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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 岸田減税
最終章 第二次ルイーナエ大戦
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第6話 軍事理事会の議席比

最高評議会の議席配分について暫定的な合意が成立した翌日。


 俺たちは、再び王都レクィエリアの旧王弟宮へ集まっていた。


 昨日まで議論していたのは、各国が政治的な意思決定においてどれだけの発言権を持つのかという問題だった。最高評議会では、国家としての格を基準に王国6議席、大公国4議席、公国3議席、侯国2議席、伯国1議席とし、通常の国号制には当てはまらないアエテリア帝国亡命政府については、その政治的・歴史的な特殊性を考慮して5議席を与える方向でまとまりつつあった。


 しかし、西方評議会にはもう一つ重要な機関がある。


 軍事理事会。


 加盟国の一国が非加盟国から攻撃を受けた場合、西方評議会は加盟国全体で連合軍を編成し、共同で防衛することになっている。ならば、その連合軍を実際に支える国々へ、どの程度の発言権を与えるのかを決めなければならない。


 最高評議会では、国家としての格を見る。


 軍事理事会では、実際にどれだけの兵力を提供できるのかを見る。


 この二つを同じ制度にしてしまえば、どちらかがおかしくなる。


 軍事力の小さい伯国と、何万人もの兵士を動員できる王国を同じ1議席にすれば、今度は軍事的な責任と政治的な発言力が釣り合わなくなる。逆に、軍事力だけをそのまま議席へ反映すれば、今度は大国が小国の意思を簡単に押し潰せるようになる。


 そこで、この日の会議では、軍事理事会について別の制度を作ることになっていた。


 俺はティアとともにアンティクイランド王国代表団の席についた。


 長い机の周囲には、エクィトゥム王国、アンティクイランド王国、カヴィーレスターン・スルタン国、シルウァニア公国、アエテリア帝国亡命政府、旧セプテントリア連合公国を構成していた26ヶ国の代表が並んでいる。


 議事役が立ち上がった。


「それでは、本日の議題である軍事理事会の議席配分について説明いたします」


 各国の代表が資料へ視線を向ける。


「軍事理事会は、最高評議会とは異なり、国号そのものではなく、各加盟国が西方評議会連合軍へ提供できる実効的な軍事力を基準として議席を配分することを基本方針とします」


 議事役が黒板へ最初の数字を書いた。


 基礎議席――1議席。


「まず、全加盟国へ1議席を保障します」


 これだけは全ての国に共通する。


 軍事力が小さくても、軍事理事会から完全に締め出されることはない。


 続いて、その下へ具体的な基準が書かれていく。


「500人規模――1議席」


「700人から1,000人程度――2議席」


「1,000人から1,500人程度――3議席」


「3,000人程度――4議席」


 ここまで来たところで、侯国代表の一人が手を上げた。


「確認したい」


「どうぞ」


「我々侯国の戦時動員可能兵力は、おおむね700人から1,000人です。その場合、2議席という理解でよろしいでしょうか」


「はい」


 議事役が答える。


「ただし、この数字は単純な徴兵可能人数ではありません。平時の軍制、訓練状態、装備、補給能力を含め、実際に共同軍へ送り出せる兵力として評価します」


 侯国代表が頷いた。


「それならば、我々としても納得できます」


 別の侯国代表も続ける。


「我が国では500人程度しか動員できません。こちらは1議席ですね」


「はい」


 今度は伯国の代表が静かに頷いた。


 500人。


 それでも1議席。


 軍事理事会へ参加する最低限の権利だけは保障される。


「公国については?」


 公国代表が尋ねる。


「各国のおおむね1,000人から1,500人程度の動員能力を基準とし、3議席とします」


「妥当でしょう」


 公国の代表たちも資料へ目を落とした。


 そして大公国。


「ノルディア大公国は約3,000人」


「4議席とします」


 ノルディア代表が頷く。


「最高評議会でも4議席でしたな」


「結果として同じになりますが、理由は異なります」


 議事役が答える。


「最高評議会では大公国という国号を基準にした結果です。軍事理事会では約3,000人の軍事的貢献能力を評価した結果です」


 俺はその言葉を聞いて、少しだけ納得した。


 同じ数字になっても、制度上の意味は違う。


 しかし、この制度を大国へそのまま適用すると、別の問題が生じる。


 議事役が次の資料を開いた。


「大国については、より大きな動員規模を別の区分で評価します」


「20,000人程度までを4議席の上限とし、その後は軍事力の増加に応じて段階的に議席を増やします」


「20,000人以上40,000人未満――4議席」


「40,000人以上80,000人未満――5議席」


「80,000人以上――6議席」


「ただし、一国あたりの議席上限は6とします」


 エクィトゥム王国代表が資料を見る。


「我々は6議席ですな」


「はい」


「カヴィーレスターンは?」


「約40,000人規模ですので5議席です」


 カヴィーレスターン代表が頷く。


 次にアンティクイランド。


「我が国は現在、共同軍として継続的に外部派遣できる兵力を約20,000人として評価しています」


「その場合、4議席」


「はい」


 俺は資料を見つめた。


 シルウァニア戦争によって大きな損害を受けたアンティクイランド王国は、まだ軍を完全には再建できていない。


 だから、現在の軍事力はエクィトゥムやカヴィーレスターンより低い。


 しかし、4議席があれば、軍事理事会で一定の役割を果たせる。


「では、亡命政府は?」


 誰かが尋ねた。


 会議室の空気が変わった。


 アエテリア帝国亡命政府。


 昨日の最高評議会でも、最も議論が激しかった勢力だ。


「亡命政府の総兵力は約21,000人と見積もられています」


「ただし、その全てを共同軍へ投入できるわけではありません」


 議事役が説明する。


「帝国内部に潜伏している兵力、カヴィーレスターンに存在する部隊、エクィトゥム王国内にいる部隊、セプテントリア地域の部隊、レクィエリアにいる中核部隊など、広範囲へ分散しています」


「したがって、実際に長期間継続して外部派遣できる兵力は約5,000人と評価します」


 ある代表が口を開く。


「ならば2議席ですな」


「兵力だけなら、その通りです」


 亡命政府側の元帝国軍人が立ち上がった。


「しかし、それでは我々が持つ旧帝国軍の指揮能力を全く評価していない」


「我々には旧帝国軍の元司令官、参謀、兵站担当、情報担当が多数存在します」


「西方評議会が連合軍を形成するのであれば、それらの人材は通常の5,000人以上の価値を持つでしょう」


 エクィトゥム代表が反論する。


「それを議席として直接加算すれば、軍事理事会の基準が曖昧になります」


「その通りです」


 俺はそこで口を開いた。


「だから、軍事力と軍事専門能力を分けます」


 全員がこちらを見る。


「亡命政府には、継続派遣可能兵力5,000人に基づく2議席を与える」


「その上で、旧帝国軍の参謀・作戦運用能力を評価した専門議席を2つ追加する」


「合計4議席」


 亡命政府代表が俺を見る。


「最高評議会では5議席でしたね」


「はい」


「軍事理事会では4議席」


「軍事理事会は政治的正統性ではなく、共同軍へ提供できる実務的な能力を見るからです」


 亡命政府代表はしばらく沈黙した。


「なるほど」


 完全に満足しているわけではない。


 だが、軍事理事会では自分たちの軍事能力そのものが評価されている。


「我々としては受け入れます」


 そう答えた。


 最後にシルウァニア公国が確認された。


「現在のシルウァニア公国は、旧シルウァニア王国の北東部に実効支配領域を持っています。ただし、戦争後の再編と防衛を優先しているため、国外へ継続派遣できる兵力は500人未満です」


「したがって1議席」


 シルウァニア代表は静かに頷いた。


「異存ありません」


 かつて王国だった国が、今は公国として1議席。


 その数字は、軍事的な現実をそのまま示していた。


 議事役が、旧セプテントリア連合公国の26ヶ国について確認を始める。


「ノルディア大公国――約3,000人、4議席」


「アルビオン公国――約1,000人から1,500人、3議席」


「ヴァルディア公国――約1,000人から1,500人、3議席」


「グランディス公国――約1,000人から1,500人、3議席」


「フロレスタ公国――約1,000人から1,500人、3議席」


「レグナリア公国――約1,000人から1,500人、3議席」


「ベルティア公国――約1,000人から1,500人、3議席」


 公国6ヶ国で18議席。


「オルセリア侯国――約700人から1,000人、2議席」


「カルディア侯国――約700人から1,000人、2議席」


「ネヴァリア侯国――約700人から1,000人、2議席」


「リューディア侯国――約700人から1,000人、2議席」


「エルネスト侯国――約700人から1,000人、2議席」


「セレニア侯国――約700人から1,000人、2議席」


「ドレヴァ侯国――約700人から1,000人、2議席」


「マルティア侯国――約700人から1,000人、2議席」


「フェリオ侯国――約700人から1,000人、2議席」


「アルヴェナ侯国――約700人から1,000人、2議席」


「グレシア侯国――約700人から1,000人、2議席」


「トレヴィス侯国――約700人から1,000人、2議席」


「ヴァレンティア侯国――約700人から1,000人、2議席」


 侯国13ヶ国で26議席。


「ローディア伯国――約500人、1議席」


「ミレニア伯国――約500人、1議席」


「ハルディス伯国――約500人、1議席」


「エストリア伯国――約500人、1議席」


「ノヴェリア伯国――約500人、1議席」


「カストリア伯国――約500人、1議席」


 伯国6ヶ国で6議席。


 議事役が合計欄へ数字を書き込んでいく。


「それでは、現時点での総議席数を計算します」


 エクィトゥム王国6。


 カヴィーレスターン・スルタン国5。


 アンティクイランド王国4。


 アエテリア帝国亡命政府4。


 シルウァニア公国1。


 ノルディア大公国4。


 セプテントリア公国6ヶ国18。


 侯国13ヶ国26。


 伯国6ヶ国6。


 議事役が計算を終える。


「合計74議席です」


 会議室が静かになった。


 74。


 それが現在の西方評議会軍事理事会を構成する議席数だった。


 しかし、俺はそこで一つ手を上げた。


「もう一つ、決めておくべきことがあります」


「何でしょう、殿下」


「軍事理事会の議席数を、毎年変更するべきではないと思います」


「理由を伺っても?」


「軍事理事会の議席を増やすためだけに軍拡を行う国が出る可能性があるからです」


 エクィトゥム代表が頷く。


「確かに」


「そこで、各国の軍事力については3年ごとに再評価する」


「常備兵力だけではなく、戦時動員能力、継続派遣能力、兵站能力、海軍力、騎兵、魔法戦力、そして実際の共同軍への派遣実績を確認する」


「一時的に徴兵しただけの兵力では、議席を増やす根拠にはしない」


 議事役が記録する。


「さらに、軍事理事会自体には戦争を始める権限を与えません」


 今度は俺が明確に言った。


「非加盟国への軍事介入を決定するのは最高評議会」


「軍事理事会は、その決定を受けて連合軍を編成し、作戦計画を立て、部隊を配置し、兵站を管理する」


「つまり――」


 俺は3つの機関を順番に見た。


「戦争をするかどうかを決めるのは最高評議会」


「どう戦うかを決めるのは軍事理事会」


「どう支えるかを決めるのは経済理事会」


 誰も口を挟まなかった。


 その構造が、この新しい共同体に必要なのだ。


 最高評議会は国家としての格。


 軍事理事会は軍事的能力。


 経済理事会は経済的能力。


 同じ「発言権」でも、全てを同じ物差しで測らない。


 それによって、大国だけが全てを支配することも、小国だけで軍事的現実を無視することも防ぐ。


「では、本日の結論を確認します」


 議事役が最後にまとめた。


 軍事理事会――74議席。


 全加盟国に最低1議席を保障。


 議席数は継続派遣可能な軍事力を基本として決定。


 小国については500人規模で1議席、700~1,000人程度で2議席、1,000~1,500人程度で3議席、3,000人規模で4議席。


 20,000人規模の大国は4議席、40,000人規模は5議席、80,000人以上は6議席。


 一国あたりの上限は6議席。


 アエテリア帝国亡命政府は、継続派遣可能兵力と旧帝国軍の参謀・作戦能力を合わせて4議席。


 現在のアエテリア帝国政府には議席を与えない。帝国は西方評議会の加盟国ではない。


 そして、


 3年ごとに軍事力を再評価する。


 それが暫定的な制度として決定された。


 俺は資料へ目を落とした。


 74議席。


 最高評議会とは違う数字の並び。


 王国6。


 カヴィーレスターン5。


 アンティクイランド4。


 亡命政府4。


 大公国4。


 公国3。


 侯国2。


 伯国1。


 国家としての格ではなく、実際の軍事的な貢献能力を数字へ変えた結果だった。


 ティアが小さな声で呼ぶ。


「レノ」


「何だ?」


「少しずつ、本当に形になってきたね」


「ああ」


 俺は窓の外を見た。


 旧王弟宮の外では、各国の旗が風に揺れている。


 まだ戦争は起きていない。


 しかし、その戦争が起きた時に備えて、各国が軍隊を一つの仕組みの中へ組み込もうとしている。


 西方評議会は、もう単なる条約ではない。


 政治を決める最高評議会。


 軍事を決める軍事理事会。


 そして、次に待っている経済理事会。


 三つの機関を持つことで、初めてこの共同体は一つの意思決定機構を手に入れようとしていた。


 俺は机の上の資料を閉じた。


 次は経済理事会。


 軍隊よりもさらに複雑なもの――。


 国の金を、どうやって一つの共同体の中で扱うのか。


 その議論が、これから始まる。

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