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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 岸田減税
最終章 第二次ルイーナエ大戦
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第42話 命綱

セパラーティオ川を越えた帝国軍が西岸へ広がったことで、アンティクイランド中部の戦場は、急速にこれまでとは違う姿へ変わり始めていた。


 第五話の段階で、中部軍と南部軍にはすでに撤退命令が出されていた。川岸で敵を完全に止めることが難しいと判断された時点で伝令が走り、中部軍はウィムーヌ子爵領へ、南部軍は事前に指定されていた第二防衛線へ、そして中央軍も各部隊ごとに指定された地点へ後退することになっていた。そのため、今回の戦いは「防衛線が完全に崩壊してから逃げる」というものではない。まだ軍としてまとまっているうちに、戦場そのものを縮めながら後方へ移るための撤退戦だった。


 しかし、計画されていた撤退と、実際の戦場で起きる混乱は別の問題だった。


 中部軍の一部では、前方の敵が想定以上の速さで接近したことで、部隊の後退を始める前に次の命令が必要になる場面が増えていた。ある部隊は「まだここを維持しろ」と命じられ、別の部隊には「直ちにウィムーヌへ下がれ」と伝えられる。さらに後方からは、中央軍の別部隊が同じ街道へ進んでくる。


「どけ! 後退命令だ!」


「こちらも撤退だ!」


「待て! まだ左翼が残っている!」


 街道のあちこちで声が重なった。


 戦場から離れること自体が難しいわけではない。問題は、どの部隊がどこまで下がり、どこで次の部隊と入れ替わるのかを、一人一人が理解できなくなり始めていることだった。


 兵士たちは自分の部隊の旗を探し、隣の部隊を見つけては行き先を確認する。後方から荷馬車が来れば道を譲り、負傷者を運ぶ車が止まれば周囲の兵士が押して道を開ける。それでも、帝国軍が近づいているという事実だけは変わらない。


「ウィムーヌまで下がるんだ!」


「どの道だ!」


「西の街道だ!」


「西はもう塞がってる!」


「違う、一本北だ!」


 互いに叫びながら、兵士たちは移動していく。


 計画された撤退が、戦場の現実によって少しずつ形を変えながら進んでいた。


 その混乱が最初に大きく表れたのは、中部防衛線の左翼だった。


 帝国軍は、正面へ突撃する前に別働部隊を南側へ動かしていた。そこには中部軍の左翼を守る部隊が配置されており、その背後には次の防衛位置へ通じる街道がある。


「南側から敵が回り込んでいます!」


 偵察兵が駆け込んできた。


「どの程度だ?」


「まだ大軍ではありません。しかし、後続部隊が続いています!」


 左翼指揮官は地図を広げた。


「中央へ知らせろ。こちらが後退すると、中央の側面が空く」


「伝令を出します!」


 だが、その直後に正面からも帝国軍の攻撃が始まった。


「敵、正面!」


「盾を揃えろ!」


 左翼の兵士たちが隊列を組む。


 正面から押してくる帝国軍。


 南側から回り込もうとする帝国軍。


 その両方を見ながら、左翼指揮官は短い時間で判断を迫られた。


 ここで踏み止まれば、後方へ回り込まれる。


 下がれば中央の左側面が露出する。


 それでも、軍全体を残すためには退くしかなかった。


「左翼、後退!」


 命令が伝わった。


 だが、全員が一度に下がったわけではない。


 前列が少しずつ後ろへ動き、後方の部隊がそこへ入り、その間にさらに後ろへ移動する。


 その動きを見た兵士の中には、自分の部隊も後退するのだと判断して、命令を待たずに動き始める者もいた。


「まだだ! その部隊は残れ!」


「ですが、左翼が下がっています!」


「命令を待て!」


「敵が来ています!」


 指示が重なる。


 そして、ほんのわずかな遅れが隊列の間へ隙間を作った。


 帝国軍は、その隙間へ入り込んだ。


「左翼の内側へ敵が入った!」


「中央へ急報!」


 伝令が走る。


 しかし中央へ届くまでにも時間がかかる。


 その間に、左翼はさらに下がった。


 結果として、中部防衛線の左側が最初に大きく崩れた。


 次に危機へ陥ったのが中央だった。


 左翼が後退したことで、中央部隊の側面が露出した。


 中央指揮官へ報告が届く。


「左翼が下がりました!」


「どこまでだ?」


「第一防衛線の後方までです!」


「では中央も下がる」


「しかし、右翼がまだ残っています!」


 指揮官は地図を見た。


 右翼にはまだ十分な兵力がある。


 中央まで下がれば戦線全体が後退し、帝国軍に押し込まれる。


 しかし、中央だけ残れば左翼との間に大きな隙間ができる。


「右翼へ伝令を出せ!」


「何と?」


「中央が後退する。右翼はそのまま敵を引きつけろ」


「承知しました!」


 だが、その命令が届くより先に、帝国軍は中央へ集中してきた。


「中央、敵接近!」


「第二列を前へ!」


「後退準備!」


 盾を構えた兵士たちが後ろへ下がる。


 その時、後方から別の部隊が前へ入ろうとした。


「こちらは中央軍の増援だ!」


「入る場所がない!」


「どけ! 命令を受けている!」


「どの命令だ!」


「中央へ入れと――」


 言葉が途中で途切れる。


 前方から敵が押し寄せたからだ。


 兵士たちは、増援なのか撤退部隊なのかすら分からなくなる。


 ある者は前へ出る。


 ある者は後ろへ下がる。


 その結果、中央部隊の一部で隊列が乱れた。


「中央が押されています!」


「第二防衛線へ!」


 指揮官が命じる。


 中央も後退を開始する。


 だが左翼がすでに大きく後退していたため、中央が下がると、その背後へ帝国軍がさらに入り込む。


「中央も崩れました!」


 報告が走る。


 中部防衛線は、左翼、中央の順に崩れていった。


 最後まで比較的持ちこたえていたのが右翼だった。


 右翼指揮官は、中央が後退したことを知り、地図を見ながら苦い表情を浮かべた。


「中央が下がったか」


「はい」


「左翼は?」


「すでに第一防衛線の後方まで退いています」


 右翼指揮官は周囲を見た。


 正面には帝国軍。


 左には後退する味方。


 背後にはウィムーヌへ続く街道。


「もうここに残る意味はない」


 副官が頷く。


「撤退ですか?」


「そうだ。ここで残れば、中央と同じように側面を取られる」


「ですが、帝国軍を止める部隊が必要です」


「後衛を残す」


 指揮官は即答した。


「本隊を先に下げろ。後衛が敵を引きつける」


 その命令が伝わる。


 右翼本隊が下がる。


 後衛が残る。


 帝国軍が前へ出る。


 後衛がそれを受け止める。


 その間に本隊が街道へ入る。


「まだだ!」


「もう少し!」


「後衛、下がれ!」


 少しずつ距離を開ける。


 やがて後衛も走り出す。


 しかし、その頃には帝国軍が中部防衛線の大部分を突破していた。


 左翼が崩れた。


 中央が下がった。


 右翼も撤退した。


 こうして、中部防衛線は数時間も経たないうちに事実上崩壊した。


 それでも、軍そのものが消滅したわけではなかった。


 第五話の段階で撤退命令を受けていたため、中部軍の主力はすでに後方へ向かっていたからである。


 ここで早期の撤退判断がなければ、左右と中央から同時に帝国軍へ挟まれ、中部軍そのものが戦場に取り残される可能性が高かった。


 しかし、撤退できたことと、混乱しなかったことは別だった。


 ウィムーヌへ向かう街道は、戦う兵士と逃げる兵士の区別さえ曖昧になり始めていた。


「その旗はどこの部隊だ!」


「第三軍団の後衛だ!」


「第三軍団はもう後ろへ下がっているぞ!」


「だから俺たちも行くんだ!」


「違う! そこは第二軍団だ!」


 互いに叫び、道を譲り、また追い越していく。


 ある兵士は自分の部隊を見失い、近くの同じ装備をした兵士の隊列へ入ろうとする。


「お前、どこの隊だ?」


「……分からない」


「分からないだと?」


「さっきの戦闘で隊長を見失った!」


 別の兵士が横から声をかける。


「俺たちと一緒に来い!」


 そんな小さな合流が、街道のあちこちで起きていた。


 指揮官たちは部隊をまとめようとするが、戦場から離れてくる人数が多すぎる。


 負傷兵を乗せた荷馬車が道を塞ぐ。


 軍馬が疲れて歩みを止める。


 補給用の荷車が横転すれば、後続が一斉に止まる。


 そのたびに後方から帝国軍が近づいてくる。


「道を空けろ!」


「荷馬車を端へ寄せろ!」


「負傷者を先に通せ!」


 撤退そのものが、戦闘とは別の混乱を生み始めていた。


 それでも中部軍の指揮官たちは、目的地を変えなかった。


「ウィムーヌへ向かえ!」


「全員、ウィムーヌだ!」


 それだけは何度も繰り返された。


 行き先を失えば、本当に部隊がばらばらになる。


 だからこそ、ウィムーヌという一つの名前を全兵士へ繰り返し伝えた。


 ウィムーヌ子爵領では、先行して到着した部隊が防御準備を進めていた。


 東側には帝国軍。


 西側には外海。


 その地形を見ていた中部軍の指揮官へ、北側から報告が届く。


「プラエシディウス伯爵領との連絡が取れました」


「どうだ?」


「帝国軍の先遣部隊が東側へ現れています。しかし、まだ伯爵領全体へ大軍が入ったわけではありません」


 指揮官は地図を広げる。


「プラエシディウスはウィムーヌの北だ」


「はい」


「そのさらに北西が?」


「ガイウシア子爵領です」


「そこはエクィトゥム国境に接している」


「その通りです」


 副官が地図を指で追う。


「ここが切れれば、エクィトゥムからの援軍が入れません」


「だから、プラエシディウスを守らなければならない」


「ですが、ウィムーヌも守る必要があります」


「当然だ」


 指揮官は南へ視線を移した。


「南は?」


「王領方面へ後退している南部軍から、まもなく次の報告が来るはずです」


「ならば、ウィムーヌが中央の繋ぎ目になる」


 副官が頷いた。


「東は帝国軍、西は外海。北はプラエシディウス、南は王領へ繋がる」


「そうだ」


 指揮官は地図を見ながら説明した。


「ここを維持すれば、北部と南部の部隊が連絡できる。逆にここを抜かれれば、中部が割れる」


「そして北部は?」


「プラエシディウスを抜かれれば、その先はガイウシアだ」


「ガイウシアの向こうにはエクィトゥム」


「だから、そこだけは絶対に切らせるな」


 会話は穏やかだった。


 しかし、その内容は極めて重いものだった。


 その頃、プラエシディウス伯爵領でも、東から近づいてくる帝国軍が確認されていた。


 伯爵領の防衛指揮官が地図を開く。


「帝国軍の先遣部隊が接近しています」


「規模は?」


「まだ小規模です。ただ、後方に本隊がいると考えられます」


「ウィムーヌとの連絡は?」


「維持されています」


「エウクス伯爵領は?」


「現在も連絡が取れています」


「ガイウシアは?」


「異常ありません」


 指揮官は頷く。


「では、ここで敵を止める」


 副官が尋ねる。


「もし突破されたら?」


「ウィムーヌへ報告する。同時にガイウシアへ警戒を伝える」


「つまり、プラエシディウスを第一防衛線、ガイウシアを第二防衛線とする」


「そうだ」


 その言葉の意味は明確だった。


 プラエシディウスが落ちても、ガイウシアが残ればエクィトゥムとの連絡を維持できる。


 しかしガイウシアまで落ちれば、エクィトゥムからの援軍路が失われる。


 一方、南部ではさらに後退が続いていた。


 セパラーティオ川南部流域の貴族領は、帝国軍の進撃に合わせるように一つずつ陥落している。


 ある領地では守備隊が退く。


 次の領地では領主が王都へ避難する。


 その隣では住民が王領へ向かう。


 帝国軍は前進している。


 南部軍は後退している。


 その間の距離は、少しずつ縮まっていた。


「次の防衛地点は?」


「王領東端です」


「そこまで何日だ?」


「帝国軍の進み方を考えれば、長くはありません」


「王領へ連絡を」


 伝令が走る。


 南部軍は、王領の東側へ防衛部隊を送る。


 そこからさらに西へ進めば、王都レクィエリアへ至る。


 そのため、王領の防衛は南部軍にとって最後の後退ではなく、次の大きな防衛線を作るための戦いになる。


「王都までの距離は?」


「王領を越えてから、主要街道を西へ進めば王都です」


「なら、王領を失えば?」


「王都が直接脅かされます」


 指揮官は黙った。


 南部の状況は、それほど厳しくなっていた。


 夜。


 ウィムーヌ子爵領では、ようやく中部軍の主力が集まり始めていた。


 戦場から退いてきた兵士たちは、部隊ごとに集まり直している。


「第三軍団はこちら!」


「第二軍団は東側へ!」


「負傷者はこちらへ!」


「荷馬車を整理しろ!」


 昼間までの混乱を完全に消すことはできない。


 それでも、ウィムーヌという明確な目的地へ集まったことで、少しずつ軍としての形が戻り始めている。


「現在の兵力は?」


「到着分だけで約一万」


「残りは?」


「後方の部隊がまだ移動中です」


「最終的には?」


「一万二千前後になる見込みです」


 指揮官は地図へ目を落とす。


 約一万二千。


 中部軍は大きく損耗したわけではない。


 ただし、疲労が大きい。


 装備にも損害がある。


 軍馬も減っている。


 それでも、戦線を維持するには十分な兵力だった。


「北部からの連絡は?」


「維持されています」


「南部は?」


「王領方面へ後退中です」


 指揮官は頷いた。


「なら、今夜はここを固める」


「はい」


「明日の朝から、東側の街道に防御陣地を構築する。敵がこちらへ来たら、まずウィムーヌで止める」


 士官たちが一斉に動き始めた。


 しかし、王都では別の問題がはっきりしていた。


 地図を広げれば、アンティクイランドの残された戦線が一本の線として繋がっていないことが分かる。


 北にはエクウス伯爵領。


 その南にプラエシディウス伯爵領。


 さらに西へ行けばガイウシア子爵領。


 中央にはウィムーヌ子爵領。


 南には王領。


 そして、その西に王都レクィエリア。


 それぞれが別の貴族領であり、別の部隊によって守られている。


 だが、この配置には明確な意味があった。


 エクウス伯爵領が北部の防衛線を支える。


 プラエシディウスが北部と中部を繋ぐ。


 ガイウシアがエクィトゥムとの連絡を守る。


 ウィムーヌが中部の中央を支える。


 王領が南部と王都を繋ぐ。


 このどこか一つが大きく崩れれば、他の戦線にも影響が及ぶ。


 それを現場の指揮官たちも理解し始めていた。


「一つ確認します」


 プラエシディウスから届いた報告を見ながら、北部担当の士官が言った。


「もしプラエシディウスが突破された場合、ガイウシアへどれだけの兵を送れますか?」


「現在の余剰は多くない」


「では、両方を同時には守れない?」


「だからこそ、プラエシディウスで止める」


「それでも抜かれた場合は?」


 しばらく沈黙があった。


「ガイウシアで止めるしかありません」


 その答えに、誰も反論しなかった。


 さらに南からも報告が入った。


「南部軍より」


 伝令が書状を差し出す。


「セパラーティオ川南部流域の複数貴族領が陥落」


「現在、王領東端へ防衛部隊を移動させています」


「帝国軍先頭部隊との距離は?」


「近づいています」


「王領まで入られたら?」


 士官が答えた。


「王都への街道が開きます」


 その言葉を聞いて、室内の空気が変わった。


 北ではプラエシディウス。


 その先にはガイウシア。


 中央にはウィムーヌ。


 南では王領。


 これらは単なる四つの防衛地点ではない。


 北と中部を繋ぎ、中部と南部を繋ぎ、エクィトゥムとの連絡を維持し、王都への道を塞ぐための一つの防衛体系だった。


「それなら、今後の命令は明確にする」


 軍務担当の士官が地図を指した。


「プラエシディウスは北部との連絡を維持する。ガイウシアはエクィトゥムとの連絡線を維持する。ウィムーヌは中部軍の集結地点として保持する。王領は南部から王都への最後の防衛線として維持する」


「そして、どこか一ヶ所でも帝国軍が大きく前へ出た場合、隣接する部隊は勝手に前へ出ず、まず連絡を取る」


 これはセパラーティオ川での戦いから得られた重要な教訓だった。


 一つの部隊が独断で動けば、別の場所に隙ができる。


 その隙を帝国軍が突けば、戦線全体が連鎖して崩れる。


 だから、これからは各地点を単独で守るのではなく、互いの位置を確認しながら防衛線全体を維持する必要があった。


 夜明け前。


 ウィムーヌ子爵領の東側で、帝国軍の姿が確認された。


「敵影!」


 見張り兵が叫ぶ。


 防御陣地にいた兵士たちが一斉に顔を上げる。


 東の街道に、帝国軍の旗が見える。


 数は、まだ全て確認できない。


 しかし、後方にも兵が続いている。


「来たか」


 中部軍の指揮官が立ち上がった。


 周囲には、ようやく再編を終えた部隊が並んでいる。


 川を越えてきた時より、数は減った。


 装備も傷んでいる。


 それでも、まだ軍として立っている。


 指揮官は北へ目を向けた。


 その先にはプラエシディウス。


 さらにその先にガイウシア。


 南へ目を向ける。


 そこには王領。


 そして西には、アンティクイランドの王都へ続く道がある。


「ここを守るぞ」


 その声に、周囲の士官たちが頷いた。


 ウィムーヌは、もう単なる撤退先ではない。


 セパラーティオ川を失ったアンティクイランドが、次に選んだ防衛線の中心だった。


 帝国軍が東から迫る。


 プラエシディウスでも敵の接近が確認されている。


 南では王領が帝国軍の進路へ入ろうとしている。


 その一つ一つが、別々の戦場に見える。


 しかし実際には、全てが繋がっている。


 プラエシディウスが落ちれば、中部軍の北側が開く。


 その先のガイウシアが落ちれば、エクィトゥムからの援軍が来ない。


 ウィムーヌが落ちれば、中部が割れる。


 王領が落ちれば、王都レクィエリアが直接脅かされる。


 そして帝国軍は、その全てへ同時に圧力をかけられる位置まで進んでいた。


 アンティクイランド軍に残されたのは、一本の巨大な城壁ではない。


 複数の領地と街道と防衛陣地を繋ぎ、どこか一ヶ所でも破られれば次の地点へ下がりながら、それでもエクィトゥムの援軍が到着するまで戦線を維持するという、極めて細い防衛の網だった。


 そして今、その網の最初の一ヶ所。


 ウィムーヌ子爵領へ向けて、帝国軍の前衛が進み始めた。

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