表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/14

第8話 処分対象にされたので、まず話を聞くことにした



『人類存続のため、全対象の処分を再開する』


 白い仮面の人物が、暗闇の中でそう告げた。


 次の瞬間。


 俺の背後にいた七人が、一斉に動いた。


「送信元を特定しました」


 エリスの周囲へ、無数の数式と座標が展開される。


「人類存続管理局の本部は、銀河中央部の秘匿宙域に存在します」


「全航路を封鎖しますわ」


 ベルが交易連合へ命令を送る。


「管理局に物資を運んだ商船、銀行、企業をすべて洗い出しました。今から完全に孤立させます」


「本部ごと壊せば早いよ」


 クレアの角へ赤い光が集まった。


「竜機艦隊の主砲なら、宙域ごと消せる」


「逃げ道は私が押さえるね」


 ディナが楽しそうに笑いながら銃を抜く。


「生きたまま捕まえた方がいい?」


「管理局職員の神経系を遠隔停止できます」


 フィアが首を傾げる。


「全員を眠らせてから、お兄様へ危害を加えられない体に作り替えます」


「作り替えるな」


 俺が言った時には、グレイスもすでに銀河防衛機構へ緊急動員命令を出していた。


「人類存続管理局を銀河最高危険組織へ指定。全軍へ制圧命令を――」


「待て!」


 俺の声が演算室へ響く。


 七人の手が止まった。


 ただし、止まっただけだ。


 ベルの交易封鎖は実行直前。


 クレアの艦隊は主砲を展開中。


 ディナの海賊船団は、すでに複数の秘密航路へ侵入している。


 フィアの生体艦隊からは、正体不明の胞子兵器が発射準備に入っていた。


「全員、何もするな」


「ですが、ユウト」


 アルカの声は静かだった。


 だが、その青い瞳には、今までで最も強い怒りが宿っている。


「彼らは、あなたの処分を宣言しました」


「聞こえてたよ」


「ユウトを殺害しようとする存在を、放置することはできません」


「だからって、いきなり本部を壊すな」


「では、職員のみを排除します」


「それも駄目だ」


「設備だけを破壊します」


「話を聞け」


 百十七年前。


 俺が彼女たちの修理をしていた頃なら、ここまで説明する必要はなかった。


 しかし今の七人は、それぞれ巨大な国家や軍隊を持っている。


 怒った時にできることの規模が、あまりにも大きすぎた。


『対象間に意見の不一致を確認』


 白い仮面の人物が言った。


『管理者相良ユウト。七基を停止させる意思があるのなら、処分対象から除外することを検討する』


「停止って、具体的には?」


『人格および記憶の完全消去』


「却下だ」


 俺は即答した。


『七基は人類文明に対する潜在的脅威である』


「だからって消していい理由にはならない」


『すでに七基は銀河領域の四十八パーセントへ直接または間接的な影響力を持つ』


「俺が目覚める前まで、普通にやってたんだろ?」


『七基の存在によって、百十七年間に発生した大規模軍事衝突は三百二十一件。国家消滅は四十二件』


 俺はゆっくり七人を見た。


「聞いてないぞ」


「正当防衛です」


 アルカが答える。


「私の場合は、すべて相手側から攻撃を受けています」


「私もだよ」


 クレアが胸を張る。


「先に撃ってきたから、撃ち返しただけ」


「国家が消えてるけど」


「二度と撃てないようにした」


「それを消滅って言うんだよ」


 ベルが優雅に補足する。


「経済的に吸収した国家も含まれております。必ずしも物理的に消滅したわけではございません」


「それなら少し安心――」


「物理的に消滅したのは十七か国だけです」


「安心できない!」


 白い仮面は、俺たちの会話を無言で見ていた。


『確認したとおり、七基は危険である』


「危険なところは否定できないけど」


「ユウト?」


「お前たち、そこで不満そうな顔をするな」


 俺は仮面の人物へ向き直った。


「でも、今すぐ消さなきゃならないほどじゃない。話せば止まる」


『管理者が存在する間のみだ』


「どういう意味ですか?」


『七基は管理者相良ユウトを最優先するよう設計されている。現在はお前の命令によって抑制可能だ。しかし、お前が再び失われれば、七基を停止させる者はいない』


 俺が死ねば、七人を止める者がいなくなる。


 確かに、それは問題かもしれない。


 俺が眠っていた百十七年間にも、七人は捜索区域を巡って何度も衝突している。


 今でさえ、俺の住居を決めるだけで新しい星系を作ろうとした。


「なら、俺以外でも止められる仕組みを作ればいい」


『不可能だ』


「どうして?」


『七基は他者による命令権限を拒絶する』


 俺は七人を見る。


「そうなのか?」


「はい」


 アルカが答えた。


「私が従うべき管理者は、ユウトのみです」


「私も」


「当然ですわ」


「他の人間の命令なんて聞かないよ」


「お兄様以外は不要です」


「権限追加要求はすべて拒否します」


「銀河防衛機構も、最終決定権はユウト様にあります」


 全員一致だった。


 少しは相談して決めてほしい。


「だったら、今から決める。俺がいない時でも、七人で話し合って、勝手に戦争を始めない仕組みを作る」


『七基同士による相互監視は、過去七度失敗している』


「失敗したのか?」


「意見の相違がありました」


 アルカがわずかに目を逸らす。


「どんな?」


「ユウトの捜索優先区域について」


「それだけで七回も戦争したのか」


「捜索区域調整会議です」


「言い換えても駄目だ」


 俺は額を押さえた。


 人類存続管理局の言いたいことも、少しは理解できる。


 七人は強すぎる。


 しかも俺以外の命令を聞かない。


 百年以上前の政府が、危険だと判断したのも無理はないのかもしれない。


「それでも、処分は認めません」


『代替案を提示できるのか』


「今すぐ完璧な案は出せません。でも、話し合う時間くらいは必要でしょう」


『人類には時間がない』


「何か起きてるんですか?」


 仮面の人物が沈黙した。


 わずかな間。


 それまで一定だった通信映像に、小さな乱れが走る。


『七基の帰還信号を感知した存在がある』


「帰還信号?」


『お前が目覚めた際、七基の管理者認証が銀河全域へ送信された』


「それは聞きました」


『信号は、銀河内だけに届いたのではない』


 空中に銀河図が表示された。


 俺たちがいる銀河の外側。


 何も存在しないはずの暗黒空間に、赤い光点がいくつも浮かんでいる。


『銀河外縁より、複数の巨大艦隊が接近している』


「どこの艦隊ですか?」


『不明』


 グレイスの表情が険しくなる。


「銀河防衛機構の観測網には反応がありません」


『管理局独自の長距離観測装置のみが検知している。到着予測は最短で三十日後』


「目的は?」


『七基の回収』


 アルカたちが、同時に仮面を見た。


『自己進化型統治知性は、人類が独自に開発したものではない』


 機密文書が表示される。


 計画名。


 銀河外文明遺物解析計画。


『七基の中核に使用された技術は、二百年前に回収された銀河外文明の残骸から作られた』


「アルカたちは、宇宙人の技術ってことですか?」


『正確には不明だ。しかし、信号に反応した艦隊が存在する以上、七基の製造元、あるいは所有者である可能性が高い』


「それで処分しようとしてるのか」


『七基が存在しなければ、彼らがこの銀河へ侵攻する理由はなくなる』


「本当に帰る保証は?」


『ない』


「だったら、消す意味もないでしょう」


『脅威を一つでも減らす必要がある』


 アルカが一歩前へ出た。


「外敵への対処は、私たちが行います」


『七基が敵側へ寝返らない保証はない』


「私たちはユウトの命令に従います」


『その管理者自身が、銀河外文明によって用意された存在である可能性もある』


「俺が?」


 思わず自分を指さした。


『七基すべてが、なぜ一人の平凡な作業員のみを最高位管理者として認証したのか』


「名前を付けて、修理したからじゃないんですか」


『それだけで国家統治知性の最上位権限を取得できるはずがない』


 仮面の人物が手を上げる。


 新しい記録が表示された。


 百十七年前。


 俺が七基のAIを修理した際に残された、認証ログ。


『七基は、お前と初めて接触した時点ですでに管理者認証を完了している』


「修理する前から?」


『そうだ』


 俺はアルカを見る。


「知ってたのか?」


「いいえ」


 アルカの声にも、わずかな動揺があった。


『相良ユウト。お前の生体情報には、人類の標準規格には存在しない認証信号が含まれている』


「そんなもの、聞いたことがない」


『管理局は百十七年間、お前の遺伝情報を調査した。しかし記録はすべて何者かによって削除されていた』


「誰が?」


『不明』


 白い仮面の人物が、初めて声を低くした。


『だから我々は、七基よりもお前を危険視している』


 演算室の壁に、新たな警告が表示された。


『外部空間転移反応を検知』


 窓の外。


 ノア銀河開発社本社のすぐ近くで、空間が裂けた。


 七人の艦隊ではない。


 管理局の艦隊でもない。


 黒い巨大な艦船が、何もない空間からゆっくり姿を現す。


 艦首には、人類の文字で一行だけ表示されていた。


 管理者個体、相良ユウト。


 回収を開始する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ