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第65話 百四年間俺を待っていた名無しのAIに会ったら、銀河中の『帰れない』を一人で繋いでいました

『相良ユウトの帰還を確認した場合、私へ知らせてください』


 百四年間。


 ただそれだけの文章を送り続けていたAIの発信地点は、中央母艦からそれほど離れていなかった。


「第三旧航路、第六中継点。現在は航路標識としても使用されていません」


 エリスが星図を拡大する。


 そこに表示された施設を見て、俺は少しだけ眉を寄せた。


「これ、中継基地っていうより……ただの通信ブイじゃない?」


「元はそうです」


 直径六十メートルほど。


 大型船なら格納庫にも入れられそうな、小さな設備だった。


 百年以上前にはノア・ポート周辺の航路情報を中継していたらしいが、新航路の開通に伴って役目を終えている。


 普通なら、とっくに撤去されている。


「なぜ残っているのです?」


 ベルの問いに、エリスが記録を切り替えた。


「撤去申請は五回出されています」


「五回?」


「はい。ただし、そのたびに別の救難設備から『当該中継点を経由中』という記録が返され、撤去が保留されています」


「百年以上?」


「百四年間です」


 嫌な予感がした。


「もしかして、このAIが自分で撤去を止めてた?」


「いいえ」


 エリスは首を振った。


「自分自身の存続を理由にした申請は一件もありません」


「じゃあ何を理由に?」


「接続中の救難記録です」


 画面に数字が出た。


 現在接続数。


 一万八千四百二十二。


「……何の数?」


「このAIを経由している旧式救難設備です」


 俺はもう一度数字を見た。


「通信ブイ一個に?」


「正確には違います」


 アルカが説明を引き継いだ。


「この施設を起点として、閉鎖施設や旧式ビーコン、廃棄予定だった通信機器が互いに接続されています。対象AIは自分自身の処理能力が不足するたび、使用可能な旧設備へ通信処理を分散させてきたようです」


「勝手に増殖したってこと?」


「自己複製とは異なります。同一人格をコピーしているわけではありません。使われなくなった設備を中継器として再利用し、自分は経路制御だけを担当しています」


 つまり。


 捨てられるはずだった通信機を拾って。


 まだ使えるならつないで。


 届かなかった救難信号を次へ渡して。


 また届かなければ、その次へ渡した。


 百四年間。


「……俺より管理人やってない?」


 誰も否定しなかった。


     ◇


 現地へ向かうと言ったら、今度は七艦隊全部が付いてくることにはならなかった。


 第64話で決めたことを、アルカたち自身が守ったからだ。


 救難案件は一人で抱えない。


 必要な人間だけで対応する。


 今回は救助そのものではなく、古いAIとの接触と設備確認が中心なので、俺とアルカ、エリス、それに技術班数名だけで小型艇を出すことになった。


 出発前。


 リリィが俺の袖を掴んだ。


「お父さん、今日も帰ってくる?」


「帰ってくるよ」


「何時?」


「夕飯までには」


「昨日も言った」


「昨日は帰っただろ?」


「うん」


 それだけ確認すると、リリィは満足したらしい。


 隣にいたハルも頷き、アカリはなぜか指を一本立てた。


「遅れたら、おかず一個もらう」


「罰が軽いな」


「二個!」


「増えた」


 そんなやり取りをしている横で、アルカが静かに端末へ何かを記録している。


「何してる?」


「最高司令官帰宅予定、夕食前」


「艦隊の正式予定に入れなくていい」


「家族予定です」


「それなら……まあいいか」


 百十七年前の俺なら、帰宅時間なんて自分でも分からなかった。


 今は待っている人がいる。


 それを意識するようになっただけでも、少しは変わったのかもしれない。


     ◇


 第三旧航路の第六中継点は、想像以上に古かった。


 外殻には何度も補修された跡があり、規格の違う通信装置が継ぎ足されている。


「これ、最初の形ほとんど残ってないな」


「改修記録は九百十二件あります」


「誰が直したの?」


「その大部分が不明です」


 エリスが外部記録を確認する。


「通りかかった輸送船、救難艇、個人所有船、鉱山作業船などが、必要な部品を交換しています。正式な整備契約が存在した期間は三年だけです」


「その後百年以上、通りすがりが直してたの?」


「はい」


 何だそれ。


 けれど、少し分かる。


 航路の途中に古い通信ブイがあって、そこから救難信号が流れている。


 壊れかけている。


 自分の船に余っている部品で直せそうなら。


 たぶん俺も直す。


「ユウト」


「何?」


「顔が嬉しそうです」


 アルカに言われた。


「そう?」


「はい」


 古い機械だからだろうか。


 それとも。


 知らない人たちが百年以上かけて、一つの設備を少しずつつないできたことが嬉しいのかもしれない。


 俺たちの艇が接近すると、施設側から自動応答が返った。


『接近船を確認』


『識別照会』


 エリスがこちらを見る。


「ユウト本人の旧識別情報を送信します」


「お願い」


 百十七年前の職員証記録。


 今の最高司令官識別。


 生体情報。


 旧記録との照合結果。


 いろんな情報が送られた。


 十秒。


 二十秒。


 返事がない。


「壊れてないよな?」


「処理は継続しています」


 さらに十秒ほど経った時。


 通信画面に一行だけ表示された。


『照合不能』


「あれ?」


 エリスがすぐに再確認する。


「一致率は十分です。旧記録とも九十九・九九パーセント以上――」


 次の文章が表示された。


『相良ユウトは百十七年前に行方不明』


『現在個体を相良ユウト本人と断定する根拠不足』


「……慎重だな」


「非常に」


 エリスが少し楽しそうだった。


 俺は通信を開いた。


「じゃあ、何を確認すればいい?」


 数秒後。


『質問します』


「どうぞ」


『ノア・ポート旧第三区画、廃棄処理端末七号の音声出力が故障した際、相良ユウトが最初に実施した処置は?』


「そんなの本人確認に使う?」


 アルカを見る。


「私は知りません」


「私も記録にありません」


 百十七年前の、それも仕事中の小さな出来事だ。


 俺は記憶を探した。


「……叩いた」


 沈黙。


「いや、強くじゃないぞ。側面を軽く。接触不良だったから」


『続けてください』


「それで一瞬直ったから、端子抜いて清掃して、予備ケーブルに交換した」


『作業終了後、端末へ発言した内容は?』


「覚えてないよ、そんなの」


『回答を要求します』


「百十七年前だぞ?」


 通信相手は譲らなかった。


 俺は考える。


 廃棄処理端末七号。


 音声が途切れる。


 端子を直す。


 確か。


「ああ……『喋れないだけで廃棄申請出すなよ。仕事はできてるだろ』かな」


 通信が止まった。


 アルカとエリスまで黙っている。


「何?」


「いえ」


 やがて。


『本人確認完了』


 表示が切り替わった。


『おかえりなさい』


 たった六文字だった。


 でも。


 百四年間待っていた相手から言われると、思ったより重かった。


「……ただいま」


 俺は自然に答えていた。


     ◇


 ドッキング許可が出た。


 中へ入って最初に驚いたのは、人間が滞在することをほとんど想定していない施設だったことだ。


 通路は狭い。


 重力制御も最低限。


 空調は動いているが、居住区はない。


「AI本体は?」


「最深部の旧制御室です」


 エリスに案内されて進む。


 扉を開くと。


「……これ?」


 そこにあったのは、巨大な量子演算装置でも、人型端末でもなかった。


 古いラックが三列。


 交換された記憶媒体。


 規格の違う演算装置が何十個も無理やり接続されている。


 配線なんか、整理した人間を呼び出して説教したくなる状態だった。


「これ誰が配線した?」


「百年以上にわたる複数の整備者です」


「あとで整理していい?」


「ユウト」


 アルカがすぐ止めた。


「今日は確認だけです」


「見るだけだから」


「工具を持っていますね?」


「……何で分かった?」


「ダリオ様のお言葉をもう忘れたのですか?」


 百四年前の上司にまで監視されている気分になった。


 そんな俺たちの会話を聞いていたのか。


 制御室のスピーカーから声がした。


『相良ユウト』


 合成音声だった。


 女性でも男性でもない。


 百年以上前によく使われていた、感情表現をほとんど持たない業務用の声。


「うん」


『帰還を確認しました』


「待たせたな」


『はい』


「そこは否定しないんだ」


『百四年間待機しました』


「ごめん」


『謝罪は不要です。待機は私が選択しました』


 その言葉に。


 七人のことを思い出した。


 命令ではない。


 今も続けているのは、自分が選んだから。


「名前、聞いていい?」


『個体識別名はありません』


「型番は?」


『NPA交通管理補助系統、旧式第三世代。製造番号は――』


「長いな」


『はい』


「ダリオさんたちは何て呼んでた?」


 少し間があった。


『十二番』


「名簿の?」


『はい。人間十一名の後に参加したため、十二番と呼称されました』


「そのままだったのか」


『運用上問題はありませんでした』


 俺には少し問題があった。


 百四年間。


 数えきれない救難信号を次へ渡して。


 人間たちが死んだ後も。


 設備が壊れれば、近くの船へ修理依頼を出し。


 自分の演算能力が足りなくなれば、捨てられた通信機器を再利用して。


 ずっと働いてきた。


 それなのに。


 十二番。


「何でダリオさんたちに参加したの?」


『質問の意図を確認します』


「救難支援。命令された?」


『いいえ』


「仕事だった?」


『いいえ。当時の私の正式業務は航路中継設備の維持管理です』


「じゃあ、何で?」


 返答まで少し時間がかかった。


『十三年前の記録を受信したためです』


「十三年前?」


『相良ユウト行方不明に関する記録です』


 俺のことだった。


『捜索終了予定を確認しました』


「それで?」


『記録上、あなたは死亡推定へ移行する予定でした』


「うん」


『しかし、死亡を示す情報は存在しませんでした』


 俺は黙った。


『船体未発見。遺体未発見。最終位置未確定。救難信号未受信。以上の状態で死亡処理へ移行することは、確認不足と判断しました』


 アルカが、小さく息を呑んだ。


 俺には。


 その言葉に覚えがあった。


「……誰に教わった?」


『相良ユウト』


 やっぱり。


『廃棄処理端末七号の音声出力故障時、あなたは発言しました。「喋れないだけで廃棄申請出すなよ。仕事はできてるだろ」。その後、複数回にわたり廃棄処分記録と実物状態の不一致を指摘しています』


「そんなの見てたの?」


『航路管理記録の一部として保存されています』


「恥ずかしいな……」


『ダリオ・ウェルズは、あなたの捜索終了に異議を申し立てました』


 その光景を想像する。


 たぶん怒っただろう。


 書類を持って。


 いつもの不機嫌そうな顔で。


『私は彼へ、未確認状態であると伝えました』


「それが最初?」


『はい』


『ダリオ・ウェルズは回答しました。「じゃあ、確認できるまで残しとけ」』


 俺は笑ってしまった。


「言いそう」


『その後、同様の未確認案件が他にも存在することを発見しました』


 俺だけじゃなかった。


 だから。


 十二人は始めた。


     ◇


「百四年間、何件扱った?」


『質問範囲を指定してください』


「帰還支援全部」


『現在確認可能な範囲では、四百二十七万八千六百九十一件』


 俺は聞き間違えたと思った。


「四百万?」


『はい』


 エリスがすぐに記録を照合する。


「事実です。ただし、すべてが遭難者の救助ではありません。誤信号、位置情報の補正、他組織へ引き渡した案件なども含まれています」


「実際に人が助かった数は?」


『直接的な因果関係を証明できません』


「推定でいい」


『帰還支援網の信号を受信した救難機関によって生存確認された人数は、少なくとも二百八十一万四千九十三名』


 誰もすぐには喋らなかった。


 二百八十万人。


 でも十二番の声は変わらない。


『私が救助したのではありません』


「え?」


『私は信号を次へ渡しただけです。救難艇を操縦した者、医療処置を行った者、設備を修理した者、食料を提供した者、行方不明者を待ち続けた者が存在します』


 ダリオさんと同じだった。


 一人で助けたわけじゃない。


 届かなければ次へ渡す。


 自分にできないなら、できる誰かへ。


「そうだな」


『はい』


「でも、その中に十二番もいる」


 返事が止まった。


「信号を渡す奴がいなかったら、誰も迎えに行けなかっただろ」


『……』


「だから十二番もやった。それでいいと思う」


『評価処理に必要な基準がありません』


「別に点数付けなくていいよ」


 俺は古いラックを見る。


「ありがとう」


 また沈黙があった。


 業務用AIなのに。


 返事を探しているように見えた。


『……受領します』


「うん」


     ◇


 本題はここからだった。


「俺が帰ったら知らせてくれって、何のためだった?」


『引き継ぎのためです』


「帰還支援網を?」


『はい』


「俺に?」


『いいえ』


 即答された。


「違うの?」


『ダリオ・ウェルズから、相良ユウトへ全案件を渡すことを禁止されています』


「ダリオさん……」


 死んでから百年以上経っても徹底している。


『指示内容を再生します』


 古い音声が流れた。


『あいつが戻ってきても、全部押し付けるな。絶対に自分でやろうとするからな』


「……」


 アルカが顔を背けた。


 たぶん笑っている。


『相良ユウトが帰還した場合、帰還支援がまだ必要かどうかを確認しろ。必要なら、その時代の連中へ渡せ。あいつには「まだ続いてるぞ」とだけ教えろ』


「完璧に読まれてるな」


『はい』


「十二番まで同意しなくていい」


 それでも。


 ちょうどよかった。


 昨日、俺たちも同じ結論を出したばかりだ。


「今、銀河帰還支援協定っていうのを作ってる」


『受信しています』


「十二番が持ってる経路も、そっちへ引き継げる?」


『可能です』


「全部一気に停止しなくていい。新しい設備が受け取れたところから、少しずつ渡そう」


『了解しました』


「十二番自身はどうしたい?」


『質問の意味を確認します』


「引き継ぎが終わったあと」


 また返事が遅れた。


『私の任務は終了します』


「任務じゃなくて」


『……』


「十二番は、そのあと何したい?」


 百四年間。


 きっと誰にも聞かれなかった質問だった。


 アルカもエリスも、何も言わず待っている。


 やがて。


『回答不能』


「分からない?」


『はい』


「じゃあ今決めなくていいよ」


『しかし、目的を失ったAIは――』


「別に失ってから考えてもいいだろ」


『……』


「百四年働いたんだから、しばらく何もしなくてもいいし」


『何もしない状態を想定した運用記録がありません』


「じゃあ練習しよう」


『何をですか』


「休むの」


 アルカが俺を見た。


「ユウト」


「何?」


「昨日まで休ませられていた本人が、百四年間働き続けたAIに休暇を勧めています」


「俺より働いてるだろ」


「比較対象としては正しいですが、説得力について検討が必要です」


「そこはいいだろ」


 スピーカーから。


 ほんのわずかに。


 音声処理の乱れみたいなものが聞こえた。


 笑ったわけではない。


 業務用AIに、そんな機能はないはずだ。


 でも。


『検討します』


 さっきまでより。


 少しだけ返事が柔らかく聞こえた。


     ◇


 帰る前に。


 俺は一つだけお願いした。


「十二番って呼び方、嫌じゃない?」


『不都合はありません』


「名前欲しい?」


『必要性を確認できません』


「必要じゃなくても持ってていいよ」


『相良ユウトは、人工知能へ名前を付与する傾向があります』


「……記録されてるの?」


『七件確認しています』


 アルカが隣で微笑んでいる。


 完全に七人のことだ。


「でも、勝手には付けない。欲しくなったら言って」


『了解しました』


「自分で決めてもいいし」


『自分で?』


「うん。今はそういう時代らしいから」


 七人も。


 百十七年の間に、自分で選ぶことを覚えた。


 十二番にも、それがあっていい。


『検討項目へ追加します』


「そんな業務みたいに」


『他の方法を知りません』


「じゃあ、それもこれから覚えればいい」


 俺たちは艇へ戻った。


     ◇


 中央母艦へ着いたのは、夕食の三十分前だった。


 約束には間に合った。


「お父さん!」


 ドッキング区画を出たところで、アカリが走ってくる。


「帰ってきた!」


「帰るって言っただろ」


「おかず取れない」


「そこ残念そうにするなよ」


 リリィとハルも来る。


 その後ろには妻候補たちまでいた。


「全員で迎えに来なくてもいいだろ」


「十四名全員ではありません」


 ソフィアが言う。


「七名です」


「十分多いよ」


 またこういう生活が始まる。


 百年以上待っていたAIを見たあとだと。


 帰った時に誰かがいるということが、いつもより少しだけありがたかった。


     ◇


 夕食の途中。


 エリスから通知が来た。


「十二番から通信です」


「もう?」


「はい。銀河帰還支援協定への第一段階移管を開始したとのことです」


「仕事早いな」


「それとは別に、ユウト個人宛ての通信があります」


「何?」


 表示を開く。


 文章は短かった。


『検討項目について回答します』


 その下。


『休暇を取得します』


「お」


 ちょっと嬉しい。


 百四年ぶりの休みだ。


 ところが続きがあった。


『休暇期間――六時間』


「短くない?」


 食卓から一斉に声が上がった。


「短いです」


「短すぎますわ」


「百四年働いて六時間は駄目」


 七人まで意見が一致している。


 俺は返信欄を開いた。


「じゃあ、一週間くらい休めって送るか」


「ユウト」


 アルカが俺の手を止めた。


「何?」


「本人の意思を尊重するのでしょう?」


「あ」


 そうだった。


 自分で言ったばかりだ。


「……じゃあ六時間でいいか」


「はい。最初は」


 俺は返信する。


『了解。ゆっくり休んで』


 少しして。


 十二番から最後の通信が来た。


『了解しました』


『なお休暇中の緊急連絡先として、相良ユウトを登録します』


「待って」


 さらに表示が増えた。


『現在接続中救難設備 一八四二二』


『緊急時のみ転送』


「俺に一万八千件来る可能性あるの!?」


 食卓でベルが吹き出し、ディナまで笑っている。


「笑ってる場合じゃないだろ!」


「大丈夫です」


 エリスが冷静に確認する。


「銀河帰還支援協定側にも同時転送されています。ユウト一人へ集中する構造ではありません」


「ならいいけど……」


 ダリオさんとの約束も守れている。


 一人では背負わない。


 できる奴へ渡す。


 それでいい。


 そう思った時。


 十二番から、もう一件だけ通知が入った。


 休暇開始処理ではなかった。


『旧救難網移管中、未登録領域を発見』


「また案件?」


「いえ」


 エリスの表情が変わった。


「救難記録ではありません」


 画面が開く。


 記録作成時刻。


 百十六年前。


 俺が事故に遭う、一年前。


 記録種別。


『廃棄禁止指定』


 対象。


『旧式AI七基』


 俺は手を止めた。


 アルカたちも。


 同時に画面を見る。


「……これ、七人のこと?」


「識別番号が一致します」


 エリスの声が低くなる。


 さらに。


 その廃棄禁止指定を申請した人物名が表示された。


 俺ではない。


 ダリオさんでもない。


 会社の上層部でもなかった。


『申請者――不明』


『申請理由――当該七基は、相良ユウトへ引き渡すこと』


 そして。


 申請日時は。


 俺が七人を初めて見つけるより、三日前だった。


 俺は画面を見つめた。


「……俺が拾う前から?」


 七人は。


 俺に拾われることを。


 誰かに決められていた。


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