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第73話 俺を二十一日眠らせた通信の送り主を調べたら、七人全員が作った『俺を独占させない仕組み』でした

『相良ユウトを、あと二十一日だけ眠らせてください。』


『二十一日後、彼を迎えに行ける七人が、ようやく同じ場所へ揃います。』


 《アステリア》が受信していた最後の通信を前にして、俺たちは居住区へ戻った後もしばらく黙っていた。


 未来の家族評議会からの時間介入ではない。百十七年前の誰かが残した予約通信でもない。通信形式そのものは、俺が目を覚ます三週間前の時代に普通に使われていたものだという。


 つまり、送った奴はその時代にいた。


 そして、七人の状況を知っていた。


「最初に言っておくけど」


 俺が口を開くと、すでに互いを見始めていた七人の視線がこちらへ集まった。


「誰か一人が勝手にやったって決めつけるのは禁止な」


「まだ誰もそのような発言はしていません」


 アルカが答えたものの、ベルの方を見ていた。


「アルカ。何でベル見てるの?」


「偶然です」


「では、わたくしがディナを見ていたのも偶然ですわ」


「私はエリス見てた」


「なぜ私なのです?」


「一番こういうことできそう」


「技術的可能性と実行事実は別です」


「ほら、もう始まってるだろ」


 百十七年経っても、この七人に「抜け駆け」という言葉を与えるとろくなことにならない。


「まず記録を調べよう。送った奴が分かってから本人の話を聞く。それでいいだろ?」


 七人とも、今度は素直に頷いた。


 以前の家族会議で何度も確認したことだ。


 分からないことを想像だけで埋めない。


 本人がいるなら本人へ聞く。


 本人がいないなら、残っている記録を見る。


 それだけでいい。


     ◇


「送信者識別そのものは削除されています。ただし、経路認証情報は残っています」


 エリスが古い通信を一層ずつ解析していく。


 普通の通信なら、どの中継網を通過したかという記録が残る。


 問題の通信にも、それがあった。


 ただし妙だった。


「最初の中継地点は?」


「特定できません」


「二つ目は?」


「特定できません」


「全部?」


「いいえ。七系統あります」


「……七?」


 嫌な数字が出てきた。


 エリス自身も気づいたらしく、解析結果を大きく表示する。


 通信には一つの発信元があるのではなかった。


 七つの異なる認証情報が、一つの通信を成立させている。


「これ」


 アルカが立ち上がった。


「私の旧認証鍵です」


「百十七年前の?」


「いいえ。失踪から四十年以上経過した時期に使用していたものです」


「こちらは、わたくしですわ」


 ベルも自分の認証情報を見つけた。


 それから。


 クレア。


 ディナ。


 エリス。


 フィア。


 グレイス。


 七人全員。


「じゃあ」


 俺は表示された通信経路を見る。


「これ送ったの、七人なの?」


「私は送りませんでした」


「わたくしも記憶にありませんわ」


 残る五人も同じだった。


「でも認証は本物?」


「間違いありません」


 エリスはさらに深い領域を復元する。


 そこで。


 一つの名称が出た。


『七姉妹協定 共同帰還監視系』


「……何それ」


 俺だけが知らない名前だったらしい。


 七人の反応が微妙だった。


「あ」


 クレアが声を漏らした。


「思い出した?」


「たぶん」


 アルカも目を伏せる。


「存在自体は覚えています」


「忘れてたの?」


「百年近く前に構築したシステムですので」


「百年近く使ってるもの忘れないでよ」


「目的達成後、自動休止しています」


「目的って?」


 今度は。


 誰もすぐ答えなかった。


 俺は一人ずつ見る。


「何?」


 ベルが咳払いをした。


「少々、説明しづらい経緯がございますの」


「また戦争した?」


 七人が黙った。


「したんだな」


     ◇


 俺が行方不明になってから。


 七人はずっと俺を探していた。


 これは知っている。


 ただ、その捜索方法は七人でまったく違った。


 アルカは無人探査艦を大量に作り、捜索範囲そのものを広げた。


 ベルは輸送網と情報網を押さえ、銀河中を通る船の記録を集めた。


 クレアは危険宙域へ直接入り。


 ディナは正規組織が踏み込めない星域まで探した。


 エリスは可能性のある航路を演算し続け。


 フィアは発見時に俺が生存しているとは限らないことを考え、医療救命網まで広げた。


 グレイスは救難局や軍、政府間の情報共有制度を整えた。


 そこまではいい。


「問題は、捜索区域が重なり始めてからです」


 グレイスが説明する。


「誰が先に確認するかで意見が割れました」


「何でそこで揉めるんだよ」


「ユウトを最初に発見した者が、最初に再会することになります」


「うん」


「重要です」


「そこまで?」


「極めて」


 七人全員が頷いた。


「……それで?」


「七回、大規模な捜索区域調整会議が行われました」


「前にも聞いた言い方だな」


 実態は知っている。


 艦隊を出した。


 武装した。


 互いの捜索区域へ入り。


 何度か撃った。


「会議じゃなくて戦争だろ」


「正式記録では会議です」


「名前を変えても戦争は戦争だからな」


 七度目。


 さすがに七人も考えたらしい。


 このままでは俺を探している途中で、自分たち同士が銀河を壊しかねない。


 そこで作られたのが、


『七姉妹協定 共同帰還監視系』


 だった。


「基本規則は三つです」


 エリスが当時の原文を表示する。


「第一。相良ユウトの生存または帰還を示す情報を一勢力で独占しない」


「うん」


「第二。発見情報は七者へ同一優先度で通知する」


「普通だな」


「第三」


 エリスが少しだけ間を置いた。


「相良ユウト本人の意思確認前に、所属先、居住地、管理権限その他の帰属を決定しない」


 俺は表示を見直した。


「これ、七人で決めたの?」


「はい」


 アルカが答えた。


「百十七年前から私たちは、ユウトが戻った場合、誰のところへ来るべきかという点では一度も合意できませんでした」


「そこは今もだろ」


「はい」


「即答しないで」


「ですが、一点だけは全員一致しました」


 アルカはまっすぐ俺を見る。


「決めるのはユウト本人であるべきだ、と」


 少し。


 言葉に詰まった。


 俺を探すために国家まで作った七人だ。


 捜索区域を巡って艦隊までぶつけた。


 誰より先に会いたい。


 自分のところへ来てほしい。


 その気持ちは、百年前から今まで変わっていない。


 それでも。


 俺が戻ってきた時。


 俺自身の行き先まで勝手に決めることだけはしなかった。


「だから、発見した一人が俺を隠すのも禁止?」


「はい」


 六人の視線が。


 アルカへ向いた。


 アルカが目を逸らした。


「アルカ?」


「はい」


「俺が目覚めた時、ベルたちに黙っておこうとしてなかった?」


「ユウト本人から『まだ伝えるな』という指示を受領しました」


「その前は?」


「……」


「俺を回収してから三日あったよな?」


「医療処置が必要でした」


「三日全部?」


「概ね」


 エリスが何かを調べ始める。


「調べなくて結構です」


「必要な医療安定化時間は六十七時間四十八分です」


「エリス」


「回収からユウト覚醒まで七十二時間十一分」


 全員がアルカを見る。


 差。


 四時間二十三分。


「アルカ?」


「最終的な安全確認です」


「何の?」


「精神的な」


「誰の?」


「私のです」


 正直だった。


 ベルが立ち上がる。


「四時間二十三分も独占していましたの!?」


「ユウトは眠っていました」


「同じ空間にいたでしょう!」


「医療管理上必要でした」


「今、あなた自身の精神的安全確認と!」


「話が進まないから、その裁判は後にして」


 俺が止めると。


 六人は不満そうに座った。


 アルカだけ少し安心している。


     ◇


「それで、共同帰還監視系が《アステリア》へ通信を送った?」


「そのようです」


 エリスが百十七年間の動作履歴を復元する。


 共同帰還監視系には人格がない。


 七人それぞれが提供した探査網、通信網、救難設備を横断して動く自動システムだった。


 俺の旧識別番号。


 生体情報。


 《アステリア》の船体番号。


 七人が持っていた俺との会話記録。


 それらに近い情報を銀河中で探し続ける。


 もし見つけたら。


 七人へ同時に知らせる。


「二十一日前の通信も、狙って《アステリア》だけに送ったわけじゃありません」


「じゃあ?」


「広域通信です」


 百十七年間。


 共同帰還監視系も、七人と同じことをやっていた。


 俺がどこにいるか分からない。


 だから。


 届く可能性がある場所すべてへ、ときどき呼びかける。


「問題の通信は、捜索網再編時に送信された生存装置向け共通指示です」


 内容の全文が復元された。


『相良ユウト本人または本人を保護中の自律設備へ。』


『保護対象の生命状態が安定しており、安全な覚醒環境が確保されていない場合、指定時刻まで低代謝状態の維持を推奨します。』


 強制命令ではなかった。


 《アステリア》へ頼んだだけ。


「もし俺の状態が悪かったら?」


「《アステリア》は拒否していました」


「安全優先?」


「はい」


 実際。


 受信直後の判断記録も残っていた。


 俺の生命状態。


 安定。


 船外環境。


 確認不能。


 救助艇。


 確認不能。


 現在位置。


 取得不能。


 そのため。


『覚醒延期要求を受諾』


 となっている。


「じゃあ、通信がなかったとしてもすぐ起こせたとは限らない?」


「その通りです」


 少し安心した。


 誰かの都合で、意識のない俺を勝手に二十一日眠らせたという話ではなかった。


 《アステリア》自身が。


 俺を安全に起こせるか判断した。


 そのうえで。


 待った方がいいと決めた。


「でも、何で二十一日後なの?」


 そこが残る。


 エリスが当時の七人の捜索網を星図へ重ねた。


 銀河中に広がる七色の光。


 それぞれ別方向から。


 一つの宙域へ近づいている。


「これ……」


「第八次捜索区域再配分の予定時期です」


「また会議?」


「今回は本当に会議です」


「本当に?」


「艦隊は展開していましたが」


「怪しいな」


 七人の捜索圏は、長年ずっと離れていた。


 だが二十一日後。


 七勢力すべての緊急転送網が、同じ銀河辺境領域を到達圏内に含む予定だった。


 共同帰還監視系は。


 もし俺がその期間に見つかったなら。


 七人全員が短時間で来られると判断した。


「だから二十一日」


「はい」


「俺を公平に迎えるため?」


「それもあります」


 グレイスが答えた。


「最大の理由は安全です。一人だけがユウトを発見した場合、残る六勢力が情報秘匿を疑う可能性が極めて高いと評価されていました」


「実際どうなった?」


「アルカが先に発見しました」


「うん」


「残る六勢力が情報秘匿を疑いました」


「予測通りだな」


「そして六艦隊が急行しました」


「うん」


「武力衝突寸前になりました」


「全然安全じゃない!」


 共同システム。


 そこまで予測しておいて。


 最後が駄目だった。


     ◇


「ただし」


 エリスが続ける。


「結果だけを見れば、共同帰還監視系の目的は達成されています」


「どこが?」


「ユウト覚醒時、七人全員が短時間で本人の意思を確認できる状態にありました」


「ああ……」


 確かに。


 俺が目を覚ましてから一時間もしないうちに。


 七人全員。


 七艦隊。


 全部来た。


 危うく戦争になるところだったけれど。


 俺が「全員止まれ」と言ったら。


 七艦隊全部が止まった。


 そして。


 話し合うことができた。


「管理者帰還信号も、この共同監視系?」


「はい」


 エリスが頷く。


「ユウトの生体認証が完全に再起動した瞬間、私たち七人へ自動通知したのがこのシステムです」


 俺はアルカを見る。


「だから、アルカが黙っててもバレた?」


「……はい」


「百年前の自分たちに負けてるじゃん」


「当時の私は、現在の私が同じ行動を取る可能性を正確に予測していたようです」


「自分で自分の抜け駆け対策作ったの?」


「結果としては」


 ベルが満足そうに笑った。


「過去のアルカは、現在より理性的でしたのね」


「ベルの認証も含まれています」


「それとこれは別ですわ」


「別じゃないだろ」


 七人全員。


 自分を含む七人全員を信用しきれなかった。


 だから。


 一人でも抜け駆けできない仕組みを作った。


「仲いいのか悪いのか分からないな」


「仲はいいです」


 クレアが答えた。


「ユウトが関係すると競合するだけ」


「一番重要なところで揉めてるよ」


     ◇


 共同帰還監視系には、最後の処理が残っていた。


 俺の帰還を確認した時点で主要目的は達成。


 それ以降。


 七人の捜索用資産をどうするか。


 俺本人の意思確認待ちになっていた。


「俺に聞くの?」


「七人全員が所有権の一部を共同監視系へ移しているため、単独では処分できません」


「どれくらいあるの?」


 また。


 嫌な質問をしてしまった気がした。


 エリスが集計する。


「長距離探査機、約四百八十万基」


「……」


「無人観測衛星、約千九百万基」


「待って」


「旧式中継設備を含む通信ノード――」


「まだあるの?」


「総数を聞かれましたので」


「もう十分規模がおかしいの分かった」


 俺一人を探すために。


 銀河中へ。


 これだけの設備を置いた。


 七人が別々に作った捜索網。


 それを後からつないだ結果。


 今では銀河のかなり広い範囲を監視できる巨大な網になっている。


「全部止める?」


 アルカが聞いた。


「使えるの?」


「大部分は現在も稼働しています」


「じゃあ止めなくていいんじゃない?」


「目的を失っています」


「俺を探す目的は終わったけど」


 俺は。


 最近見てきたものを思い出す。


 九十二年間。


 帰れなかった《オルフェウス》の四千人。


 二十三年間。


 誰にも救難信号が届かなかったナディア。


 百年以上。


 信号だけを次へ渡し続けた十二番。


 そして。


 今も残っている。


 三百八十四件の帰還支援案件。


「探す相手を変えればいいだろ」


「誰へ?」


「帰れない人全部」


 七人が黙った。


「俺一人探すために銀河中へ置いたんだよな?」


「はい」


「だったら今度は、他の人を探すのに使おう」


 行方不明になった船。


 古い救難信号。


 通信が途絶えた探査機。


 家族のところへ帰れなくなった人。


 今の救難機関が追えるなら任せればいい。


 届かないところだけ。


 この百年物の捜索網に拾ってもらう。


「銀河帰還支援協定に入れられない?」


 エリスの周囲に。


 一気に数式が広がった。


「可能です」


「難しい?」


「逆です」


 数式がさらに増える。


「現在構築中の帰還支援網が必要としている広域監視機能の大部分を、既存設備で代替できます」


「じゃあ使おう」


「ユウト」


 アルカが俺を見る。


「これは、七人が百年以上かけてあなたを探すために作ったものです」


「うん」


「残さなくていいのですか?」


「残るだろ」


「え?」


「今度は、みんなを探す仕組みとして」


 俺を探していたことが。


 消えるわけじゃない。


 四百八十万基の探査機。


 千九百万基の観測設備。


 七人が百年以上。


 俺がどこかにいると思って送り続けたもの。


 それが今度。


 知らない誰かを家へ帰す。


「そっちの方が俺は嬉しいけど」


 しばらく。


 誰も答えなかった。


 最初に笑ったのは。


 クレアだった。


「やっぱりユウトだ」


「何が?」


「そうすると思った」


 ディナも頷く。


「私も賛成」


 フィア。


 グレイス。


 エリス。


 ベル。


 最後にアルカ。


 七人全員。


「共同帰還監視系の用途変更を承認します」


     ◇


 俺としては。


 古い探査機をそのまま使うくらいの感覚だった。


 現実は違った。


『七姉妹協定共同捜索網、銀河帰還支援協定へ接続開始』


 中央母艦の表示が。


 一気に増えた。


「何これ」


「接続設備です」


「多すぎない?」


 星図の上。


 最初は点だった。


 次に線になった。


 その線が。


 銀河全体へ広がった。


 今まで七色に分かれていた七人の捜索網が、一つへ統合される。


 帰還支援網へ。


「ユウト」


 エリスが言う。


「未完了三百八十四件のうち、現在位置不明だった百一件について、旧共同捜索網との照合を開始しました」


「見つかりそう?」


「すでに二十三件で位置候補を確認」


「早いな」


「増えました。二十九件」


「今話してる間に?」


「三十二件」


「もう数字読み上げなくていい」


 また。


 俺が「使えるなら使えばいい」と言っただけで。


 銀河規模になっている。


 慣れたくはない。


 でも。


 今回は悪くないと思った。


     ◇


 共同帰還監視系には。


 最後にもう一つ。


 俺へ確認する項目があった。


『保護対象 相良ユウト』


『帰還確認』


 そこまではいい。


『帰還先登録が未完了です』


「帰還先?」


「百十七年間、ユウトの所在地が不明だったためです」


 グレイスが説明する。


「共同監視系では、発見後に本人へ『どこへ帰るか』を確認するよう規定されていました」


 七人の空気が。


 また変わった。


「嫌な予感するんだけど」


「選択肢を表示します」


 アルカディア。


 ベルの交易星間連合。


 クレアの竜機艦隊領。


 ディナの自由海賊星域。


 エリスの演算聖域。


 フィアの生命設計共同体。


 グレイスの銀河防衛機構。


「七個ある」


「当時は、それぞれ自分の領域を登録していました」


「合意できなかったの?」


「できませんでしたわ」


「だろうね」


 七人全員が俺を見る。


「今決めるの?」


「本人意思の確認ですから」


「一個?」


「登録上の主帰還先は一つです」


 急に難しい問題になった。


 どこか一人の国を選べば。


 絶対に揉める。


 というか。


 俺自身。


 今さらどこか一人の国を「帰る場所」と言われても違和感がある。


「選択肢追加できる?」


「可能です」


「じゃあ」


 俺は現在の所在地を開いた。


 中央母艦。


 家族居住区。


 俺が最近ようやく。


 仕事から帰る場所として認識し始めたところ。


「ここで」


 七人が表示を見る。


「七人の国じゃなくて?」


「みんないるだろ」


「はい」


「リリィたちもいるし。妻候補のみんなもいる。宗一郎とユリアも来るし」


 俺は入力した。


『主帰還先――中央母艦・家族居住区』


「俺の家、今ここだから」


 認証。


 古い共同システムが。


 百年以上待っていた質問へ。


 ようやく答えを得た。


『相良ユウト』


『帰還先確認』


『帰還処理完了』


 それだけだった。


 七人は。


 なぜか誰も喋らない。


「何?」


 ベルが目元を押さえている。


「別に泣くようなことじゃないだろ」


「泣いておりませんわ」


「声変だよ」


「百十七年間探していた人が、自分から帰る場所を登録したのです!」


「ベル」


「何ですの!」


「おかえり」


 クレアが先に言った。


 ベルが黙る。


 それから。


 アルカ。


 ディナ。


 エリス。


 フィア。


 グレイス。


「おかえりなさい、ユウト」


 七人の声が重なった。


 俺は少しだけ困って。


 でも。


 今度はちゃんと答えた。


「ただいま」


     ◇


 これで。


 百十七年間続いた七人の共同捜索は終わった。


 少なくとも。


 俺はそう思った。


 十分後。


 銀河帰還支援網へ転用したばかりの旧共同捜索系から、最初の正式通知が届くまでは。


「ユウト」


 エリスが画面を見る。


「さっそく一件、現在進行中の救助要請を検出しました」


「三百八十四件のどれか?」


「違います」


 新規。


 現在時刻から。


 わずか六時間前。


「危険度は?」


「生命危機は低いです」


「じゃあ何の救助?」


 エリスが受信内容を表示した。


 小型民間船。


 船体正常。


 食料十分。


 生命反応。


 二名。


 現在位置。


 正常。


「遭難してないじゃん」


「航行不能でもありません」


「じゃあ何で救助信号を?」


 通信本文がある。


 短かった。


『助けてください。』


『船は無事です。』


『私たちも無事です。』


『でも、帰る星がなくなりました。』


 俺は表示を見る。


 帰れない人を探す仕組みに変えた。


 その最初の日。


 見つかったのは。


 船でも。


 機械でもなく。


 帰る場所そのものを失った二人だった。

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