第42話 御前会議での再編と改革
シルウァニア王国との戦争が始まってから、半年が経とうとしていた。
季節は夏の終わり。
王立士官学校では、長い夏季休暇も終わりを迎えようとしている。
戦争が始まった頃には、まだ「数か月もすれば終わる」と考えていた者も少なくなかった。
しかし、現実は違った。
北西部ではルペリウス戦線が長く停滞し、南西部でも大きな損害を出した。南部方面軍はシルウァニア軍の反撃によって後退し、敵国王太子兼主力軍総大将を討ち取るという大戦果を挙げた一方で、アンティクイランド軍自身も甚大な損害を受けた。
そして今、エクィトゥム王国軍はヴェルゼバンセスを制圧し、シルウァニア大森林焼却作戦まで開始している。
戦争は終わるどころか、さらに激しさを増していた。
こうした状況を受け、アンティクイランド王国では緊急御前会議が開かれていた。
議題は、軍の再編だけではなかった。
これから数年にわたって続く可能性のある戦争を見据え、軍そのものを支える人材をどう増やすか。
その中で、王立士官学校についての二つの改革案が御前会議で提出されていた。
「第一案を読み上げます」
文官が書類を手に立ち上がる。
「王立士官学校の入学条件について、これまで平民に課されていた金銭的条件を撤廃するものです」
謁見の間にいた貴族たちから、ざわめきが起こった。
王立士官学校は、才能さえあれば平民でも入学できる制度そのものは存在していた。
しかし、実際には入学に際して一定の金銭的負担があり、貧しい家庭の平民にとって大きな壁となっていた。
「戦争が長期化する以上、家柄や財力だけで人材を絞るべきではありません」
改革案を支持する貴族が発言する。
「兵士だけではありません。将校となれる人間そのものが不足する可能性があります。平民の中に優れた才能を持つ者がいるなら、それを軍へ取り込むべきです」
「しかし、士官学校は貴族社会とも深く関係しています」
反対側から声が上がる。
「入学の門戸を広げれば、これまでの秩序が変わるのではありませんか?」
「戦争中に秩序を守って軍が弱くなれば、本末転倒です」
議論が続く。
そして最後に、父上――国王アウレリウスが口を開いた。
「戦争は、家柄だけで戦うものではない」
謁見の間が静まり返る。
「必要なのは、国のために戦う意思と、その能力だ。優れた才能を持つ者が平民だからという理由だけで士官への道を閉ざす必要はない」
その言葉によって、第一案は可決された。
王立士官学校への平民の入学に際して設けられていた金銭的条件は撤廃される。
次に、二つ目の議案が提出された。
「第二案です」
文官が続ける。
「来年度より、王立士官学校の年間募集枠を現在の九百人から千二百人へ拡大します」
再びざわめきが広がる。
九百人から千二百人。
年間三百人の増加。
大きな変更だった。
「戦争は短期間で終わらない可能性があります」
軍務担当者が説明する。
「現在の士官候補生の数では、将来的に前線の部隊を維持するための指揮官が不足する可能性があります。来年度から募集枠を千二百人へ拡大し、より多くの士官候補生を育成する必要があります」
「ただし、単純に三百人増やせばよいという話ではない」
別の重臣が言う。
「教育設備、教官、宿舎、訓練場、食料。全てを増やす必要がある」
「その予算も計上しております」
文官が答える。
今回の議案は、一時的な応急処置ではない。
戦争が続くことを前提に、将来の軍事指導層を増やすための改革だった。
そして、この議案についても最終的な採決が行われた。
「可決とする」
アウレリウス王が宣言した。
これによって、来年度から王立士官学校の募集枠は九百人から千二百人へ拡大されることになった。
さらに、平民が入学する際に障害となっていた金銭的条件も撤廃される。
能力試験に合格し、士官としての適性が認められれば、家柄や財力に左右されず入学できる。
戦争開始から半年。
アンティクイランド王国は、ようやく軍の構造そのものを変え始めていた。
戦場で失われた兵士を補充する。
傭兵を正規軍へ編入する。
諸侯軍と傭兵の指揮系統を整理する。
そして、その軍を率いる士官をより多く育てる。
目の前の戦争だけを見るのではない。
この先も戦争が続くことを想定し、数年先の軍を作ろうとしていた。
その頃。
夏季休暇の終わりを迎えた王立士官学校では、次の学年を迎える準備が進められていた。
まだ今すぐに千二百人が入学するわけではない。
新しい募集枠が適用されるのは、来年度からだ。
それでも、学校側ではすでに増員へ向けた準備が始まろうとしている。
これまで以上の教官。
これまで以上の宿舎。
これまで以上の訓練環境。
そして、これまで以上に多くの才能ある若者たち。
その中には、これまでならば金銭的な理由によって士官学校へ進むことのできなかった平民も含まれることになる。
戦争は国に大きな犠牲を強いた。
だが同時に、アンティクイランド王国の軍そのものを変えようとしていた。
王立士官学校の改革は、その最初の一歩だった。




