第055回
『Mikiko's Room(https://mikikosroom.com/)』で連載した、会津若松への旅行記(原題は「単独旅行記Ⅶ」)です。
この回のオリジナルは、↓のページに掲載しています。
https://mikikosroom.com/archives/49679708.html
なお、「小説を読もう!」では、写真を2分の1サイズに縮小して投稿しています。
フルサイズの写真は、上記オリジナルページをご覧下さい。
特に断りのない写真は、わたしが撮影したものですので、ご自由にお使いください。
なお、本文のみをまとめた総集編(後書きはありません)は、↓のページからご覧いただけます。
https://mikikosroom.com/archives/24257587.html
み「でたー、厠だ。
わたしの大好物」
ハ「食うんか?」
み「食った後、使うんだから、似たようなもんだろ」
ハ「大違いやわ」
み「説明書き、読んで」
ハ「『厠(外部)』。
『御成の間専用の厠。
床下には砂を敷した箱車が、木製のレールの上に置かれている。
使用後は、この箱車を引き出し、健康状態を調べた後、砂ごと後始末をした。
砂を使用しているため、砂雪隠とも呼ばれた』やて」
み「なんか……。
猫のトイレみたいだね。
でも、『敷した』って何?」
ハ「そう書いたるがな」
み「『敷いた』の誤記なんじゃないの?」
ハ「原稿書いた先生の字が、そう読めたんかもな」
み「チェックが甘い!」
ハ「何で、わしが怒られんならんのや」
み「でもさ……。
大をするってことは、泊まったってことだよね」
ハ「確かにな。
ちょっと立ち寄ったくらいやったら、大まではせんわな」
み「そんなら、お風呂も近くにあるんじゃないの?
さっきの屋敷の間取り、見てみて」
ハ「あらへんみたいやで」
み「お風呂、入らなかったってこと?
それじゃ、夏は来なかったんだろうね」
ハ「何でや?」
み「会津の夏に、あんなキンキラキンの重たそうな装束着て外出したら……。
ぜったい、汗かくだろ」
ハ「確かにな。
道中の駕籠で、すでに汗だくやないか」
み「お風呂、使わないわけにいかんだろ。
あ、そうか。
庭の池に入ったんだ」
ハ「入るかい!」
み「でも、いちいち、うんこまで確かめられて……。
お殿様も大変だね」
ハ「偉い人は、そないなこと気にせんのやろ」
み「ますます猫みたいだ。
よし、厠の内側も見なくては」
み「これは、近いからわたしにも読めるわ。
なになに。
『厠(内部)』。
『ここには天井板がなく、敵が忍び込むのを防いだと言われている。
この様式は、幕府の間者に対する備えとして、江戸時代中頃から始まった。
また、奥の方には畳が三枚敷かれている』か。
でもさ、『江戸時代中頃から始まった』ての、何か形式的だよね。
平和な時代のど真ん中じゃない」
ハ「武士っちゅうのは、建前がすべてみたいな存在やからな」
み「なるほど。
自分の存在自体が、建前ってことね。
その自らの存在意義を表すために……。
こういう形式的なことを、次々と考えついたってことか」
み「『奥の方には畳が三枚敷かれている』って……。
単に、大の部屋ってことじゃない。
しかし、畳ねー。
ピーピーで汚したら、拭いたくらいじゃ取れないよ。
入れ替えだ」
ハ「汚い話、すな」
み「ところでさ。
これ、どっち向きに座ったと思う?」
ハ「そりゃあの、持ち手のある側を向いてやろ」
み「それじゃ、おまるだろ。
そもそも持ち手って、何のために持ったわけ?」
ハ「掴まったほうが、安定するやないか」
み「国鉄時代の列車のトイレと混同してない?
揺れるわけじゃないんだから。
あ、そうか。
おまるのアヒルの首から出てる棒は……。
この誤解が発祥なのかもね?」
ハ「何で誤解なんや。
あの棒、持って、息んだんやろ」
み「痔になるぞ。
あのね。
座る方向は、逆。
あの横棒には、着物の裾を掛けたわけ」
ハ「ほんまかいな」
み「タイムトラベラーが……。
ジョッキースタイルで棒に掴まってたら、すぐにバレるってこと」
ハ「何の話や」
み「逆に、江戸時代の武士が、国鉄のトイレに入ったら……。
逆向きに座るかもね。
で、揺れで転げ落ちる」
ハ「話がズレまくりやて」
み「『茶室』か。
『御成の間に来客があったとき、茶をたてる部屋』ね」
ハ「さっき、容保公に出されとったやろ」
み「あれは鯉こくだろ」
ハ「ちゃうっちゅうに!」
み「右の『釘隠し』の説明、読んで。
老眼じゃなくて近眼だから」
ハ「『他の部屋の釘隠しは銅製ですが、この部屋だけは瀬戸物でできています。
理由は、湯気で銅が錆びると緑青という毒物が発生し、体の毒になるからです』」
み「ふーん。
これも例の、建前的忖度っぽいな」
■悩めるタイムトラベラー
江戸時代には、大いに興味があります。
でももし、タイムトラベルで江戸時代に行けるチャンスがあったとしても……。
たぶんわたしは、断るでしょう。
なぜなら、江戸時代にはウォシュレットがなかったからです。
しかしながら、わたしが子供のころにももちろん、そんなのはありませんでした。
だから、そのころのわたしだったら……。
喜んで江戸時代を見に行ったかも知れません。
こと、トイレという点では……。
江戸時代と昭和には、それほどの変わりがなかったわけです。
逆に、平成を境に激変したと言えるでしょう。
インターネットも出来たし……。
日本人の生活様式が一番変わったのは、平成じゃないかと思うんですよ。
ちょっと前の日本では、親子間の断絶が激しかったんじゃないですか。
子供が体験してることが、親の子供時代にはなかったわけですから。
アドバイスも注意も出来ない。
でも今はもう、今の子供が体験してることを……。
親も、子供時代に体験してるという時代になりました。
これからはあんまり、親子の断絶が起きないんじゃないですか。
さて、ウォシュレット。
日本に来た外国人旅行者が、最も感動することのひとつに……。
トイレがあるようです。
特に、ウォシュレット。
痔持ちの人の中には、日本を出るとき泣いてしまう方もいるとか。
紙で拭く辛いトイレに戻ることが悲しすぎるんです。
でも、なぜ欧米ではウォシュレットが普及しないのか。
ひとつは、向こうでは、トイレとお風呂が一緒だということがあります。
つまり、トイレがあるところは、水場でもあるわけです。
なので、コンセントがないんですよ。
水のかかるところで電気なんか使ったら、感電しかねませんから。
ウォシュレットを使うためには……。
電気工事をするか、トイレの外から電気コードを引いてこなくてはなりません。
賃貸の場合、工事は出来ませんよね。
あと、電気コードを引きこむのも……。
見た目を重視する人には我慢できないことじゃないですか。
もうひとつの問題は、水の質です。
日本の水道は、軟水です。
ミネラル分が少ない水。
対する欧米の水道では、硬水が多い。
で、この硬水でウォシュレットを使うと……。
ミネラル分が、細い管の中で結晶化してしまうんです。
向こうの不器用な設備業者じゃ、管の結晶は取り除けないでしょう。
その度に、部品交換になります。
日本から取り寄せてる間、ウォシュレットは使えません。
このように、日本では便利なものでも……。
海外では使えないっての、少なくないようです。
自動販売機がそうですよね。
これも、日本に来た旅行者が感動するものの代表格みたいです。
でも、母国じゃぜったいに成立しない販売形式だとか。
あっというまに壊されたり持ち去られたりするからです。
そうそう。
ママチャリもそうだそうです。
日本に住んだ外国人は、ママチャリの便利さにも感動するとか。
でも、これも母国では使えないそうです。
あっという間に盗まれるからです。
鍵なんか掛けてても、本体ごと持ち去られますから。
こういうことを考えると……。
日本て、ほんとに特殊な国なんだなあと思ってしまいます。




