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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 岸田減税
最終章 第二次ルイーナエ大戦
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第52話 急報

帝国軍が王都レクィエリアを包囲してから、しばらくの間、アイティクイランド軍と帝国軍の間では、熾烈な攻城兵器の射撃戦が続いていた。


 アイティクイランド軍は、レクィエリアに帝国軍が到達する以前から攻城兵器を用意していた。そのため、帝国軍が攻城塔や破城槌、カタパルト、バリスタ、オナガーの製造を開始すると、俺はそれを妨害するため、城壁上に配置したカタパルト、オナガー、バリスタの目標を帝国軍の工兵部隊へ集中させるよう命じていた。


 帝国軍の工兵が攻城塔を組み立てている。


 破城槌の防護設備を取り付けている。


 カタパルトやオナガーの射撃準備を進めている。


 その場所を、城壁から狙う。


 帝国軍の工兵たちが作業している場所へ投射物が着弾するたび、周囲の兵士たちが慌ただしく動き、壊れた部材を運び出して新しいものへ交換する。それでも、帝国軍は攻城兵器の製造を止めない。


 そして、帝国軍からも反撃が始まった。


 完成したカタパルトが王都へ向けて投射物を放つ。


 オナガーが高い弧を描くように投射物を飛ばし、城壁の内側へ狙いをつける。


 バリスタは城壁上の射撃部隊を狙い、こちらのカタパルトやオナガーの位置まで探ろうとしてくる。


 城壁の上でも応射が続いた。


 帝国軍の攻城兵器を狙う。


 帝国軍もこちらの攻城兵器を狙う。


 その繰り返しが何度も続き、王都と帝国軍の間には、巨大な投射物が飛び交う戦場が生まれていた。


 こちらの攻撃によって帝国軍の工兵部隊へ被害を与えることはできている。


 だが、それ以上の速度で帝国軍は攻城兵器を補充してくる。


 攻城塔を一基破壊する。


 すると、後ろから別の攻城塔が運ばれてくる。


 部材を破壊する。


 新しい木材が到着する。


 カタパルトを狙う。


 別の場所へ移動される。


 こちらの射撃によって帝国軍の攻城準備を遅らせることはできても、それを完全に止めることはできなかった。


 さらに悪いことに、帝国軍の反撃によって、こちらの攻城兵器周辺に配置されていた兵士にも被害が出始めていた。


 城壁上で射撃を続けていた兵士たちの周囲へ帝国軍の投射物が落ちる。


 そのたびに射撃部隊は一時的に位置を変え、別の地点へ移動しなければならない。


 こちらが帝国軍の攻城塔を狙えば、その反撃が返ってくる。


 こちらがカタパルトを狙えば、今度は別の帝国軍カタパルトが城壁を狙う。


 こうして、王都側が優勢を維持しているとはいえ、帝国軍の圧倒的な物量によって、その優位は少しずつ削られていった。


「……やはり、数が多すぎるな」


 俺は城壁上から帝国軍の陣地を見つめた。


 こちらが破壊する量よりも、帝国軍が新たに製造して前へ送り出す量の方が多い。このままでは、遠距離攻撃だけでこちらの攻城兵器と兵士が先に消耗していく。


 さらに、帝国軍の攻城準備も、すでに最終段階へ入っていた。


 その報告を受けた俺は、現在浮上している問題について考えるため、中央宮殿で開かれている軍事会議へ戻った。


 会議室には、父上――アウレリウスをはじめ、軍務卿アトラシート伯爵、各軍団長、その他の軍事関係者が集まっていた。


 その中で最初に口を開いたのは、エリシアの父であり、第四軍団軍団長でもあるフェルディナン子爵だった。


「やはり、傭兵の継続的な運用には疑念を感じざるを得ません」


 フェルディナン子爵は、机の上に置かれた資料へ目を落としながら続けた。


「傭兵は金によって動きます。正規の訓練を受けておらず、練度は盗賊と同等。そして旗色が悪いと感じれば、すぐに離脱や裏切りを行う連中です」


 さらに、第一防壁の配置図へ視線を移す。


「現在の籠城戦で傭兵の一人でも裏切れば、第一防壁防衛線の崩壊を招きかねません。そのためには是が非でも有利に見えるように戦わなければ……」


 しかし、その続きは大きく開いた扉から入ってきた上級騎士によって遮られた。


 俺は眉を顰め、その上級騎士へ尋ねる。


「何事だ」


「はっ。会議中のところ失礼します!」


 上級騎士は息を整えながら敬礼する。


「王国軍第三軍団軍団長カシウス閣下より、『第三軍団第二部隊長より、帝国軍のカタパルト、オナガーの攻撃が激化し、攻城塔、破城槌の前進開始が確認されました。それに合わせて帝国軍の前進開始も確認されたため、現在応戦中』とのことです!」


 室内に緊張が走った。


 ついに、帝国軍の直接攻勢が始まったのだ。


 しかし、動揺する必要はない。


 籠城戦は、攻城兵器の撃ち合いだけで終わるようなものではない。来るべきものが来たのであれば、それに対して適切に対応するだけだ。幸いにも、先ほどの演説によって兵士たちの士気は上々だ。無茶な命令を下さなければ、そう簡単に士気が崩れることもないだろう。


 俺は落ち着いて命令を出した。


「まずは監視だ。本気で攻勢をかけるようなら、城壁内にいる防衛部隊を追加で城壁の上へ展開しろ。弓兵の展開は、既に完了しているな?」


 アトラシート伯爵が答える。


「はい。第三軍団をはじめ、第五軍団、第八軍団、第九軍団、傭兵の城壁上への展開は完了しております。第一軍団、第四軍団、士官候補生部隊と傭兵の半数は温存しています」


「負傷兵は?」


「貴族街の城壁の内側にて治療を行っております。平民街の城壁が破られた際、負傷兵が全員戦力外になるような事態は避けなければなりませんので」


「では、第二軍団は?」


「第三艦隊が周辺の制海権を維持しております。カヴィーレスターン海軍と第一艦隊を通じて食料補給も行っております。ただし、それでも一万五千四百人分の食料を完全には賄い切れていないため、食料については王都備蓄に頼っている状態です」


「そうか」


 俺は一度考えた。


「では、私は城壁へ行く」


 会議室の空気が変わった。


「氷結魔法で敵の士気を挫く。攻城兵器も破壊できれば万々歳だな」


 当然のように、貴族たちから反対の声が上がった。


「お止めください! 攻城兵器の射撃戦では、盾ですら十分な防御になりません! 危険すぎます!」


「フェルディナン閣下のおっしゃる通りです! 陛下に何かあれば……」


 反対意見が次々に出る。


 俺はその声を聞き、やはり諦めるしかないのかと思った。


「分かった。私は司令部で大人しく――」


 そう言いかけた時だった。


 アトラシート伯爵の声が室内へ響いた。


「攻城兵器の破壊は重要です。そして、士気も」


 全員が伯爵を見る。


「陛下の鼓舞と氷結魔法は、敵味方双方にそれぞれ影響を与えるでしょう」


 俺も、周囲の貴族たちも大きく目を見開いた。


 まさか、賛成する者がいるとは思わなかった。


 しかも、それが軍務卿アトラシート伯爵だとは、なおさら予想していなかった。


 フェルディナン子爵がようやく口を開く。


「アトラシート閣下! それはあまりにも陛下に危険が……」


「陛下を肉壁になってもお守りするのも、我ら軍の仕事だ。異論はあるか?」


「いえ……」


 室内が静まり返る。


 流石に「守れません」と言うのは、軍人としての矜持が許さないのだろう。


 もはや、反論する余地はなかった。


「第一軍団の第二騎士団から、3個分隊を護衛につけます」


 アトラシート伯爵が俺を見る。


「陛下は護衛とともに城壁へお向かいください」


「分かった」


 そこへ、隣に座っていたティアが口を開いた。


「私も炎熱魔法を使えるわ。私も連れて行って」


 確かに、ティアがいれば頼もしい。


 俺はアトラシート伯爵を見る。


「どうだ?」


「はっ。問題ございません」


「では準備せよ。会議もここで終了とする。各自、休息を取れ」


 俺はそう言って立ち上がった。


 軍事会議室を出た俺たちは、そのまま王太子宮へ向かった。王太子宮には、戦時用に俺たちの装備を整えるための部屋が用意されている。中央宮殿と王太子宮は王宮内の別区画にあるため、会議室から移動するには少し時間が必要だった。


 王太子宮へ戻ると、防具を整えるために侍女たちが集まってきた。戦時中の装備へ着替えるのは久しぶりだった。


 以前はもっと頻繁にこういうことがあった気がする。


 しかも今の王太子宮では、ゼバズはすでに引退している。マリーも婚活に集中したいということで、婚活の結果はともかくとして侍女を引退していた。


 そのため、現在の王太子宮では、15歳から25歳ほどの若い女性の侍女たちが多く働いている。


 なんというか――。


 宮内卿マスドリート子爵が「そろそろ御夫妻に子供ができてもいいのでは」と胃を痛めそうな環境ではある。


 だが、俺は生まれる前からティア一筋だった。


 浮気する気など一切ない。


 前世でも、一軍女子Aに「美咲が好きなの?」と聞かれたことがあった。


 その時、俺は普通に答えた。


『うん。視界に入ってるだけで幸せ』


 なぜか、その翌日から一軍女子Aは俺をおぞましいものを見るような目で見て来た。


 俺には、何が悪かったのか今でも分からない。


 この疑問は、一生解消されることはないだろう。


 準備を終えた俺たちは、王太子宮から中央宮殿へ向かうための馬車へ乗り込んだ。


 車内にはカイ、エリシア、ティアが座っていて、俺はというとティアのご機嫌を取ている。


「ふん!レノはど~せ美人メイドに着せ替えられてにまにましてたんでしょう!」


「いや!俺ティア一筋だから!」


「へ?美女一筋?」


 カイが火に油を注いで来た。後で粛清しよう。


「変態」


 おい、エリシア。普通に不敬罪だぞ。そしてお前も乗っかるな。


「レノ最低!」


 ティアの口撃によって俺のステータスがゴリゴリ削られていく。


 やむを得ん!


 俺はティアを硬い鎧の上から抱き寄せ耳元で囁く。


「俺はティアが視界に入ってるだけで幸せだよ。」


 っぽ。


 ティアの頬がほんのりと赤らむ。


 そう、このカップル結構ずれているのである。


 前世の一軍女子が見ていたら、美咲ってハーレムヒロインよりチョロインやってるね。


 と思っていたであろう。


 それを見ていたカイとエリシアはというと……


「はあぁぁ。イザベラちゃんに会いたい……」→ロリコン


「はわわわわ↑美男美女の恋物語!最高!」→むっつり


 ……うん、まともなキャラを一人は作るべきだったのかもしれない。

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