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レイヴン公爵家の名が落ちた瞬間、談話室の空気は明らかに変わっていた。アシュレイはヴィオレッタの気迫に押されながらもようやく余裕を取り戻し、また依頼内容について詳しく話し始めた。
「最初は、ただの欲しいものは何でも手に入れてきた典型的なお嬢様だと思っていたんだ。いや、実際そうだったんだ。だから、僅かな執着を感じた時、いつものように適当に距離を取れば終わると思っていた」
「ですが、“終わらなかった”と」
「あぁ、酷くなる一方だったよ」
その一言で、談話室の空気が僅かに張り詰めた。ヴィオレッタは僅かな違和感を感じながらもアシュレイへ視線を戻し、続きを促した。
「初めて“私の色を身につけてね”っていうメッセージと共に贈られてきた深紅のタイピンは、ただの可愛らしい独占欲程度だと思っていた。ただ、そういった独占欲を向けられるのはあまり好ましくなくてね。執着が軽いうちに関わりを減らそうと思ったんだ。」
「それで?」
「……それで、そのタイピンは身に着けず、別のタイピンばかりを使っていたんだ。そうしたら、彼女は目に見えて不安定になってしまってね。執着がどんどん酷くなっていったものだから、僕は直接、彼女を拒絶して関わりを切ったんだ」
「たしかに、アシュレイ様がオフィーリア様と関わりを持っていたのは3年ほど前ですものね。」
「あぁ」
「……ですが、それにしては妙ですね。3年も前に縁を切った相手がなぜ未だにアシュレイ様に執着しておられるんでしょうか?それに、私が知っている範囲ではアシュレイ様とオフィーリア様は3年前からまともな会話もしてなかったはずです」
ヴィオレッタは目を細めてアシュレイへ疑いの目を向けた。アシュレイは呆れたようにため息を吐き、話し出した。
「君の言うとおりだ。彼女とは3年前から関わりを一切持たなかったし、話すらまともにしなかった。だから、もう執着など向けられていないと思っていたんだ。でも、それは違ったんだ。」
「……違った?」
「……数週間前のある日、彼女が突然話しかけてきたんだ。今までの彼女なら相手から話しかけられるのが当然といった態度だったのに、その日、彼女は珍しく自分から話しかけてきた。何を話していたのか覚えていないが、気づいた時には彼女と二人、ベッドに横になっていた。」
アシュレイは苦々しく眉を寄せ、指先を僅かに震わせながら言った。ヴィオレッタはその言葉を聞いた瞬間、僅かに目を見開いた。
気づけばベッドにいた――。
それは社交界においてあまりにも致命的で、同時に不自然な話だ。アシュレイほどの遊び人ならば、朝帰り程度、何も珍しくはない。しかし、記憶が曖昧というのがどれほど異常なことか、彼女には嫌というほど理解できた。




