↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 岸田減税
最終章 第二次ルイーナエ大戦
387/413

第51話 攻城兵器

帝国軍によるレクィエリア包囲が始まってから、数日が過ぎていた。


 その間、帝国軍は王都へ総攻撃を仕掛けていなかった。東側から大量の木材が運び込まれ、工兵たちは王都の城壁から見えにくい場所を選びながら攻城塔を組み立て、巨大な破城槌には防護設備を取り付け、カタパルトやオナガー、バリスタも一つずつ完成させていった。


 しかし、レクィエリア側も黙って帝国軍の準備を見ていたわけではない。


 帝国軍が攻城兵器を組み立てている場所を発見すれば、城壁上からカタパルトが放たれる。巨大な投射物が弧を描いて飛び、帝国軍の陣地へ落下した。地面が激しく揺れ、土砂が舞い上がり、近くで作業していた兵士たちが押しつぶされ、おびただしいほどの赤い液体が流れ出る。それでも工兵の指揮を執る少佐は退かず、壊れた木材や車輪を確認しながら、すぐに別の場所へ作業員を移動させていた。


「第二作業班を前へ出せ! 第一班は破損箇所の確認!」


「了解!」


「交換用の車輪を持ってこい!」


 帝国軍の工兵たちが走る。その間にも、城壁から二発目の投射物が飛んできた。今度は攻城塔のすぐ近くへ落ち、巨大な衝撃とともに組み立て途中の木枠が大きく揺れる。今度は木材に工兵が押しつぶされた。押しつぶされた工兵はもはや原型をとどめない肉塊と化していた。それでも工兵たちは倒れた部材を起こし、補強材を追加し、作業を続けた。


 帝国軍の側も、やがて反撃を始めた。


「カタパルト、射撃位置を変更!」


 大尉の指示が飛ぶ。


 帝国軍のカタパルトが動かされ、王都の城壁へ向けて角度を調整する。その後ろには少佐を中心とした射撃班が並び、さらに離れた場所では准尉たちが装備の確認を続けていた。


「射撃!」


 巨大な投射物が放たれた。


 次の瞬間、王都第一防壁の外側へ着弾する。土が跳ね、石片が飛ぶ。城壁そのものを破壊するにはまだ遠いが、帝国軍が攻城兵器を使い始めたという事実だけは、王都側にも明確に伝わった。


 それに対して、レクィエリアから再びオナガーが放たれる。


 今度の投射物は高い弧を描いて帝国軍の後方へ飛び、攻城兵器の集積地点近くへ落下した。


 帝国軍の兵士たちが散開する。


 しかし、射撃は止まらない。


 カタパルト。


 オナガー。


 バリスタ。


 城壁と帝国軍の間を、巨大な投射物が次々に往復し始めた。


 最初は一発ずつだった。


 それが二発、三発と増える。


 帝国軍が一つの攻城兵器を動かせば、王都側がそこを狙う。


 王都の防御兵器が位置を変えれば、帝国軍も別の射撃地点から応射する。


 攻城戦が始まる前から、すでに双方は相手の兵器を潰すための戦いへ入っていた。


 そして、帝国軍の射撃がさらに激しくなった。


「第二射撃班、続け!」


 大尉が命令する。


「第一班はオナガーへ移れ!」


「バリスタ隊、城壁上を狙え!」


 それぞれの命令が伝わる。


 少尉は十人規模の分隊をまとめ、その分隊の中には二人の准尉が配置されている。准尉は一般兵より重い鉄製の胴具、肩甲、腕当て、手甲を装備し、腰には剣、背中には三本の投げ槍を備えていた。彼らは単なる兵士ではなく、経験豊富な上級兵として、射撃装備の点検や兵士の再配置を補佐している。


「車輪を固定!」


「弦を張り直せ!」


「損傷した投射機を下げろ!」


 准尉たちが兵士へ直接指示する。


 少尉が十人程の分隊全体を見て動かし、中尉が五十人規模の小隊をまとめ、大尉が百人規模の中隊を指揮する。そのさらに上では少佐が五百人規模の大隊を動かし、中佐が一千人規模の連隊をまとめ、大佐が五千人規模の旅団を指揮していた。


 第一次総攻撃に参加する五個師団は、それぞれ一万人。


 師団長は少将。


 五人の少将の下で、各師団の攻城部隊が動いている。


「第一師団、射撃開始!」


「第四師団、北東側の城壁へ集中!」


「第五師団、南東の防御兵器を抑えろ!」


 師団司令部から下された命令が旅団、連隊、大隊、中隊、小隊、分隊へ伝わっていく。


 命令が末端へ届くまで、数千人の兵士が一斉に動く。


 帝国軍の強さは、単純な兵士数だけではなかった。


 一つの命令が、同じ階級制度と同じ編制によって、巨大な軍勢の中を正確に流れていくことにあった。


 レクィエリア側の射撃も強まった。


 最初は散発的だったカタパルト射撃が、今では一定の間隔で続いている。


 帝国軍の攻城塔へ向けてバリスタが放たれる。


 その周囲へオナガーの投射物が落ちる。


 帝国軍の兵士が盾を掲げて身を守りながら攻城兵器を押す。


 それでも止まらない。


 別の射撃地点から、今度はカタパルトが動いた。


 帝国軍側の投射物が飛ぶ。


 城壁の一角から土煙が上がる。


 その直後、王都側のバリスタが帝国軍の射撃装置へ向けて飛ぶ。


 巨大な矢が地面へ突き刺さり、周囲の兵士が一斉に退いた。


「攻城兵器を下げろ!」


「まだ撃てる!」


「修理して戻せ!」


 怒号が飛び交う。


 帝国軍は壊れた兵器を放置しない。


 使える部品を取り外し、別の攻城兵器へ回す。


 破損したものは後方へ運び、予備の兵器を前へ送る。


 新しいカタパルトが前進する。


 オナガーが配置される。


 バリスタが並ぶ。


 攻城塔も少しずつ前へ移動する。


 王都側が一基を撃ち壊す。


 帝国軍は次の一基を出す。


 その一基を王都側が狙う。


 さらに別の一基が前へ出る。


 まるで終わりのない工場そのものが、戦場へ巨大な兵器を送り続けているようだった。


 やがて昼を越えた。


 帝国軍は、第一次総攻撃へ向けた最後の準備を開始した。


 五個師団が前線へ移動する。


 南西部方面軍第一師団。


 南西部方面軍第二師団。


 南西部方面軍第四師団。


 南西部方面軍第五師団。


 南西部方面軍第七師団。


 合計五万人。


 その前方には、攻城塔と破城槌。


 後方にはカタパルトとオナガー。


 左右にはバリスタ。


 その周囲を歩兵が固める。


 師団長である五人の少将が、それぞれの担当区域へ入る。


 大佐が旅団を動かす。


 中佐が連隊を整える。


 少佐が大隊の位置を確認する。


 大尉が中隊を前へ出す。


 中尉が小隊を並べ、少尉が分隊を整える。


 准尉たちは兵士の装備を確認しながら、必要な場所へ指示を飛ばしていく。


 誰も叫び続ける必要はない。


 それぞれが自分の役割を知っている。


 だから五万人の軍勢が、巨大な一つの機械のように動いていく。


 ティベリウス・デイ・クラウディウス陸軍大将は、その全てを司令部から見ていた。


 副総司令官クィントゥス・デイ・アエミリウス陸軍中将が、最後の報告をする。


「第一師団、配置完了」


「第二師団も完了」


「第四師団、攻城兵器を所定位置へ」


「第五師団、南東側の攻撃準備完了」


「第七師団も準備を終えています」


 ティベリウスは地図を見つめた。


 レクィエリアの第一防壁。


 そこを抜く。


 まず、それだけでいい。


「攻城兵器の準備状況は?」


「攻城塔、破城槌、カタパルト、バリスタ、オナガー、全て配置済みです」


「城壁からの射撃は?」


「現在も続いています」


 ティベリウスは遠くのレクィエリアを見た。


 城壁上から、また一つ投射物が飛ぶ。


 地面へ落ちる。


 土煙が上がる。


 その直後、帝国軍のカタパルトが放たれる。


 さらにオナガー。


 バリスタ。


 双方の攻城兵器が、互いの陣地へ向けて次々と投射物を送り込んでいる。


 それは、第一次総攻撃そのものではない。


 しかし、もう前段階ではなかった。


 城壁を挟んで、すでに両軍の戦闘は始まっている。


 ティベリウスは静かに剣へ手を添えた。


「……十分だ」


 クィントゥスが振り返る。


「大将閣下?」


 ティベリウスは前方を見た。


 五個師団。


 五万人。


 無数の攻城兵器。


 そして、その先にあるレクィエリアの第一防壁。


 彼は一度だけ息を吐いた。


「第一次総攻撃を開始せよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。