなんて」
「なんつー悪趣味な……」
「そんなドン引きした目で私を見ないでよ。私だって不本意なのよぉっ」
半泣きの神奈が頭を抱えている。
「……絶対、お返しするよ」
「はい?」
「神奈の初デートは私と巧で追いかけるから」
「やめてぇぇぇぇえっ!」
「やだっ、神奈の彼氏候補は私が絶対確認するっ! 神奈を幸せにできる人でないと私もやだっ」
何というか、こういうところが千早だなっと何となく思えて胸がふわりとする。
きゃいきゃいと騒ぐ女子高生二人。
「あれ?」
神奈が窓の外を見てぼそりと呟いていた。
「なんだ?」
その視線の先を見ると、光がチカッチカッと瞬いて見える。
周期的な点滅じゃない。誰かが持って歩いている明かりが、木々や物陰に遮られているように見えた。
目を凝らすと、居るのはどことなく締まりのない集団。
どう見ても施設関係者と思えない若者がフェンスを越えて複数忍び込んでいた。
明らかに敷地へ不法侵入している。
「ねぇ、あれって萱島さん達、気づいてる?」
これから起こる惨事を思えば、彼らがどうなるかなど想像に難くない。
「……まずいかも。知らせないと」
「俺、行ってこようか?」
思わず申し出る。
「却下。避難対象筆頭のあんたがここから出て行ってどうする」
神奈にすかさず叩き落される。
「あんたは千早と一緒にここにいて」
「神奈」
「こんなん私一人で十分だし……あんたは千早を守ってあげて」
ジッとまっすぐに視線を送ってくる。
「……分かったよ。神奈、気を付けてくれよ」
「大丈夫よ。あー、二人っきりだからって変な所まで進まないでよね。帰ってきたときに二人揃ってベッドの上で運動会とかしてたらさすがにハッ倒すわよ」
「なるかぁぁぁっ!!」
俺と神奈のやりとりを千早が「?」を浮かべて聞いているのだった。
ついに鬼の迎撃戦となります。
神奈の本音が語られます。ついでに尾行経緯を吐かされます(笑)
神奈も心配だっただけなんよ~。
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