ハイカラさんはこうして大きくなった
第五章 友達とは
「先生、今日は少し早いですが、上がらせていただきますわ」
幸炬が言うと、赤ひげ先生は笑って答えた。
「ああ、そうだったね。今日はゆっくりと、お友達と楽しみなさい」
「先生! このチケット、本当にありがとうございます。三浦環の『蝶々夫人』の日本公演が観られるなんて。さすが名医は違いますわ」
「おいおい、私は医者だぞ」
赤ひげ先生は、楽しそうに笑った。
「それでは、ごきげんよう」
幸炬はそう言うと、足早に診療所を後にした。
今日は自転車ではなく、路面電車で行くことにした。
さすがに帝国劇場だけに、いつものような格好では少し気が引ける。幸炬は身なりを整え、佐姫代と時間を約束して、一緒に帝国劇場へ向かうことになっていた。
「歩いていくのも、おつなものよ」
幸炬はそう言って笑った。
佐姫代は先に待ち合わせ場所へ来ており、二人は並んで歩きながら、三浦環について議論を交わした。
佐姫代の知識は、幸炬も驚くほど深く、まるでプロの評論家のような視点を持っていた。
知識欲に飢えている幸炬にとって、佐姫代はいつしか師匠のような存在になっていた。
今回はヨーロッパ公演を終えての凱旋公演ということで、チケットは庶民の手に届く前に完売となった。
二人が会場に到着すると、帝国劇場の前は送迎の車でいっぱいだった。
劇場のホールでは、当時の日本ではなかなか見ることのできないドレスに身を包んだご婦人たちが、タキシード姿の紳士にエスコートされながら、次々と劇場内へ進んでいく。
女性同士で来ているのは、幸炬たちくらいではないかと思えるほどだった。
佐姫代は周囲を見渡し、少し笑いながら言った。
「なんだか、場違いみたいね」
「そんなことないわよ。私たちだって、立派な観客ですもの」
幸炬が笑った、そのときだった。
「なんだ、サチさんたちも観劇に来たのかい」
聞き覚えのある声に呼び止められた。
「まあ、棚橋の叔父様もいらっしゃいましたの」
幸炬が振り返る。
「では、小乃葉も?」
「まさか。あの子は来ませんよ。始まって五分で夢の世界ですよ」
棚橋夫妻は顔を見合わせて笑った。
「佐姫代さんも、ご無沙汰していましたが、お父様はご息災でいらっしゃいますか?」
「はい。毎日元気に仕事へ出かけておりますわ」
「奥様はいかが? 最近、チャリティバザーでお会いしないので、お身体でも悪くされたのかと思いましたのよ」
棚橋夫人が尋ねた。
「母も元気ですわ。最近は、お料理教室へ時々通っているようです」
「まあ、素敵。私も最近、お料理を習おうかと思っていましたの。今度、お母様にご紹介していただきたいわ」
「はい。母へ伝えておきますわ」
佐姫代は微笑んだ。
「それはよかった。では、私たちは失礼します」
棚橋夫妻はそう言って、連れ立って劇場の中へ入っていった。
「仲がおよろしいのですね……」
佐姫代は、二人の後ろ姿を見つめながら呟いた。
「うちとは違う……」
そう続けようとして、佐姫代は口をつぐんだ。
言っても仕方のないことだ。
その言葉を胸の奥へ押し込むように、そっと息を吐いた。
「さあ、佐姫代。席へ行きましょう」
幸炬に促され、二人は劇場内へと入っていった。
* * *
「サチ、本当に素晴らしかったわね」
観劇を終えた佐姫代は、目を真っ赤にしながら、興奮気味に話した。
「そうよ。ラストのシーンは、いろいろな解釈で議論になるけれど……。やはり、日本人である三浦環様が演じる『蝶々夫人』の解釈に惹かれるわ」
幸炬もハンカチを握りしめていた。
「本当に……」
佐姫代も深く頷いた。
「佐姫代、明日も早いから、今日は贅沢をして車で帰りましょ」
「賛成! 私も車に乗ってみたいわ」
佐姫代が嬉しそうに笑った。
赤ひげ先生から教わった通り、二人は劇場の受付で車の手配をお願いすると、すぐに案内された。
二人は車に乗り込むと、顔を見合わせて、にっこり笑った。
実は赤ひげ先生から、
「帰りは危ないから、車で帰りなさい」
と、少しばかりのお小遣いをもらっていたのだ。
足りない分は、自分たちで払うように言われていた。
幸炬も佐姫代も、その夜は存分に楽しんだ。
華やかな劇場の灯り。
行き交う車。
ドレスをまとったご婦人たち。
そんな世界を少しだけ覗き見した二人は、帰りの車の中でも、まだ『蝶々夫人』の余韻から抜け出せずにいた。
二人にとって、それは忘れられない、贅沢な夜になった。
翌日、佐姫代は校長室へ呼ばれた。
すでに何人かの先生方が集まっており、皆、深刻な顔をしている。
「郷田先生……実は、滝川園子さんの退学届が届きました」
突然のことに、佐姫代は言葉を失った。
校長が使いを出して滝川家を訪ねたところ、家はすでに差し押さえられ、園子たちは引っ越したあとだったという。
近所の人から話を聞き、先ほど使いが戻ってきた。
園子の家が、想像以上に深刻な状況に陥っていたことがわかった。
そして――英語とドイツ語のできる園子は、横浜の外国人居留地へ奉公に出されたらしい。
「生徒たちには、退学したことだけを伝えましょう」
校長の言葉に佐姫代はうなずき、午後の授業のため教室へ戻った。
ところが教室へ入ると、どこから聞きつけたのか、生徒たちは園子の話でもちきりだった。
「園子さん、お金にこまって横浜の外国人居留地へ奉公に出されたそうよ」
「まあ……身売りされたようなものじゃない?」
そんな声まで聞こえてくる。
佐姫代は一度、深く息を吸った。
そして静かに教壇へ立った。
「皆さん、少し静かになさい」
教室が、しんと静まり返る。
「どうやら、皆さんもう園子さんのことをご存じのようですね。誰から聞いたのかは、今は問いません」
佐姫代は生徒たちを見渡した。
「ただ、一つだけ先生からお願いがあります」
生徒たちは黙って佐姫代を見つめている。
「園子さんが、これからどこで、どんな暮らしをすることになったとしても……園子さんが皆さんの仲間だったことに、変わりはありません」
少し間を置いて、続けた。
「人には、それぞれ事情があります。本人が望んだわけではなくても、思いもよらないことで、道を変えなければならないこともあります」
そして、教室を見渡す。
「そんなとき、皆さんなら、仲間に何と言ってあげますか?」
誰も答えなかった。
「学校という場所は、勉強だけをするところではないと先生は思っています。友達をつくり、仲間を知り、そして……人の痛みを想像することを学ぶ場所でもあると思うのです」
佐姫代は、静かに微笑んだ。
「ですから今日は、園子さんのことを悪く言うのはやめましょう。噂を広める必要もありません。ただ、いつか園子さんと再会したときに、胸を張って『あなたは私たちの友達です』と言える人でいてください」
教室には、しばらく沈黙が続いた。
やがて、一人の生徒が小さな声で言った。
「……園子さん、大丈夫かしら」
佐姫代は、その言葉に静かにうなずいた。
「ええ。先生も、それを願っています」
そう言って、黒板へ向き直った。
「さあ、午後の授業を始めましょう」
* * *
しかし、園子のことが気になる佐姫代は、授業の合間に瑞穂の家へ使いを出した。
「今日の夕方、お時間をいただけるかしら」
使いが戻ってきたのは、授業が終わったころだった。
「お嬢様がお待ちしております」
佐姫代はほっとした。
そのまま学校を出ると、路面電車に乗り、瑞穂の家へ向かった。
久しぶりに訪れる徳田家だった。
大きな正面玄関の前には車が停まっている。
「お父様もいらっしゃるのかしら……」
佐姫代は少し緊張しながら、玄関のベルを鳴らした。
女中が出迎えた。
「いらっしゃいませ。お嬢様がお待ちしております」
玄関横の応接間で待っていると、ほどなく瑞穂が駆け込んできた。
「佐姫代、お久しぶり! もう、会いたくて会いたくて、時計とにらめっこしていましたの。さあ、私の部屋へ!」
佐姫代が口を開く間もない。
「相変わらずね」
佐姫代は思わず笑った。
瑞穂の部屋は広く、そこにはグランドピアノが置かれていた。
学生のころ、皆でこの部屋に集まり、歌ったことが懐かしく思い出される。
瑞穂も小乃葉も流行歌や外国の歌が好きで、伴奏をせがまれるたびに、佐姫代は一生懸命レコードを聴いて覚えたものだった。
「佐姫代、何かあったのでしょう? 使いをよこすなんて、よほどのことですわね」
瑞穂が心配そうに尋ねる。
「瑞穂、急にごめんなさいね」
佐姫代が話し始めたところで、ノックの音がした。
女中が紅茶と菓子を運んできて、静かに退室する。
「実は……私の生徒が、家の事情で横浜の外国人居留地へ奉公に出されたようなの」
「まあ……それは大変ですわね」
「外国人居留地へ奉公と聞けば、おおよその見当はつくと思います。だから……とても心配なの」
「そうよね……」
瑞穂も表情を曇らせた。
「それで、瑞穂にお願いがあって来たのだけれど……」
「どのようなこと?」
「もし分かるのであれば、園子さんの奉公先を知りたいのです」
「奉公先を知って、どうなさるの?」
佐姫代は少し考え、首を横に振った。
「どうにもできないことは分かっています。ただ……どんなところへ奉公に出されたのか。そして、園子さんが元気でいるのか。それだけでも分かればと思って……」
瑞穂はしばらく考えていた。
「分かりましたわ。なんとか調べてみます」
その言葉を聞いた瞬間、佐姫代の肩から力が抜けた。
「ありがとう……助かりますわ…」
立ち上がろうとすると、瑞穂が笑った。
「佐姫代、今日はゆっくりしてらして。夕食の準備もさせていますの」
「まあ、夕食まで? それでは甘えすぎですわ」
「久しぶりですもの。もう少しお話ししましょう」
瑞穂の笑顔に押され、佐姫代は結局、ご馳走になることにした。
その夜は瑞穂の両親と兄も一緒だった。
瑞穂は聡明で話題が尽きない。
父親も豊富な知識をひけらかすことなく、皆を楽しませてくれた。
佐姫代は楽しい時間を過ごした。
食事が終わるころには、すっかり遅くなっていた。
「もう遅いね。車で送らせよう」
「いえ、食事までご馳走になって、そのうえ送っていただくなんて……」
「佐姫代」
瑞穂が笑った。
「私たちの間に、そんな遠慮はいりませんわ」
佐姫代もつられて笑った。
「では……お言葉に甘えさせていただきます」
「じゃあ、お父様。私も一緒に――」
「お前は駄目だ。明日は塾があるだろう」
父親にたしなめられ、瑞穂は素直に引き下がった。
「分かりましたわ」
車が到着すると、父親が運転手に行き先を書いたメモを渡した。
「それでは、本日は本当にありがとうございました。お心遣い、ありがとうございます。叔父様、叔母様もありがとうございました。瑞穂、ごきげんよう」
「ごきげんよう、佐姫代。またいらしてね」
佐姫代は車に乗り込んだ。
車が走り出す。
揺れる車内で、佐姫代は窓の外を眺めていた。
やがて心地よい揺れに誘われ、いつしか眠りに落ちていった。
* * *
――あれは、まだ学生だったころ。
「ねえ、今日学校が終わったら遊びに来てくださいな」
授業の前、瑞穂が佐姫代を誘いに来た。
その隣では、小乃葉も笑顔でうなずいている。
「幸炬は?」と佐姫代が尋ねると
「大丈夫。あの子はチーズケーキがあると言えば、ほかの予定を全部断ってでも来ますもの」
「まあ!」
三人で笑った。
その日の放課後、皆で徳田家へ遊びに行った。
「叔父様、叔母様、ごきげんよう」
挨拶を済ませると、いつものように瑞穂の部屋へ向かった。
「これ、外国ではFragranceっていうの。ご婦人方が耳の後ろに少しつけるのですって。そうすると、素敵な香りに包まれるの」
瑞穂が香水を取り出した。
皆で耳の後ろにつけると、たちまち部屋いっぱいに異国の香りが広がった。
「まあ、私たちも大人になったみたい!」
小乃葉が嬉しそうにくるりと回る。
「でしょう?」
瑞穂もご機嫌だ。
佐姫代も、初めての香りに心が華やいだ。
「素敵……」
ただ一人、幸炬だけは興味を示さず、新しい洋書に夢中になっていた。
異国情緒にすっかり浸ったハイカラ娘たちは、その日の夕方、それぞれ家路を急いだ。
* * *
佐姫代が家に戻ると、夕食の支度で慌ただしい台所へ向かった。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい」
母が振り向いた。
その瞬間、母の顔が曇った。
「佐姫代さん……何ですか、その匂いは?」
佐姫代は、はっとして下を向いた。
「これは……Fragranceというもので……」
「まあ、はしたない匂いですこと。こんな匂いが部屋中に広がったら、お父様が気分を害されます」
母は眉をひそめた。
「どこで、そんなものを?」
そして、ぽつりと付け加えた。
「また商人のお嬢様のところへ行ったのですね。あんな異国かぶれの、はしたない子……」
「……はしたない?」
佐姫代の胸の中で、何かがぷつりと切れた。
「お母様……」
震える声だった。
「私は、お母様を尊敬してまいりました。私たちを育て、慈しんでくださったことも分かっています。母のありがたさを、私なりに理解しているつもりです」
佐姫代は涙をこらえながら続けた。
「でも……そのお母様から、私の大切な友達を『はしたない』と言われたら……私は悲しいです」
声が震えた。
「そして……お母様に、がっかりしました」
そう言うと、佐姫代はそのまま自分の部屋へ駆け込んだ。
残された母と姉妹は、呆然としていた。
しばらく、誰も何も言えなかった。
やがて父親が帰宅した。
家の中の異様な空気に気づき、妻に何があったのか尋ねた。
事情を聞くと、父親は何も言わず、自室へ入っていった。
その夜の食卓は、いつになく静かだった。
そこに佐姫代の姿だけがなかった。
食事が終わると、父親は黙って自室へ戻った。
母と姉妹も、黙々と片付けを続けた。
* * *
佐姫代は自分の部屋で、窓の外を眺めていた。
しばらくすると、襖の向こうから父親の声がした。
「佐姫代。少しいいか?」
返事をしないでいると、
「話がある。私の部屋へ来なさい」
とだけ言った。
佐姫代は叱られるのだと思った。
それでも無視することはできず、父親の部屋へ向かった。
父親は文机を脇へ寄せ、佐姫代を座らせた。
そして、開口一番、
「お母様に謝りなさい」
と言った。
佐姫代は黙っていた。
「お前が友達のことを悪く言われて、腹を立てたことは分かる」
父親の声は静かだった。
「学校へ通ったおかげで、大切な友達ができた。そのことを、私は良かったと思っている」
佐姫代は顔を上げた。
「だがな……いくら腹を立てても、家族の前でお母様にあのような言い方をしてはいけない」
「……」
「お母様を傷つけただけではない。お姉さんや妹にも恐怖を与えた」
父親はそこで一度、言葉を切った。
「そして、それではますます、お前の友達が悪者になってしまう」
「……悪者?」
「そうだ」
父親は静かに続けた。
「お母様は、自分が厳しく躾けてきた娘が、悪い友達の影響で変わってしまったと思うだろう」
佐姫代は黙って父親を見つめた。
「お前は賢い娘だ。だからこそ、もう少し違う言い方があったはずだ」
「違う……言い方?」
「そうだ」
父親は微笑んだ。
「お母様が叱ったのは、Fragranceの香りそのものではないのかもしれない」
「……え?」
「商人の娘たちと親しくすることで、自分の大切な娘が変わってしまうのではないか。お母様は、そう心配しているのではないかな」
佐姫代は、しばらく考えた。
「私は……変わっていないと思っていました」
「そうだろうな」
父親はうなずいた。
「本人は変わっていないと思っていても、変わってしまったように見えることはある」
「……」
「だから、人に何かを伝えるときは、自分が正しいと思うことだけではなく、相手がどう受け取るかも考えなさい」
佐姫代は俯いた。
「分かったかい、佐姫代」
「……はい」
父親は、それ以上何も言わなかった。
* * *
「佐姫代様……佐姫代様」
声が聞こえた。
佐姫代が目を開ける。
どうやら、眠ってしまったらしい。
「ご自宅に着きました」
運転手が声をかけていた。
「……まあ。ありがとうございます」
佐姫代は車を降り、運転手に心付けを渡した。
そして玄関へ入る。
「ただいま戻りました」
居間の襖を開けると、母が縫い物をしていた。
「お母様、今日は勝手をさせていただいて、ありがとうございました」
「おかえりなさい。早かったわね。もう少し遅くなるかと思っていましたわ」
母が微笑んだ。
「はい。送っていただきましたので、早く戻れました」
「まあ、それは良かったですわ。瑞穂さんたちは、お元気でしたか?」
「はい……」
佐姫代は、母の顔を見つめた。
あのとき父から言われた言葉が、ふと胸に浮かんだ。
――本人は変わっていないと思っていても、変わってしまったように見えることはある。
佐姫代は小さく微笑んだ。
「とても、お元気でしたわ」
そう答えると、母も嬉しそうに微笑んだ。
「疲れたでしょ、早く着替えておやみなさい。私も、少ししたら休みます」
佐姫代は部屋に入り着替えながら、父親の言葉を思いだした。
「佐姫代、『考える』 とういうことは大切なことなのだよ」
「考える?」
「そうだ。自分が正しいと思うことを、一方的に押しつけても、人の心は動かない」
佐姫代は黙って父親を見つめた。
「まず、その人が何を思っているのか、なぜそう考えているのかを知ることだ。そして、その人自身に考えさせる。答えを教えるのは、そのあとでいい」
「……」
「人は、誰かに答えを与えられたときより、自分で考えて見つけた答えのほうが、ずっと大切にするものだ」
父親は穏やかに微笑んだ。
「もしお前が将来人に何かを教える立場になったとしたら、そのことだけは覚えておきなさい」
佐姫代は、その言葉を胸に刻むように、静かにうなずいた。
「はい、お父様」
その夜の出来事は、佐姫代の心に長く残った。
――人を変えようとしてはいけない。
――まず、その人の話を聞くこと。
――そして、一緒に考えること。
それが後に、佐姫代が生徒たちと向き合うときの、静かな教育の原点となった。
数日後瑞穂からの使いで、滝川園子の奉公先がわかった連絡がきた。瑞穂の父親が、仕事で横浜は行くので、その時会えるようにしてあると、しかしその日が、母親たちとチャリティーバザーを行う日で一緒にいけないとも。独りで大丈夫か?と聞いてきた。
佐姫代は独りでもいけると思ったが、不安もあり、使いには幸炬といくと伝言した。
すぐさま幸炬の自宅にいき、ことの次第を伝えと、幸炬は快く引き受けてくれた。
そして当日は、瑞穂の父親が近くの停車場まで、きてくれ、佐姫代と幸炬をのせ横浜は向かった
車の中では、緊張している佐姫代を後目に幸炬は瑞穂の父親との会話を楽しんでいた。
「ところでサチさん、先日の懐中時計ね、買い損ねたんですよ。」
「まー残念ですわね」
「ええ、ただね、僕もね俄かに信じ難いのですがね…」と当日の話をすると
「まー怖い」と佐姫代が身震いした。
逆に幸炬は
「興味深お話ですこと」と興味津々であった。
「怖いですわ」と佐姫代が横から嫌な顔をする。
「あら、平気ですわ。幽霊だって、そうそう出てくるものではありませんもの。出てくるからには、何か伝えたいことがあるのでしょう?」
幸炬はそう言って、くすりと笑った。




