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呪われし魔術師  作者: ツバキルイ
第四章「戦争」
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第13話「ギア対国王」

視界の端では、まだ戦いが続いている。

エルブランシュとロアノアール。

魔法が飛び交い、

叫びが響き、

命が次々と消えていく。


これが戦争か…。


そのすべてを振り切るように。

俺は、前へ進んだ。

痛みも。

疑問も。

胸の奥に渦巻く不安も――すべて置き去りにして。


やがて――。

俺は、王の間へと辿り着いた。

入口を守っていたはずのエルブランシュの衛兵たちは、すでに倒されていた。

無残な姿で。

床には血が広がり、濃い鉄の匂いが鼻を刺す。


ここで何が起きたのか――。

想像するまでもなかった。

俺は、ゆっくりと扉に手をかける。

重い。

その感触が、嫌でも現実を突きつけてくる。

そして――押し開けた。


静寂。

王の間には、人の気配がなかった。

広大な空間に、ただ沈黙だけが満ちている。

あまりにも不自然な、空白。


その中で――。

視線が、自然と床へと落ちた。

玉座の前。

そこに、血が付着している。


一筋。

まるで何かを引きずったかのように、奥へと続いている。

俺は、無意識にその痕を追った。

視線が、導かれる。

血はさらに、奥の扉へと伸びていた。


……ここでも、戦闘があったのか。

誰の血だ。

王か。

近衛兵か。

それとも――別の誰かか。

分からない。


ひとつだけ確かなことは、王はここにはいないという事だ。

ロアノアールの襲撃を受け、奥へ逃れたのか。

あるいは――連れ去られたのか。


答えは、この先にある。

その扉の先は――。

エルブランシュ魔法学院、屋上へと続いている。


俺は、ゆっくりと歩き出した。

警戒は解かない。

呼吸を整えながら、一歩ずつ。

体の痛みを押し殺し、意識を前へと集中させる。


そして――扉に手をかける。

軋む音。

静かに、押し開けた。

その先にあったのは――螺旋状の階段。

上へと続く、ただ一つの道。


逃げ場はない。

引き返すことも、もう考えなかった。

俺は、足を踏み出す。

一段。

また一段。

重い体を引き上げるようにして、登っていく。

傷が、悲鳴を上げる。

呼吸が、乱れる。

それでも――止まらない。


やがて――最上段。


最後の扉が、目の前に現れた。

俺は、息を潜める。

わずかな音さえ、命取りになりかねない。

手をかける。

そして――ゆっくりと、押し開けた。


その瞬間だった。

視界に飛び込んできた光景は――。

あまりにも、おぞましい光景だった。


エルブランシュ国王――ダムド・ブランシュ。


その喉元に。

冷たい刃が、突きつけられている。

今まさに――首を落とされようとしていた。


そして――。


その剣を握っているのは。

エルブランシュが誇る、最強のS級魔術師。


――ギア・ファントムだった。


数刻前。

王の間。


「これは一体どういう事だ、学院長!」


ダムド・ブランシュの怒声が、広間に轟いた。


「このエルブランシュが誇る魔法防御結界は、そうやすやすと破られるものではない!」

「なぜだ!なぜ、こうも容易くロアノアールの侵入を許している!」


言葉は止まらない。

焦燥と怒りが、混ざり合い、制御を失っていた。


「教官や精鋭たちはどうした!なぜこれほど手薄なのだ!」

「こんな報告、私は受けておらんぞ!」


王の激情。

だが――その前に立つ男は、微動だにしない。


アダムス・ハーパー。

学院長は、ただ静かに、そのすべてを聞いていた。

数秒の沈黙。


そして――。


「……それは、こういう事ですよ。王」


その声は、あまりにも穏やかだった。

だからこそ――異様だった。

次の瞬間。

鈍い音が響く。

アダムスの手にあった短剣が、ためらいなく王の腹部へと突き刺さっていた。


「――ぐっ!」


息が詰まる。

遅れて襲う激痛。

王の呻きが、広間に響いた。


「き、貴様……!」


血を吐きながら、王は目を見開く。

信じられないものを見るように。


「この余を……エルブランシュを……裏切ったのか……!」


アダムスは答えない。

ただ、滴る血を静かに眺めていた。

その瞳に宿るのは――狂気。


「裏切り……?」


低く、歪んだ声。


「私の主は、最初から貴方ではない」


ゆっくりと短剣を引き抜く。

血が床に滴り落ち、広がっていく。


「さぁ――我が主よ。お姿を」


その言葉に応じるように。

奥の扉が、静かに開いた。

そこから現れたのは――


「……ギア……」


王の瞳が、恐怖と理解で歪む。


「王、ダムド・ブランシュよ」


その声は静かだった。

だが、その奥には底知れぬ怒りが沈んでいる。


「私の怒りが分かるか」


一歩、踏み出す。


「貴様に封じられた力――今、返してもらう」


「……っく、ふざけるな!」


王は残された力を振り絞り、杖を掲げる。

次の瞬間。

眩い光が、王の間を塗り潰した。

視界が白に焼かれる。

その隙を突き――王は逃げる。

屋上へ。


そして。

戦場は、エルブランシュ魔法学院の屋上へと移る。


「愚かな魔術師、ギアよ」


屋上にて、王は嗤った。


「この杖に、貴様の魔力が封じられているのを忘れたか」


杖が、脈打つように輝く。

封印が――解き放たれる。


それは、かつてギアが持っていた力。

呪われし光の魔力。

空中に、幾重もの魔法陣が展開される。

重なり、回転し、輝きを増す。


やがて――。

一斉に解き放たれた。


「《ディバイン・ジャッジメント》!!」


天より、裁きの光が降り注ぐ。

空間そのものが焼けるような閃光。

すべてが、ギアを呑み込んだ。


「ははははは!!どうだ!」


王は高らかに笑う。


「自分の力で滅する気分は!」


光が、収まる。


――だが。

そこに立っていたのは。

無傷の、ギアだった。


「……ばかな……」


王の声が震える。


「直撃したはずだ……!」


再び魔法陣を展開する。


「《ディバイン・ジャッジメント》!!」


光が奔る。

何度も。

何度も。

だが――届かない。


「なぜだ……!」


王の顔が歪む。


「なぜ効かぬ!この力は最強のはずだ!」


その問いに。

ギアは、静かに答えた。


「……貴様に力を奪われた時」


一歩、近づく。


「私は、少しだけ安堵した」

「呪われた力から解放されたと――そう思った」


だが。

その瞳に宿るのは、深い怒り。


「だが現実は違った」

「貴様はその力を使い、この国を腐らせた」


さらに距離が詰まる。

王は後退る。

足がもつれる。


「来るな……来るなぁ!!」


光が乱射される。


だが――意味をなさない。

当たっている。

それでも、効かない。


「――元は、私の力だ」


静かな声。

それだけで、場の空気が凍りつく。


「その防ぎ方を構築することなど、造作もない」


淡々とした響き。

そこにあるのは、絶対の確信。


そして――。

ギアは、王の目前で足を止めた。


「貴様が、まともな王であれば……」


低く、押し殺された声。


「このままでもよかった」


沈黙。

わずかな間。

だが次の瞬間――。


「だが――」


わずかに顔を上げる。

その瞳には、もはや何も残っていない。

ただ、冷えきった怒りだけがあった。


「貴様は万死に値する」


空気が、震える。


「我が母を――」


剣が、わずかに軋む。


「己の保身のためだけに殺したことを、私が知らないとでも思ったか」


抑え込まれていた感情が、溢れ出す。

その声には、確かな憎悪が宿っていた。

ギアの手が伸びる。

王の胸ぐらを掴む。

逃げ場はない。

剣が、ゆっくりと持ち上がる。


「――終わりだ」


冷たい宣告。


「この国の行く末は……地獄で見届けろ」


刃が、喉元に当てられる。


「や、やめろ――!!」


断末魔が、空を裂いた。

その瞬間――。


一閃。


首が、宙を舞う。

血が、弧を描いて空へ散る。


そして――。

転がる。

鈍い音を立てて。


王の首が、床を滑り――やがて止まった。

目は見開かれたまま。

そこに宿るのは、恐怖だけではない。


――憎悪。

その表情のまま。

エルブランシュ国王、ダムド・ブランシュの首は無残に転がっていた。

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