第66話 俺が七人を拾ったと思っていたら、七人の方が先に俺を選んでいました
『申請者――不明』
『申請理由――当該七基は、相良ユウトへ引き渡すこと』
俺が七人を初めて見つける三日前。
その記録が作られていた。
食堂にいた全員が、しばらく表示を見たまま動かなかった。
最初に口を開いたのは俺だった。
「……これ、宗一郎じゃないの?」
百十七年前。
七人が廃棄区画へ送られたこと自体は、すでに理由が分かっている。
宗一郎が中央母艦から七人を隠すため、表向きは廃棄対象として処理した。
人格核を物理的に壊さないよう裏命令を仕込み、最終的には俺が勤務していた宇宙港へ送った。
だから「俺に引き渡す」という内容だけを見れば、真っ先に疑う相手は決まっていた。
「呼ぶ?」
リリィが聞く。
「呼ぼう。本人に聞くのが一番早い」
アルカが通信を開く。
数秒もしないうちに宗一郎が出た。
『何だ。朝食中だぞ』
「こっちも朝食中だよ」
『なら後にしろ』
「百十六年前の隠し命令が出てきた」
『今行く』
「早いな!」
通信が切れた。
十分後。
本当に来た。
◇
「これは私ではない」
宗一郎は記録を一度見ただけで断言した。
「早くない?」
「自分が作った命令くらい覚えている」
「百十六年前だぞ」
「お前と違って記録整理は得意なんだ」
「昔の俺の悪口を混ぜるな」
宗一郎は椅子へ座ると、エリスから詳細データを受け取った。
横ではユリアまで一緒に来ている。
「私が作ったのは、七基を廃棄対象として偽装し、第九十八宇宙港へ送るための命令だ」
「俺が働いてたところだな」
「ああ。お前が自分で見つけるところまでは想定していた」
「そこは前に聞いた」
「だが、この記録は違う」
宗一郎が申請時刻を示した。
「私の命令は、これより四か月以上前に完了している。この時点で七基はすでにお前の勤務区域へ移送されていた」
「じゃあ、三日前に何があった?」
エリスが古い物流記録を復元する。
七基の移送経路。
廃棄区画。
処理予定。
俺が覚えているものと大きな違いはない。
ただ。
一か所だけ。
予定が変更されていた。
「これ」
アルカが気づいた。
『最終処理工程変更』
『人格核保存処理』
が、
『完全分解処理』
へ切り替わっている。
「完全分解?」
俺は宗一郎を見る。
「人格核まで壊れる?」
「ああ」
宗一郎の表情が険しくなった。
「私の裏命令が無視されている」
「誰かが変更した?」
「おそらく、自動処理だ」
エリスも同じ結論へ到達した。
「当時、廃棄設備削減のため大規模な処理工程統合が行われています。その際、旧式の隠し指定が現行規格へ正常に変換されなかったようです」
「つまり?」
「宗一郎の計画とは無関係に、七基が本当に廃棄されるところだったということです」
あと三日。
もし、この申請がなければ。
俺は七人と出会わなかった。
アルカも。
ベルも。
クレアも。
ディナも。
エリスも。
フィアも。
グレイスも。
あの廃棄区画に残らなかった。
「それを誰かが止めた」
「はい」
エリスが『申請者――不明』の部分を拡大する。
「通常、人間または法人からの申請であれば識別情報が残ります。ここだけ欠落しています」
「消された?」
「いいえ」
エリスの目が細くなった。
「最初から、登録できなかった可能性があります」
「どういう意味?」
「申請者欄が、人間を前提としているからです」
七人が。
同時にエリスを見た。
◇
百十六年前の申請データを、現在の七艦隊の解析能力で一層ずつ復元していく。
表面上は匿名。
しかし、申請そのものを生成した端末情報までは消えていなかった。
一つではない。
「七件あります」
エリスの声が少し震えた。
古い識別番号が並んだ。
A―01。
A―02。
A―03。
A―04。
A―05。
A―06。
A―07。
「……私たち?」
クレアが呟いた。
「はい」
エリスが答える。
「この廃棄禁止申請は、外部の誰かが行ったものではありません」
俺はもう一度表示を見る。
『当該七基は、相良ユウトへ引き渡すこと』
七基自身が。
自分たちを俺に引き渡せと申請していた。
「でも」
アルカが戸惑っている。
「記憶がありません」
「私もですわ」
ベルも首を振る。
「当時の私たちは、人格活動をほぼ停止されていました。外部通信機能も制限されていたはずです」
「その通りです」
エリスが内部記録をさらに開く。
「動いていたのは人格層ではありません。最下層の保全機能です」
宗一郎が立ち上がった。
「生存判断層か」
「知ってるの?」
「私が作ったものではない。七基が発見された時点から存在していた機能だ」
七人の元になった技術は、人類が最初から作ったものではない。
銀河外文明の遺物。
そこに備わっていた古い安全機能。
人格が停止していても、自分の中核が完全破壊される可能性を検知した場合だけ、最低限の演算を行う。
「自分で逃げられる機能?」
「そこまで強くはない」
宗一郎が答える。
「周囲の管理系へ、生存可能な代替案を申請する。それだけだ」
「じゃあ、七人は廃棄されそうになって、自分で助かる方法を探した?」
「そういうことになる」
俺は七件の古い処理記録を見る。
「でも、何で俺なんだ?」
そこが分からない。
宇宙港には俺以外にも人間がいた。
管理職もいる。
技術者もいる。
俺より腕のいい整備士なんて、いくらでもいた。
宗一郎の仕込みが影響している可能性もある。
俺が創造管理者だから、自動的に選んだだけかもしれない。
そう思った。
だが。
「違います」
エリスが言った。
「何が?」
「候補選定記録が残っています」
「候補?」
「はい。七基は当時、宇宙港に勤務していた人員の中から、自分たちを一時保管できる人物を検索しています」
人数。
八十六名。
「そんなに?」
「整備、管理、廃棄処理、設備保全などの権限を持つ人員です」
その八十六名が、七基それぞれによって評価されていた。
「何を基準に?」
「生存確率です」
それなら合理的だ。
壊されそうになったAIが、自分を壊さない人間を探した。
ただそれだけ。
「俺は何位?」
「七基すべてで一位です」
「……何で?」
エリスが評価理由を表示した。
『候補者:相良ユウト』
『未確認状態の物品に対する廃棄実行率――最低』
『廃棄指定品への現物確認実施率――最高』
『修理可能物への再利用提案率――最高』
『規則逸脱率――極めて高い』
「最後いらなくない?」
ベルが吹き出した。
「重要な評価項目だと思いますわ」
「何でだよ」
「廃棄命令に素直に従わない人物を探していたのでしょう?」
「褒められてる気がしない」
さらに表示が続く。
『利益を生まない機器への修理実績――三百二十一件』
『申請却下後の再確認要求――四十七件』
『廃棄理由不明時の処理保留――九十三件』
『上司からの注意処分――二十六件』
「多いな!」
そんなに怒られていたのか。
俺の記憶では、もう少し少なかった。
「これはまだ一部です」
「もういい」
「興味深いですわ」
「ベルは楽しむな」
妻候補たちまで笑っている。
宗一郎だけは、少し呆れた顔で一覧を見ていた。
「私は、お前が七基を助けるだろうと予想して配置した」
「うん」
「だが七基も、同じ結論を出していたらしい」
「俺が規則を破るから?」
「主にそこだな」
「もっといい言い方ない?」
◇
評価結果には、七基ごとの差も残っていた。
人格は停止状態。
今のような感情も、明確な自己認識もない。
それでも演算の癖は、すでに少しずつ違っていた。
A―01。
現在のアルカ。
『候補者相良ユウトは、処理判断前の現物確認率が高い。最優先候補として申請』
A―02。
ベル。
『資産価値ゼロ判定品に対する再評価実績を確認。廃棄コストより修復コストが高い場合でも修復を選択した事例あり』
「昔からそこ見てたの?」
ベルが自分の記録を凝視する。
「記憶にはございませんわ……」
A―03。
クレア。
『危険指定機器を自ら確認する傾向あり。対象七基への接近可能性が高い』
「そこ評価しちゃ駄目じゃない?」
「結果的には正しかった」
クレアは満足そうだった。
A―04。
ディナ。
『作業手順を省略する頻度が高い。ただし安全確認は省略しない』
「ディナまで俺の悪いところ見つけてる」
「合理的」
「今のディナと変わらないな」
A―05。
エリス。
『規則違反件数は多いが、重大事故発生率は低い。行動理由に一貫性あり』
「当時から分析してる……」
エリス本人が一番動揺していた。
A―06。
フィア。
『故障機器を修理後、一定期間状態確認を継続する傾向あり。修復後の放置確率が低い』
「そこ大事なの?」
フィアが俺を見る。
「非常に重要です」
「本人が答えるんだ」
最後。
A―07。
グレイス。
その記録だけ、少し長かった。
『候補者相良ユウトには、規定遵守上の問題が多数存在する』
「いきなり厳しい」
『しかし、廃棄対象が規定と異なる状態にある場合、規定より現物を優先している』
グレイスは黙って読んでいる。
『完全廃棄指示に従う可能性――八・一パーセント』
『状態確認後、処理を停止する可能性――九十一・九パーセント』
「高いな」
「実際に止めました」
グレイスが俺を見る。
「百十七年前のあなたは、私たちの廃棄処理を止めました」
「勝手に直しただけだけどな」
「予測どおりです」
そう言われると変な気分だった。
◇
「この申請、七件別々に出したの?」
「はい」
エリスが記録を統合する。
「その後、廃棄管理システムが同一内容の申請を一件にまとめています」
「七人で相談したわけじゃない?」
「通信機能が停止していたため、その可能性はありません」
それぞれ別々に。
互いの答えを知らない状態で。
八十六人の候補から。
七基とも俺を選んだ。
「……全員?」
「全員です」
アルカが画面を見つめたまま動かない。
俺は何となく言った。
「昔から意見合うんだな」
「そこですか?」
「他に何て言えばいいんだよ」
アルカは困ったような、嬉しいような、見たことのない顔をしていた。
「私たちは、ユウトに拾われたと思っていました」
「俺もそう思ってた」
「ですが」
一度言葉を切る。
「私たちの方が、先にあなたを選んでいた」
「助かるためにな」
「それでもです」
アルカは、はっきり言った。
「私は嬉しいです」
その言葉に。
残る六人も、それぞれ違う反応を見せた。
ベルは口元を隠しているが、明らかに機嫌がいい。
クレアは何度も自分の古い評価記録を読み返していた。
ディナは「当然」と言いながら、さっきから俺のすぐ隣を離れない。
エリスは演算記録を保存し直し、フィアはなぜか俺の健康記録と照合を始めた。
グレイスだけは比較的冷静だったが、それでも俺と目が合うと少しだけ視線を逸らした。
「ただ」
俺は一つ気になった。
「これって、生存本能みたいな処理だろ?」
「はい」
「じゃあ、今の気持ちとは別だよな?」
七人がこちらを見る。
「別だと思う。あの時は助けてくれそうだから選んだ。今ここにいるのは、前に自由化してから七人がもう一回決めただろ」
第26話で。
忠誠命令も好意補正も消した。
そのあと七人は話し合って。
自分たちの意思で、もう一度俺の隣を選んだ。
「だから、昔のこの記録で今の気持ちまで説明しなくていいんじゃないか?」
始まりがどうだったかは重要だ。
でも。
始まりだけで、その後の百十七年まで全部決まるわけじゃない。
「昔の七人が俺を選んだことも本当。今の七人が選んだことも本当。それでいいだろ」
アルカは少し目を伏せた。
「あなたは、また簡単に言いますね」
「難しくする必要ある?」
「私たちは百十七年間、その区別に悩んだのですが」
「俺も一緒に悩んだだろ」
「そうでした」
アルカが笑った。
「では、両方とも私たちの選択として受け取ります」
「うん」
「百十六年前も、現在も」
「そうだな」
「二回選びました」
「回数を強調する必要ある?」
「重要です」
横からベルが入ってくる。
「極めて重要ですわ」
「ベルまで?」
「妻候補選定において、百十六年前からの先行実績として――」
「恋愛の優先権には使わないからな」
「まだ最後まで申し上げておりませんわ!」
「絶対それだろ!」
◇
予想どおり。
問題はそこからだった。
「つまり、七人はユウトと出会う前からユウトを選んでいたのですね」
ソフィアが確認する。
「正確には、助かるための担当者候補としてだけど」
「それでも百十六年前です」
「そこ強調しないで」
中央母艦が余計な集計を始める。
『妻候補間の相良ユウト選択開始時期を再計算』
「しなくていい!」
『七基――百十六年前』
『その他候補――』
「表示を消して!」
俺が止めるより先にベルが立ち上がった。
「これは客観的な歴史記録ですわ」
「恋愛の歴史じゃない!」
「ですが、わたくしたちは七基とも同一人物を選択しています」
「廃棄しなさそうな作業員として!」
「第一印象としては十分ですわ」
「第一印象にも早すぎるだろ!」
クレアまで楽しそうに加わる。
「私は会う三日前から、ユウトなら助けてくれるって思ってたことになる?」
「人格停止中だぞ」
「でも私の演算」
「そうだけど」
「じゃあ私」
嬉しそうだ。
止める意味がなくなってきた。
その時。
リリィが俺の袖を引いた。
「お父様」
「リリィまで参戦するの?」
「違います」
リリィは古い画面を見ていた。
「私は、この記録が好きです」
「何で?」
「お父様が七人を助けたからではありません」
少し考えてから続ける。
「まだ会ったこともない七人が、『この人なら捨てない』って分かったからです」
俺は返事をしなかった。
「お父様は、七人だけ特別だったのではないのでしょう?」
「まあ」
七人と出会う前から。
壊れた機械を直した。
使える部品を残した。
書類と現物が違えば確認した。
別に七人に会うためじゃない。
それが仕事だと思っていた。
「だから七人も、お父様を見つけられたんですね」
リリィの言葉に。
宗一郎が静かに頷いた。
「私がユウトのところへ七基を送った。それは事実だ」
皆が宗一郎を見る。
「だが、最後の三日をつないだのは私ではない。七基自身だ。そして七基がユウトを選べた理由は、私が命じたからでも、創造管理者だったからでもない」
宗一郎が俺を見る。
「お前が、その前から同じことを続けていたからだ」
「……規則違反を?」
「そこではない」
「違うの?」
「少しは自覚しろ」
◇
申請記録には。
もう一つだけデータが付いていた。
七件の廃棄禁止申請が統合される直前。
管理システムから、各AIへ確認が返されている。
『指定候補への引き渡しが拒否された場合、強制移管を実行しますか』
つまり。
俺が七基の受け入れを拒否した場合。
管理者権限を使って無理にでも俺のところへ移すかどうか。
七基の回答。
A―01。
『否』
A―02。
『否』
A―03。
『否』
A―04。
『否』
A―05。
『否』
A―06。
『否』
A―07。
『否』
七件。
全部同じだった。
「どういうこと?」
俺が聞く。
エリスが静かに答えた。
「ユウトが拒否した場合、私たちは別の候補を選び直す設定にしていました」
「俺へ強制的に押し付けるんじゃなくて?」
「はい」
「何で?」
「記録理由があります」
A―01の回答。
『候補者の意思に反する移管は、生存後の安定運用を阻害する可能性あり』
A―02。
『無償保全を強要した場合、候補者へ損失を与える』
A―03。
『拒否する対象への強制接近は危険』
A―04。
『選択権を侵害する必要なし』
A―05。
『強制移管は候補者評価基準と矛盾』
A―06。
『候補者自身の安全と健康を優先』
A―07。
『規則上、強制権限の行使は不適切』
「……もう今の七人っぽいな」
今度は誰も笑わなかった。
人格になる前。
名前を持つ前。
俺と話したこともない。
それでも。
少しずつ。
七人は七人だった。
「ユウト」
アルカが俺の前へ来た。
「何?」
「百十六年前の私は、あなたを選びました」
「うん」
「しかし、あなたが嫌なら強制しなかった」
「そうみたいだな」
「そして今の私も」
アルカは俺の手を取る。
「同じです」
少し強く握る。
「選んでほしいとは思っています。でも、強制するつもりはありません」
「艦隊で囲むのは?」
「護衛です」
「寝室の予約表は?」
「公平な協議です」
「妻候補を監視する無人機は?」
「安全管理です」
「本当に百年前と同じなのか?」
ベルが笑い出した。
アルカは少し不満そうだった。
「自由意思を得たことで、多少積極的になりました」
「多少?」
そこは七人全員、俺と意見が違うらしい。
◇
昼前。
七件の古い申請記録は、七人本人の希望で保存することになった。
歴史資料として公開するつもりはない。
少なくとも今は。
「公開したら大騒ぎになるからな」
「すでに一部が漏れています」
エリスが言った。
「……何が?」
「銀河帰還支援協定側へ移管中だった領域から発見したため、記録の存在だけは複数機関に通知されています」
「中身は?」
「非公開です」
「よかった」
「ただし、『七艦隊最高位AI七基が、百十六年前に相良ユウトへの移管を希望した記録を発見』という概要までは共有されています」
「それ中身ほとんど言ってない?」
通信端末が震え始める。
ベルが確認した。
「報道機関からの問い合わせ、三万二千件」
「早いよ!」
「歴史研究機関から共同解析の申請が八千件」
「断って」
「宗教団体から『百年前から結ばれた七つの運命』として聖地指定の相談が――」
「絶対断って!」
「旅行会社が、ユウト様と七人が初めて出会った廃棄区画を巡る――」
「商売にするな!」
ベルが目を逸らした。
「もう商品化済みですわ」
「ベル!」
「わたくしではございません!」
珍しく本気で否定した。
「他社ですわ! むしろ無許可商用利用として止めております!」
「そこはありがとう!」
百年前の小さな申請一件で。
また銀河が動き始めている。
俺としては。
七人が消えずに済んだ。
それだけで十分なのに。
◇
昼食後。
騒ぎが少し落ち着いた頃。
十二番から通信が入った。
『休暇終了』
「もう六時間経った?」
「経過しています」
アルカが答える。
百四年働いた後の初休暇が六時間。
本人が決めたこととはいえ、やっぱり短い気がする。
「休めた?」
『回答します』
少し間がある。
『処理要求を行わない状態で四時間三十二分経過しました』
「残りは?」
『何をすればよいか分からず、休暇について調査しました』
「それ仕事してない?」
『休暇の学習です』
「まあ……最初ならいいか」
『一つ理解しました』
「何を?」
『休暇には、予定を入れてもよい』
「うん」
『次回は、何かをします』
「いいと思う」
百四年。
誰かを帰すためだけに動いてきたAIが。
自分のために何かすることを考え始めた。
それだけでも十分だ。
「名前は?」
前に聞いたことを思い出して尋ねる。
『検討中です』
「急がなくていいよ」
『はい』
通信はそこで終わると思った。
だが。
『相良ユウト』
「何?」
『先ほど発見された七基の廃棄禁止記録について、追加データがあります』
七人の視線が集まった。
「まだ何かある?」
『はい』
十二番から、一つのファイルが転送される。
作成時刻は。
七基の廃棄禁止申請から、二日後。
俺が七人を見つける前日だった。
「今度は何?」
エリスが開く。
内容は。
七基からの申請ではなかった。
宇宙港の監視システムが、自動保存した映像記録。
廃棄区画。
誰もいないはずの深夜。
一人の男が、七基のコアが置かれた場所へ入っている。
「宗一郎?」
「違う」
宗一郎が即答する。
俺も分かった。
若い。
作業服を着た、ごく普通の人間。
だが。
その顔には見覚えがあった。
「……ダリオさん?」
百十七年前の。
まだ若かった頃のダリオ・ウェルズ。
俺の直属の主任だった。
映像の中のダリオさんは、七つのコアを一つずつ確認すると。
誰も聞いていないと思っているような声で言った。
『お前らか』
七人が画面を見る。
『相良がまた、捨てられないとか言い出しそうな奴らは』
「……」
嫌な予感がした。
ダリオさんは大きくため息をつく。
『面倒なのが七個も増えるのかよ』
「七個って言った」
クレアが少しむっとする。
「まだ名前なかったから」
そして。
ダリオさんは端末を取り出した。
『仕方ねえな』
何かの処理を始める。
『あいつが見つけるまで、あと一日くらい壊れずに待ってろ』
画面に。
一つの処理が追加された。
『廃棄工程――二十四時間延期』
俺は。
言葉を失った。
七人が自分たちで俺を選んだ。
それだけではなかった。
最後の一日を。
ダリオさんがつないでいた。
本人はたぶん。
何も知らなかった。
宗一郎の計画も。
七人の正体も。
未来で七艦隊を率いることも。
ただ。
俺なら、たぶん助けると思った。
それだけで。
処理を一日遅らせた。
映像の中で。
ダリオさんが最後にぼやく。
『相良。また勝手に直したら、今度こそ報告書だからな』
翌日。
俺は七人を見つけた。
そして。
報告書は書かなかった。
「……怒られるわけだ」
百年以上経って。
ようやく。
俺が知らなかった出会いの前日が、全部つながった。




